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空海なら、現代日本で何をする?  作者: 宝蔵院胤舜
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空海は、現代日本で何をする?





平成二十六年(2014)二月末頃。

外は冷たい雨が降っている。俺は雨が苦手だ。俺の天パの髪の毛は、雨の湿気で一発でクリクリになる。基本的に短くしているのだが、雨が降ると、バケツにダイナマイトを入れて被ったような頭になってしまう。それさえ無ければ、雨も決して嫌いではないのだが。

今日はバイトは休みだったので、俺は一日部屋に閉じ籠っていた。もう夕方で、雨のせいもありすっかり暗くなっている。

「ただいま」

空海が帰って来た。手に下げた買い物袋に水滴がついている。

「空海、まだ降っとぉか?」

俺はタオルを渡しつつ、買い物袋を受け取った。

「まだしとしと降っとるで」

空海は体の水滴を拭いながら答えた。

「雨は苦手やなあ」

俺は言いながら袋の水滴を拭った。袋はけっこう重たい。

「雨に良いも悪いも無いけどな」

「そらそうやけど」俺は言いつつ、袋を覗き込んだ。「重たいな。何 ()うて来たん?」

袋の中には、小麦粉(強力粉)が1Kgひと袋と合挽肉、そしてもやしが入っていた。

「小麦粉?なんで?」

「餃子作ろうか思てな」

空海の答えに、俺は目を丸くした。

「ギョーザて、もしかして皮から作るつもりか?」

「そやで。長安ではよう食べたで」

空海は言いながら、靴を脱いでそのままエプロンを着ける。俺の手から袋を受け取ると、ボウルを出して目分量で小麦粉を入れた。こし網でだまを取ると、塩とサラダ油を少々加えてから水を入れつつ混ぜて、粉がまとまって来た所でこね始めた。

十分ほどこねた所で、大きな固まりを二つに分けて、ひとつずつラップでくるんだ。

「パン生地みたいやな」

俺がそう言うと、空海は笑って言った。

「似たようなもんや。これを三十分ほど寝かすから、その間に種作りや。弘史、フードチョッパー出して」

俺がフードチョッパーを取り出している間に、空海は冷蔵庫からキャベツとニンジン、玉ねぎ、ニラ、しょうが、ニンニクを取り出した。

俺がフードチョッパーを渡すと、空海はキャベツ、ニンジン、玉ねぎを手際良くみじん切りにして行く。それを見ながら、俺は袋の中から合挽肉のパックを取り出した。と、そのパックの表面に何か小さな袋がセロテープで貼り付けられていた。

「何やこれ?」

「八角や」

「ハッカク?」

「長安ではお馴染みの香り付けやで」

空海は挽肉を受け取ると、別のボウルにあけ、八角を少量のお湯に入れ、挽肉のボウルにぎざんだキャベツとニンジンと玉ねぎ、いつの間にか刻んだニンニクとしょうがを入れ、上からハサミで切りながらニラを入れると、塩こしょうを振りながら全体を混ぜ合わせて行く。途中で八角の汁とごま油を混ぜ込み、出来たものにラップを掛けた。

「今度はこっちを寝かす間に、皮作りや」

空海はまな板に打ち粉を撒いて、寝かしていた生地を取り出すと、二本とも棒状に伸ばしてから均等に切り分けた。それを麺棒で丸く伸ばす。

「弘史、鍋にお湯沸かして」

空海は種を取り出しつつ言うと、伸ばし終わった皮に包み始めた。バットは二つ出してあり、それぞれ十六個ずつ並べた。

沸いたお湯に塩を入れ、そこにバット一個分の餃子を放り込む。そのすぐ横にフライパンを置いて熱し始めた。

鍋の中の餃子が膨らんで来たのを、アク取りで湯切りしながらどんぶりに取り上げた。小鉢二つに黒酢とからしを入れる。

その間に熱くなったフライパンにごま油を引き、餃子を丸く並べて水を入れて蓋をした。ジュワーッと豪快な音がする。

別の小鉢二つに醤油、お酢、ラー油を入れ、タレを作ると、餃子が焼き上がる直前にもやしを湯通しする。

焼けた餃子を皿の上にフライパンを返して丸ごと置くと、ドーナツ型の真ん中の穴にもやしを盛った。

「餃子尽くし、完成や」

空海はグ〇ラベをテーブルに置いて席に着いた。

「案外早よう出来たな」

「唐では焼き餃子は無かったけどな」

「そうなん?」

「大概茹でるか蒸すかやからな」

「この焼き方って、浜〇やんな?」

「この間テレビでやっててん」空海は笑って言った。「さて、熱いうちに食べよや」

空海はそう言うとグ〇ラベを開けた。俺もグ〇ラベを開けると、手を合わせた。

「いただきます」

「どうぞ」

先ず、茹で餃子を黒酢につけて、口に運んだ。

「わ、皮モチモチや。中の種、独特な香りやな」

「八角は西域の定番や」

次いで、焼き餃子を食べる。

「何か、全然ちゃう料理やな。美味い。ビールが進むわ」

俺はグ〇ラベを呑んで、大きく溜め息をついた。

「どっちも美味いやろ」

「美味いな」

「でも、見てて判ったやろうけど、どっちも同じもんや」

「そやな」

「雨も、ええも悪いも無い、天の現象のひとつや。『それ(きょう)(しん)に随って変ず。心 (けが)るるときはすなわち境濁る。心は(ナ)境を()って移る。境 (しず)かなるときはすなわち心 (ほがらか)なり。心境 冥会(みょうえ)して道徳 (はるか)に存す』やで」

「何か難しい事言うたけど、今日の餃子と関係あるか?」

「多分、あんまり無い思う」

「そやろな」俺は笑って餃子を食べた。「どっちみち、餃子は美味いで」




20190716



註:『それ境は心に随って変ず。心垢るるときはすなわち境濁る。心は境を逐って移る。境閑かなるときはすなわち心朗なり。心境冥会して道徳玄に存す』

『性霊集』巻二・十一

沙門勝道山水(さんすい)()玄珠(げんしゅ)(みが)()」より


「そもそも、環境はこころにしたがって変わるものである。こころが汚れていれば環境は濁るし、その環境によってまた、こころも移り行くことになる。静かな環境に入り、そこに身を置けばこころも清らかである。そして、こころと環境が合致し、互いが無心にひびき合うことができれば、万物の根源となる"自然の道理"とそのはたらきである"知"が自ずと発揮される。そこに悟りがある」と説く。

北尾克三郎 訳


北尾克三郎

1943年京都に生まれる。浪速短期大学(現大阪芸術大学短期大学部)デザイン美術科。大阪文学学校詩型科に学ぶ。1967年にアメリカ大陸横断旅行。その後、設計、環境デザイン、まちづくり、教育に従事。仏教哲学をライフワークとする。


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