表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空海なら、現代日本で何をする?  作者: 宝蔵院胤舜
19/56

風呂

空海は、現代日本で何をする?



風呂



平成二十五年五月の始め。

ゴールデンウィークも終わり、世の中「五月病」などと言いながらアンニュイに過ごすこの時期。

「なあ、空海、お風呂屋さんに行かへんか?」

俺は、布団の上であぐら(結跏趺坐)をかいている空海に声を掛けた。

「お風呂屋さん?」

空海は首をかしげた。

「そや。お風呂屋さん」

「お風呂なら、ここにも立派な風呂があるやないか、弘史」空海は不審げに言った。「自分の家に風呂があるだけでも贅沢やのに、わざわざどこかへ行くんか?」

空海が俺の部屋に転がり込んでから、一ヶ月と少しが経った。もの凄い勢いで現代に順応しているが、まだまだ知らない事も多い。

「俺の時代、自宅で湯に浸かるなんて考えられへんで。なのに、どこかへ行くて。湯治場か?」

「山奥とか行かへんで。地下鉄ですぐやで」

「地下鉄て、あの地面の下のゴーッて走るやつやな」

「そうそう」

「この部屋の風呂にある、桶やら石けんやら持って行くんか?」

「貸してくれるから、手ぶらで大丈夫や」


地下鉄〇岸線の駒〇林駅で降りると、目の前に「アグ〇ガーデン」、そして同じ敷地内に「あ〇ろの湯」がある。目標はその「あ〇ろの湯」である。

中に入ると、まずロッカータイプの下足箱があり、靴を入れてプレート型のカギを抜く。

「凄いな、履き物一個づつ入れるんや。上手い事出来たあるわ。間違い無くてええなあ」

空海はそんな所から感心している。

フロントで、タオルとバスタオル貸し出し込みで1,100円を支払い、ロッカーキーを受け取って中へ入った。

「へえ、明るいし、広いんやな」空海は周りを見回しながら言った。「めっちゃキレイな湯治場やな」

「多分、湯治場より気安くて楽チンやと思うで」

「そうかな?」

「別に病気な訳でもなし。純粋にお湯に浸るのを楽しむだけやからな」

「なるほど」

二人して脱衣所に入り、キーのナンバーと同じロッカーに服を放り込むと、湯船のスペースへと突入した。

「おおー、こりゃ凄い」空海は感嘆の声を上げた。「なんやこれ。湯船、石で出来てるやん。それに、いくつもあるし。体洗う場所まであるんか」

もう大騒ぎである。

「自分、何ヶ所も温泉当ててるやん」

俺は笑いながら言った。

「あれは、涌いてる湯が熱すぎるのを、上手く冷ます方法を考えたのがほとんどやで。それに、半分以上は弟子の仕事や」

「そうなんか?」

「さすがに一人であそこまで行き切れんわ。今みたいに地下鉄とか無いしな」

「そらそやな」俺は納得した。「言ってみれば『チーム空海』やな」

「チームって何や?」

「同じ目的で集まった集団ってとこか」

僧伽(そうぎゃ)の事か?」

「ごめん、それ判らへん」

そんな事を話している間に、空海がそのまま湯船に入ろうとしたので、俺は慌てて止めた。

「待った待った、空海」

「何や?弘史」

「掛け湯せんと」

「掛け湯?」

「みんなで入る湯船や。まずはお湯を掛けて、汚れを落とさな。それに、掛け湯する事でヒートショックの予防にもなるんやて」

「ヒートショックが判らんけど、汚れを落とすいうのは納得や」

空海と俺は、掛け湯をしてから、広い湯船に肩まで浸った。

「ぷわー、気持ちいいなあ」

思わず声が出る。

「これは確かに気持ちいいわ」空海も手足を伸ばして溜め息をついた。「普段は蒸し風呂やからなあ。温泉地にでも行かんと、こんなまとまった湯は無いで」

「あっち行ったら、露天風呂あるで」

俺は大きなガラス窓の向こうを指差した。こちらと別棟に囲まれた箱庭で、数種類の露天風呂がある。

「面白そうやな、行ってみよか」

空海は、目を輝かせながら露天風呂に移動して行った。空海は、壺型の一人用風呂が気に入ったようで、随分長い事壺に浸っていた。

ちょっとのぼせて来た俺は、壺にハマっている空海の耳元でボソッと呟いた。

「あっちにサウナあるで」

「何やサウナて?」

「蒸し風呂や」

「蒸し風呂かあ」

「めっちゃ熱いで」

「何やそれ?」

空海はまた目を輝かせた。




20190319



※ 僧伽 仏教修行者の集団を指す言葉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ