新元号発表
空海は、現代日本で何をする? 号外
新元号発表
平成三十一年四月一日。
俺は、空海と共にN〇Kを見ている。午前十一時半発表、とあるが、十一時半現在、まだ官房長官は出て来ていない。画面は、ヘリから車を追っている。内閣の臨時閣議を終え、政令に今上天皇の御名御璽を頂く為に、政府職員が御所に向かっているのだ。
「天皇陛下にサインとハンコ貰わんと、正式に発表出来ないって事か」
俺は、空っぽの記者発表席の映像を見ながら言った。
「そらそうや。陛下がご在位であられるのやから、先ずは陛下にご報告せなな」
空海は正座してテレビを見ながら言った。
「前の元号は、昭和天皇が崩御されてからの発表やったから、何だか重たい雰囲気やったけどなあ」
「この度は譲位やから、むしろ喜ばしい改元やな。俺の時は、嵯峨天皇が弟の淳和天皇に譲位し、更に淳和天皇が嵯峨天皇実子の仁明天皇に譲位したんやが、その時の三十年くらいは平和な時代が続いたで」
「そうか。なら、この元号でも平和な時代になるとええな」
「そうやな」
「あ、官房長官が出て来たで」
テレビの発表席に、官房長官がやって来た。
「いよいよ発表や」
俺も思わず居ずまいを正した。
官房長官の横に額が出て来た。
「新しい元号は『令和』です」
案外あっさりと発表された。
「令和かあ…」
「この字は、万葉集からの引用で、梅花の歌三十二首の序文の『初春の令月にして気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす』から…」
テレビでは説明が続いている。
「ほう、国書から取ったんやな」
空海が吐息を漏らした。
「今までと何かちゃうんか?」
「大体は、中国の文献などから引用する事が多いんやけどな」
「まあ、漢字言うたら中国やもんな」
「俺もそうやったけど、やはり唐の方が文化が進んでたさかい、唐に学び、唐に倣うのは当然なんやけどな。今の日本は、中国や朝鮮と比べても遜色無い、いやむしろ上を行ってる思うで。だから、日本独自の文化『万葉集』から引用したいうのは、日本の独立独歩の意志を内外に示す意味で、ええ事やと思うわ」
「そんなもんかな?」
「昔も今も、日本は世界に負けてへんで。日本人はそこに気付いてないだけや」
「そう言うてもらえるとうれしいな」
「日本人は謙虚過ぎるからな」
「まあでも、キレイにまとまったんちゃう?」
「そうやな。なかなかええ元号やと思う。覚悟が決まった感じがするわ」
「覚悟?」
「日本は自立するって覚悟や」
「元号で判るもんなんか?」
「言葉とは言霊や。言霊とは形を与える事や。令も和も、勿論中国の文献にもある言葉や。でも、それを日本の書物から取った、と説明した事で、この言葉が借り物では無い、日本独自のものであるという形を与えたんや」
テレビでは、今は首相自らが談話を発表して、
「春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように一人ひとりが明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる、そうした日本でありたいとの願いを込め、決定した」
と言っている。
「何となく、歴史の転換期におるって感じやな」
俺は感慨深く呟いた。
「判ってる思うけど、新元号になるのは来月やで」
「あ、そやった」
俺は、目から鱗の気分だった。
20190402




