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空海なら、現代日本で何をする?  作者: 宝蔵院胤舜
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誕生日

旬な内容なので、伏せ字多めで。

大筋で本当です。

作品の内容から、敬称略とさせて頂きます。

空海は、現代日本で何をする?



誕生日



令和元年(2019)六月中頃。

俺は空海と〇宮へ出て来た。地下鉄海〇線の〇宮〇時計前駅で降りると、『ジュン〇堂書店』がある『〇宮セン〇ープラザ』というアーケード街へは、『さ〇ちか』という地下街が連絡している。地上に出なくてもアーケード街まで行けるので、一度地下鉄に乗ってしまえば、一切雨風に打たれる心配は無い。

改札を出て、『さ〇ちか』への連絡通路へ行くと、『〇戸〇際会館』の地下入口の前を通る事になる。そこには、〇際会館でのコンサー卜等の告知のポスターが掲示されていて、これまでにも浜田省吾や久保田利伸、B'zなど、名だたるアーティストのライブが行われている。

いつも通り何気なくポスターを見た俺は、思わず立ち止まってしまった。

「なあ空海、『いろはまつり』やて」

ポスターには『いろはまつり 弘法大師 御誕生祭』とある。

「ああ。毎年やっとるらしいで。〇戸市内の真言宗のお寺が集まって、宗祖の誕生をお祝いする法要込みのイベントらしいわ。須〇寺でも宣伝してたで」

空海はさらっと言ったが、そこは俺が食い付いた。

「これって、空海の誕生パーティーって事やんな?」

「そうらしいな」

空海はしれっと答える。

「お、夢枕獏の講演もあるんや。『幻想神 空海』てタイトルやて」

「そう言えば、夢枕獏て『沙門空海 唐の国にて鬼と宴す』を書いた人やんな?」

「そうやで。おととし映画にもなっとったな。獏ええなあ。『キマイラ』とか『ミスター仙人』とか『陰陽師』とか、良う読んどったなあ」

「会いに来よか?」

空海に言われて、俺は目を丸くした。

「会えんの?それならサイン欲しいな」

「多分何とかなるで」

空海はニヤリと笑った。


六月十五日の土曜日。。

雨風の強い中、午後一時前に俺と空海は〇時計前で降りると、すぐ横の『そ〇う』の地下で買った『アン〇・シャルパ〇ティエ』を手土産に、エスカレーターで地上に出た。〇戸〇際会館のホール入口は、地上三階くらいの高さまで長いエスカレーターで昇った所にある。

エスカレーターに乗ろうとした俺は、乗り場のすぐ横で電話をしている人の顔を見て、慌てて空海を止めた。

「待て待て空海!」

「どしたん弘史」

「その人、獏ちゃうか?」

俺は声を潜めて言った。

「ああ、ホンマやな」

空海はそう言って、彼が電話を切るのを待って、声を掛けた。

「失礼ですが、夢枕獏先生ですか?」

「はい、そうです」

「私、〇戸真言宗連合会の者です。本日はおいで頂き、ありがとうございます。受付にご案内致しますので、どうぞこちらへ」

空海はあらかじめ決まっていたかのように、獏をエスコートしてホール入口の受付係の所まで案内した。獏はそのまま係のお坊さんに連れられて関係者用エレベーターの方へ行ってしまったので、俺達は一般入口のエスカレーターに乗り込んだ。

七階まで一気に昇る間、何人かお坊さんとすれ違ったが、空海は気さくに挨拶を交わしていた。

エスカレーターを昇り切ると、そこは大ホールの入口で、四国八十八ヶ所霊場のお砂踏みが出来るようにしつらえてあり、その最後には大師像が祀られていた。仏壇仏具の『〇屋』がブースを出していたり、黒い衣を着たお坊さん達が高野槙を売っていたり、と一般的なコンサートとはちょっと違う感が満載である。

空海は出会うお坊さん各々と挨拶を交わしながら楽屋の場所を聞き出し、躊躇なくバックヤードに入っていった。

長い廊下の両側に部屋が並んでいて、「本部」とか「職衆楽屋」とか張り紙がしてあった。その廊下の突き当たり、ステージ入口のすぐ横に「夢枕獏先生」の張り紙があり、丁度お坊さん二人が挨拶をしている所だった。

その二人が出て来た所を空海が捕まえた。

「〇原寺さん、〇珠寺さんこんにちは」

「おー、空海やないか。どしたん今日は?」

〇原寺さんが気さくに返して来た。

「今日は夢枕獏先生に会いに来ました。出来ればサインでも頂ければと」

「どうやろ?」〇原寺さんは少し困った顔をした。「講演前は時間を取りたい言うてたけど。あ、でもそれ、手土産やな」

「そうなんです」

「折角用意したんやもんなあ。ちょっと待ってな」

〇原寺さんはそう言うと、獏の控え室前にいた〇際会館の職員に声を掛けてくれた。職員さんが室内に声を掛けると、

「どうぞどうぞ、良いですよ」

と、中から声が聞こえて来た。

部屋の中に入ると、獏先生は立ち上がって出迎えてくれた。

「ああ、先程案内してくれた方ですね」

先生は気さくに言った。大ファンの俺は、頭の中が真っ白になってしまった。

「講演前のお忙しい時に、お時間を頂けてありがとうございます。お会い出来て良かったです。私、空海。こちらは立花弘史といいます」

空海は挨拶をしながら『ア〇リ・シャルパ〇ティエ』を手渡した。

「空海さんはお坊さんですね。また立派なお名前で」

先生は笑った。

「名前負けしないよう、精進しております」

空海もしれっと答えた。

「彼も私も、先生の大ファンで。『沙門空海 唐の国にて鬼と宴す』や『陰陽師』他にも色々と読ませて頂きました」

「『黄金宮』が大好きでした」

俺は何とか言葉を絞り出した。

「だいぶ前の作品ですね」

先生は笑って答えてくれた。

「それで、ぶしつけながら、こちらにサインを頂ければ、と思いまして」

空海は言いつつ、背負っていたザックから『沙門空海 唐の国にて鬼と宴す』第一巻と、『陰陽師』第一作目を取り出した。

「これはまた古い本ですね」

先生は嬉しそうに言いながら、二冊の本にサインをしてくれた。「立花」と名前まで入れてくれた。

俺は感激しながらそれを受け取った。

「ありがとうございます」空海は丁寧に礼をした。「宝物にします。では、講演も聞かせて頂きます。がんばって下さい」

「ありがとう」

「貴重なお時間をありがとうございました」

俺も深々と頭を下げた。


その後の講演『幻想神 空海』は、『三教指帰』をメインにした「獏のイメージの中の空海」を中心にした話で、それで一本小説を書いて貰いたいような内容だった。

その後の「劇団あ〇のこ」という市内の若手真言宗僧侶出演による劇『弘法大師物語・前篇「仏法遥かにあらず」』を観た。須〇寺の後住さんが若き空海役をやっていた。

獏に会えた事に大いに満足した俺は、ニヤニヤしながら『陰陽師』の本を開けた。そこには獏の字で、

「おい晴明」

「なんだ博雅」

と書かれていた。




20190616


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