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空海なら、現代日本で何をする?  作者: 宝蔵院胤舜
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平成最後の日

空海は、現代日本で何をする?



平成最後の日



平成三十一年(2019)四月三十日(火曜日)。

世の中は、何となく落ち着かない雰囲気が漂っている。明日には、元号が「平成」から「令和」に変わるのだ。

俺は、今日はバイトが早番だったので、昼過ぎには部屋に帰って来て、洗濯を済ませた。どんよりとした雲と時にぱらつく霧雨のせいで、部屋干しをせざるを得ない。

テレビをつけると、天皇の退位のニュースで持ち切りだった。昭和天皇が崩御した時は、俺は小学校三年生の冬休み中だった。色々と「自粛」していた事を覚えている。だが今回は生前での退位なので、結構お祭り騒ぎになっている。

マスコミでは、「平成の大晦日」などと言って特番を組んだり、タイマーを表示してカウントダウンをしてみたり、ある意味「旧正月」的な盛り上がりである。

とりあえず買って来ためざしをあぶって、アスパラをバター炒めにしようと根元の皮を削いでいる所で、須〇寺バイトから空海が帰って来た。

「ただいま」

空海は少々疲れた声で言うと、テーブルの前に座り込んだ。

「何や疲れてんな」

「今日な、多分ご朱印が多いやろて受付に入れられたんや」

「空海、字ぃ上手いもんな」

「最近、『ご朱印ブーム』とかあるらしいな」

「さっきテレビで、東京の浅草(あさくさ)神社が紹介されてたけど、昨日(二十九日)は千三百人、今日(三十日)は千五百人がご朱印貰いに来てたらしいで」

「そうやと思うわ」

「須〇寺でも多かったんか?」

そう尋ねた俺に、空海は力なく笑った。

「多いなんてもんやなかったで」

「そんなかいな」

「やっぱり多かったな。平成最後の日付が欲しいゆう人がほとんどやな」

「まあ判る気ぃするけどな」

「それに、明日(五月一日)も来て、平成最後と令和初めと両方欲しい、という強者もおったで」

「そんなもんかなぁ」

「お寺に来てくれるだけでもありがたい事やで」

「ひとつの時代が終わって新しい時代が始まる、そんな節目に神仏にお参りするて、やっぱ日本人的やと思うな」

俺は言いながら、フライパンを熱してバターを溶かすと、そこにアスパラを放り込んだ。しんなりして来たところで醤油を回しかけ、香りをつける。それを小皿にバサッと盛りつけ、俺もテーブルに着く。

グ〇ラベを開けると、缶を当てて"カンパイ"の態を取ってグイッと空ける。

テレビでは、平成の三十年を振り返る映像が流れている。

「それにしても」俺は早くも二本目のグ〇ラベを開けた。「天皇陛下て凄いな。ホンマに国民の事ばっかり考えてくれてはるんやな」

「そらそうや。国民あっての天皇やし、天皇あっての国民や」

「日本国の象徴やな」

「"象徴"て表現してるいう時点で、要するに"お(かみ)"は日本そのものやゆう事は変わってへんて事やな」

空海はそんな事を言う。

「へっ?」

「元来"すめらみこと"は神々の血統を受け継ぐ大和の国の法と秩序そのものなんや。何やら諸外国の外圧で天皇の政治的な力が奪われてしもたようやが、文章の上で何やらこねくり回したところで、本質的なものは何も変わらんて」

「どーゆー事?」

「臣民たる日本国民の総意が形を成したものが天皇やし、その天皇から生まれ付き従うのが臣民である国民や。つまり、天皇と国民と国体(日本)は三身一体なんや。これは、日本という国を形作る天地(あめつち)の掟や。たかだか人の定めた法則などで左右される訳がないわ」

「そんなもんか」

「そうやで。(みかど)は凄いねんで」

「結論はそこやな」

「そうや」

空海は笑いながらグ〇ラベを呑み干し、次の缶を開けた。

「令和が、おだやかで良い年になったらええな」

俺はしみじみと言った。

「きっとええ年になるて」

空海は朗らかに言った。

いつの間にか、テレビのカウントダウンも残り十秒となり、午前零時の時報と共に、平成が終わり、令和がやって来た。

「新しい時代に」

俺はグ〇ラベを差し上げた。

「新しい帝の世に」

空海もグ〇ラベを差し上げた。

『カンパイ』

新しい時代が到来した。




翌日、空海に聞いてみたところ、須〇寺でも昨日以上に朱印を受けに来る人が列をなし、てんてこ舞いだったらしい。




20190501

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