クリスマス・イブ
空海は、現代日本で何をする?
クリスマス・イブ
平成二十五年十二月二十四日。前日より少し暖かい。しかも良い天気。巷は山下達郎の『クリスマス・イブ』で溢れている。
クリスマス・イブ商戦の仕込み部隊として早番だった今日のバイトは、昼上がりであった。
奇跡的に二十四日午後からと二十五日が、シフトの加減でバイトが空いてしまった。かと言って何かする事がある訳でもない。
「なあ弘史、今日はクリスマス・イブやろ?何か予定は無いんか?」
空海が俺に声を掛けて来た。
「何や予定て」
「彼女と酒呑み行ったりするんちゃうん?」
「彼女がおらへんわ」
「何でおらへんのや?」
「何でて。二年前に別れたんや」
「袖にされたんか?」
「そうや。甲斐性無しって言われてな」
「やっぱり女人は高給取りが好きなんやな」
「定職があるのがええねん」
「バイトはあかんのか?」
「言ってしまえば日雇いやん。何かあったら最初に首切られるのは俺らや」
「世知辛いねんな」
「ホンマやな」
俺は思わず溜め息をついた。
「今日、俺らでどっか行くか?」
空海がそう言う。
「お坊さんやのに、クリスマスしてええん?」
「無問題や。密教は細かい事気にせえへんねん。長安にいた時、大秦寺に般若三蔵さんと一緒に行ったで」
「クリスマスしに?」
「今のとちょっとちゃうけどな。日も十二月六日やし。でも、長い靴下にお菓子入れてはったで」
「今とあんまり変わらへんねんな」
「ミラの聖ニコラウスが贈り物をくれる言うてはった」
「サンタクロースちゃうんや」
「よう知らんけど」
「でも、昔からあんねんな」
俺は感心して言った。
「人のやる事や。そうそう変わらへんて」
空海はそう言って笑った。
タ方の〇宮に出ると、人でごった返していた。大勢の男女が行き交っているが、大抵は空海の美貌に振り返る。
「多分、いや絶対俺ら誤解されてるで」
俺は思わず呟いた。
「何がや?」
「クリスマスに男二人で連れ立って。しかも空海は超イケメンやし。絶対モーホーや思われてるわ」
「それはあかん事なんか?」
「別にあかん事ないけど、俺は女の子の方が好きやで」
そう言った時、前から歩いて来たスーツの男とぶつかりそうになった。
「あ、ごめん」
二人は同時に言って、同時に気付いた。
「あ、憲吾!」
「あ、弘史!」
「憲吾お前こんなトコで何やっとぉねん?」
「仕事や仕事。明日までに終わらさなあかん仕事があんねん」
「ヨメさんと子供は?」
「じいじの所でメリークリスマスや。ところでこの人は?」
憲吾は空海に目を移した。
「ああ。俺の同居人の、空海や。空海、こいつは俺の中学高校の同級生で、大道憲吾」
「大道さん、よろしく。弘史の部屋で居候している空海と申します」
空海はそう言って軽く頭を下げた。
「同居?居候?」
憲吾は目を白黒させた。
「よう判らんやろ?」
「えーっと」憲吾は掌をポンと打った。「GLBTってやつか」
「全然ちゃうし」俺はうなだれた。「言う思たわ」
「折角やし、少し呑まへんか?」
憲吾が切り出した。
「仕事わいや?」
「ちょっち煮詰まっとぉねん。気分転換に付き合おてくれるか?」
「私達で良ければお付き合いさせて貰いますよ」
空海が笑って言った。
三人で、国〇会館前にある『ニュー・ミ〇ンヘン』に入ると、丁度空いていた窓際の席に案内された。とりあえず生を注文する。
「おい弘史、お前まだニートなんか?」
「人聞き悪いな憲吾。フリーターやで。自分建築デザイナーやからって、余裕やな」
「空海って、歴史の教科書に出て来そうな名前やな。やっぱり坊さんなん?」
「当たりです。須〇寺でバイトしてます」
「バイトて、お坊さんのバイトてあんの?」
「ありますよ。お経上げてます」
「ヘえー、そーなんや」憲吾は目を丸くした。「で、やっぱり坊さんて、クリスマス何もせえへんの?」
「須〇寺の住職家族は、七面鳥とワインでパーティーする言うてはりましたよ」
「マジで?何でもありやな」
「真言密教はありのままの世界を肯定しますから。なので、こうやってお酒頂いてます」
「なるほど」
何となく納得した感じの憲吾を見て、思わず笑ってしまった俺は、スマホにL〇NEの着信があるのに気付いた。五分ほど前だ。
開いてみると、アキちゃんからのメッセージだった。
「泰子ちゃんとクリスマスパーチー」
というメッセージを開くと、写真が添付されていた。
アキちゃんと泰子ちゃん、黒猫のリュウがサンタの帽子を被って写っていた。
空海に見せると、「リュウちゃん大きなってきたなぁ」と目尻を下げた。
「何や、写真か?」
そう聞いてくる憲吾にも写真を見せてやると、憲吾は目を輝かせた。
「おい、誰だよこの可愛いコちゃん!お前の彼女か?」
「ンな訳あるかい。彼女やったら、今頃お前と一緒におらんて。妹みたいなもんや」
「向こうは女子会か。こっちは何やむさ苦しいなあ」
憲吾はそう言って溜め息をついた。
「たまには、男同士腹を割って話しをするのも、悪くないんやないですか?」
空海は笑って言った。
「そうやな。女っ気が無いのも、これはこれでおもろいかもな」
俺もそう言うと、グラスワインを三つ頼んだ。赤だ。
「キリストの血で乾杯やな?」
空海は右の眉を吊り上げた。。
「ま、こんなんもアリって事で」
憲吾がグラスを差し上げた。
「メリークリスマス」
空海の発声に合わせて、三人でワインを空けた。
20190329




