恐いビデオ
この話は、私の後輩の母親の話がもとになっています。
空海は、現代日本で何をする?
恐いビデオ
平成二十六年(2014)二月末頃。
俺の住んでいるマンションはJ:C〇Mが入っていて、家賃に視聴料が含まれているので、地上波、BS以外でも六チャンネルぐらいケーブルテレビの番組を見る事が出来る。
そのチャンネルの中に『ファミリー劇場』というのがあり、古いドラマや古いバラエティ、ドリフなどを流している。
普段はあまりそういうのを観ない俺だが、今日はたまたまボタンに指が当たってしまい、ケーブルテレビの画面に切り変わってしまった。と、それが丁度『ファミリー劇場』で、今から始まる『"ほん 呪"シリーズ一気見スペシャル』のコマーシャルであった。
「何や"ほん 呪"て」
新しいグリラベを開けながら空海が言う。
「『ほんとうにあった〇いのビテオ』やて」俺も笑った。「何か、ヘンなものが映っちゃったみたいな奴やろ?」
「ヘンなものて何や?」
「ユーレイみたいな奴や」
「サチコみたいな?」
「第十五話(『少女』)参照な」
「誰に言うてんねん弘史」
「まあとにかく、昔は写真やったけど、最近ではスマホとかですぐ動画が撮れるさかい、心霊写真改め心霊動画てとこかな」
俺はそう言って、チャンネルをそのままにした。
「どんなんか、見てみたらどや?」
「そうやな。何やおどろおどろしい始まりやな」
空海は"ほん 呪"が始まったテレビに向き合うと、定番の柿の種とめざしを手元に引き寄せた。完全なる"視聴モード"である。俺も湯がいていたブロッコリーを上げて、皿に盛ってマヨネーズをたっぷりかけると、テーブルに置いて座椅子に座った。
"ほん 呪"は投稿された所謂"心霊動画"を集めた作品、という事なのだが、俺は思わず首をひねってしまった。何かこう、不自然というか、作り物っぽいというか、何ともしっくりこない感じなのである。
空海は、ニヤニヤ笑いながら何も言わずにテレビを見ている。
"ほん 呪"は一本が六十分と短いので、引き続き次の"ほん 呪"が始まった。空海は相変わらずニヤニヤしている。
「なあ空海」俺は半笑いで言った。「何か、ウソ臭いな、これ。投稿動画言うてるけど、結構作ってるっぽいし。フェイクドキュメントって奴かな」
「まあフェイクなんとかかどうかはよう判らんが」空海は肩をすくめた。「実際の投稿動画と、この作品用に作った動画を混ぜてるみたいやな」
「判るんか?」
「まあ、判るな」
「どう違うんや?」
「何と言うか、雰囲気やな」
「雰囲気かいな」
「霊的な波動て、写真とか動画とか関係ないんや。どんな形でも残るもんなんや」
「そんなもんか」
「そうや。例えば」空海は言いながら、画面を指差した。「今流れてる映像は、作ったもんや」
映像は、最後に白い着物を着た長い髪の女が映り込んで終わった。続いて夜の廃墟に入った映像が始まった。
「あ、これ本物や」空海は笑いながら言った。「もう少ししたら、あの奥の扉のトコから白い人影が出て来るで」
見ていると、確かに廊下の奥の扉の所から白い人影が出て来て、映像は終わった。
「あれ、本物のユーレイか?」
「何らかの事情であそこにおる霊体やな。別に変な奴やないけどな」
空海はそう言うと、動画を少し巻き戻した。
「あとな、本当は何物かが映ってるのに、気付かず編集してる奴もあるな」
「そんなんもあるんか」
「これなんかそうやな」
空海が再生を始めた動画は、男女二人が同棲しているマンションで、何か妙な事が起こるので動画を撮りながら調べる、というもので、リビングからキッチンに入り、炊飯器の蓋を開けたり、バスルームの扉を開けたりして、「何もいないな」と帰って来たリビングのカーテンの奥に女の姿が…という内容だった。その女は明らかに人間が演じているのが丸わかりである。
「これも少々残念な奴やな」
俺が言うと、空海は首を振った。
「この動画、恐いのはこの女ちゃうねん」
「どう言う事?」
俺の言葉に、空海はもう一度動画を巻き戻した。キッチンに入る所から再生する。
「ここ。この炊飯器の蓋開ける所。恐いのはここやねん。この場所に強くて禍々しいモノを感じるんや」
「と言う事は?」
「この動画は、最後に変なユーレイ入れなくても、ちゃんと"映っちゃった"奴やねん」
「見た目判らんけどな」
「それにしても」空海は動画を通常再生に戻した。「人間は恐いもん好きやな。わざわざこんな動画を作ったり集めたりして」
「自分の事やなければ、恐いのも楽しいもんやで」
俺は笑いながら言った。
「対岸の火事やな」
「"他人の不幸は蜜の味"言うもんな」
「人はどうしても、他人と比べて自分の境遇の優劣を考えてまうからな」
「まあ、他人が不幸なら"自分はまだましや"て思えるからな」
「自分の幸福は自分で決められるんやけどなあ」
空海は肩をすくめた。
「恐いものを求めるいう事は、それだけ普段は恵まれてるいう事やんな」
そう言った俺に、空海は頷きながら答えた。
「何事もフツーが一番や」
20190710




