インフルエンザ
新元号「令和」発表記念です。
内容は特に関係ありません。
空海は、現代日本で何をする?
インフルエンザ
平成二十五年十二月。年の瀬。
二十八日の夜、近所のレストランで常連客のみの忘年会があって、それに参加した。その時、何か体調に不穏なものを感じていた。
翌日、昼からのシフトで『SE〇YU』にバイトに行ったのだが、どうにも体がダルい。
「ヒロシくん、顔赤いけど、大丈夫?」
アキちゃんにそう言われて熱を計ってみたら、なんと三十九度を越えていた。
「お前、とっとと帰って病院行きやがれ!」
小林さんに職場を追い出され、フラフラと〇菱病院へ行った。そこで、鼻の穴に綿棒を突っ込まれて検査をされた。
「インフルエンザやね。赤いの出てるでしょ。B型ね」
お医者からきっちりと宣告され、謎の粉薬を吸引させられた。
マスクを着けさせられ、一週間は家を出るな、と言われた。
部屋に帰ると、すぐに布団を引っ張り出して、中に潜り込んだ。帰って来た時はそうでもなかったが、だんだんと寒気がして来て、布団にくるまっても収まらないほど体が震え出した。
生まれて初めてのインフルエンザだが、こんなにしんどいとは思っていなかった。体中の節々が痛い。頭は熱くてフラフラする。なのに体は寒くて歯の根も合わない。食欲もない。
俺、死んじゃうんやないやろか。
本気でそう思った。
そこへ、須〇寺バイトを終えた空海が帰って来た。
「どうした弘史、具合でも悪いんか?」
そう尋ねる空海に、俺はやっとの思いで答えた。
「…インフルエンザや…」
「インフルエンザ?よう判らんが、要は流感やな」空海は言いつつ、タオルを絞って俺の額に乗せた。「医者に薬はもろたんやろ?なら、眠るんが一番や」
俺は、その声を聞きながら眼りに落ちていった。
色んな夢を見た。イヤな夢ばかりだった。そんな中で、たまに替わる額の冷たいタオルだけが、心地良い感覚だった。
目を覚ますたびに窓の明るさが変わっていたが、今見る窓は真っ黒だった。
枕元をまさぐってスマホを見つけると、まだグルグル回る視界の中で「12月31日」の日付が確認出来た。
「お、起きたか?」
台所で何か作業をしていた空海が振り向いて声を掛けてきた。見慣れたエプロン姿の空海の存在に、もの凄い安心感を覚える。
「どうした?ボーッとして。まだしんどいか?」
そう尋ねてくれる空海の言葉に、何だか胸が熱くなった。
「ヤバい。グッと来た。惚れてまいそうや」
「まだ何もしてへんで」
「おってくれるだけで何や嬉しいわ」
「まだ宵の口や。もうひと寝入りしたら、お腹空いてくるんちゃうか?」
空海にそう言われて、俺は素直に布団に潜り込んだ。あっという間に眠りに落ちた。
次に目が覚めた時には、かなり体は楽になっていた。まだ節々の痛みが残ってはいたが、熱が引いていたので自力で布団の上で上体を起こす手が出来た。空海は、『ダ〇ンタ〇ンのガキの〇いやあらへんで!! 大晦日年越しSP 絶対に〇ってはいけない地球防衛軍24時』を見て笑っていたが、俺が起き上がる気配に気付いて、振り返った。
「どうや、調子は?」
「頭フラフラするけど、ちょっとマシかな」
「お腹は?」
「何となく」
「おかいさん(お粥)食べるか?」
「少し食べてみよかな」
「よし。ちょっと待ちや」
空海は立ち上がると、コンロの火を着けた。もう作ってあったらしい。
空海は台所からそのまま近付いてくると、俺の肩にドテラを掛けてくれた。
「あれ?うちにこんなんあったっけ?」
「ちょっと前に、アキちゃんが持って来てくれてん。『お大事に』言うてたで」
「あとでL〇NEしとくわ」
俺は言いつつ、テレビに目を向けた。ココ〇コ田中がタイキックされている様子に、思わず笑ってしまう。
「笑えるゆう事は、復調しつつあるてゆう事やな」
空海はそう言って、俺に木の椀を差し出した。お粥に木の匙が
刺してある。
「この匙、百均で買って、どこいったか判らんくなってた奴や」
「俺は判ってたで」空海は自分の分のお粥を椀に入れた。「いつ使おうか思てたんや。今日が初の実戦投入や」
俺はひと口食べてみた。何とか食べれそうだ。
「あったかいな」
「まあ無理しんで、ゆっくり食べや」
「ありがとうな」
「白米のおかいさんなんて贅沢やで」
「そうか?」
「雑穀が混ざってるのが普通やからな」
「白米だけで良かったわ」
俺は何とか椀に半分のお粥を食べ切った。お腹がぬくもって、ちょっと力がついたような気がする。
テレビの中では、N〇K紅白が終ろうとしていた。画面が切り替わり、後ろにライトアップされた東京タワーを望む、芝増〇寺が映った。『ゆく年くる年』だ。
「何だか、今年は激動の一年やったなあ」
俺は溜め息混じりに呟いた。
「最後は病気で締めやもんなぁ」
空海が笑って言う。
「…何か、ありがとうな、空海」
「こっちこそ、色々ありがとうな、弘史」
俺と空海が言ってすぐ、鐘の音と共に日付が変わった。
「今年もよろしく」
お互いに頭を下げた。
20190401




