スマホ
空海なら、現代日本で何をする?
スマホ
平成二十五年のある日。
俺のスマホが、ちゃぶ台の上でブルブル震えた。震動が台の上で増幅され、いつもよりうるさい。
枕元の時計を見ると朝の八時である。今日はバイトは休みなので、朝寝を決め込んでいたのだが、叩き起こされた格好だ。
しばらく放置していたら、震動が止んだ。しかしまたすぐに鳴り出した。これも放置していたら止んだ。で、また鳴り出した。
隣の布団の上であぐらをかいている(毎回、結跏趺坐だと訂正される)空海が、スマホを覗き込む。
「弘史、『小林』て出てるで」
それを聞いて、俺はしぶしぶ出る決意をした。小林さんは、新〇田の東〇プラザB1の「SE〇YU」のバイト係だ。
「どうしたんすか、小林さん。俺今日は休みっすよ」
「悪いな、判ってんねんけどな」小林さんはちっとも悪いとは思ってなさそうである。「レジのアキちゃん、今日あかんねんて。立花くん出られへんか?」
「まあ、今日は予定ないですし、いいっすよ」
「ありがとー、助かるわ」
「でも、何で俺やったんです?」
「立花くん、ヒマやろ?ほなね」
小林さんは失礼な一言を残して、電話を切った。まあヒマやけど。
「小林さん、何やて?」
「ああ。『バイトに穴空いたから、来て』やて」
「行くんか?」
「まあ、ヒマやし」
俺はそう言って布団から這い出すと、洗面所に行って顔を洗い、歯を磨いた。部屋に戻ると、空海が俺のスマホをしげしげと見つめていた。
「どしたん?」
「これって、『でんわ』やったよなあ」
「うん」
「『ねっと』とかも出来るんやったよなあ」
「うん」
「欲しいなあ」
「無理」
「何で?」
「俺、バイトしか収入ないねんで。スマホ二台持ちなんてありえへんわ」
俺の言葉に、空海はしゅんとなった。
「今からバイト行くから。何か方法ないか、考えてみるわ」
何だか可哀想になって来て、俺は思わずそう言っていた。
結果だけ言うと、丁度期限だった俺のスマホを機種変更して、その時に『実質0円』のタブレットを手に入れた。俺はパソコンを持っていないので、代用品として使えるだろう、と自己正当化をしたのだ。
『でんわ』ではないが、Sk〇peやLI〇Eで通話も出来なくはないので、空海にはそれでお茶を濁しておこうという目論見もあった。
空海は喜んでくれたが、お陰で、月中ばくらいには速度がガタ落ちになるようになってしまった。
20180403