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空海なら、現代日本で何をする?  作者: 宝蔵院胤舜
17/56

地域(まち)猫

空海は、現代日本で何をする?



地域(まち)



平成二十五年十二月中ば頃。

うちの近所の「笠〇商店街」には、一匹の猫がいる。しましま、所謂サビ虎で、名前は「イチロー」という。あのイチローにあやかったのかは不明である。元々は商店街の魚屋の猫「タマ」なのだが、色々な家で色々な名前を付けられており、いつの頃からか、「イチロー」の通り名で呼ばれるようになった。今では商店街の番人として、日夜パトロールに勤しんでいる。

俺がバイトからの帰りに笠〇商店街のスーパー「セ〇ゴク」に行くと、丁度そこに空海が買物に来ていた。

「おお弘史、お帰り。お疲れさん」

空海は左腕に買物カゴを掛けている。何だかすっかり主婦の趣きである。

「何かええモンあったか?」

俺は言いつつ、空海のカゴにカップの「エース〇ックのワンタンメン」を二つ入れた。

「弘史、これ好きやな」空海は笑った。「ところでさっき、そこでイチローさんに()おたで」

「イチローさんか。元気してはったか?」

「相変わらず、のっしのっしと歩いてはったで」

「そら何よりや」

「まあここいらの親分やからな」

空海はそう言って笑った。

「今日は何を買いに来たん?」

俺はカゴを覗き込んだ。中には何やら野菜が入っている。

「とりあえず置き野菜やな。玉ねぎや白菜、じゃがいも人参なんか、あれば何かに使えるやろ。ここら辺では一番安いし」

何かフツーに主婦みたいな事を言っている。

「肉食べたいな」

「野菜多めの方が体にええで」

俺の肉リクエストは、一撃で却下された。

「グ〇ラベはパ〇クで買うさかい、帰りによろしくな」

空海はそう言いつつ、レジに並んだ。

結局マイバック一つでは納まらず、ビニール袋を一つ貰った。

二人で店の外に出ると、表は既に暗くなっていた。笠〇商店街の照明は早くもクリスマス仕様で、赤や緑の電球が賑やかにチカチカまたたいている。

「これ、何でチカチカしてるん?」

空海が俺に尋ねて来た。

「クリスマスのイルミネーションや」

「クリスマス?」

「キリストの誕生日やったかな」

「景教か」

「景教?」

今度は俺が尋ねてしまった。

「ネストリウス派のキリスト教やな」

二人でそんな話をしながら歩いていると、スナックのおばちゃんにおやつを貰ってご機嫌なイチローを見かけた。おいしい口をしながら道端に座り込むと、毛づくろいを始めた。

「堂々たるもんやな」

そんなイチローを見ていた俺達のすぐ横を、近くのパチンコ店「デ〇ジャン」から出て来たおっさんが通り過ぎた。食わえていた火の付いたままのタバコを路上に吐き捨てる。

「ちょっと待ちなさい」

空海がすかさず声を掛けた。チャリンコに乗ろうとしていたおっさんは、めんどくさげに振り向いた。近所のバネ工場で見た事のある、やからのおっさんである。

「何やねん。わし今イライラしとんねん。散々負けとおしな」

おっさんは超不気嫌な様子で答えた。それに対して空海は済ましたものだ。

「タバコのポイ捨てはやめなさい。見た目も悪いし、煙も毒や」

「うるさいわ。気に入らんならお前が拾えや」

「何であんたの尻拭いせなあかんねん。自分の始末は自分でせえや」

「何やとコラ」

おっさんと空海は、一触即発の状態になってしまった。

と、少し離れた所で毛づくろいをしていたイチローが立ち上がり、こちらへ向かって歩いて来た。イチローは、睨み合うおっさんと空海の間に割って入り、まずおっさんの顔を見上げて、ダミ声で「ナーッ」と啼いた。次いで空海の顔を見上げて、再び「ナーッ」と啼いた。

「何やイチロー、お前、仲裁に来てくれたんか」

おっさんは、イチローを見下ろして言った。

「イチローの方が、私達より大人なようですね」

空海も笑って言った。

「悪かったなニイちゃん。ちょっと虫の居所が悪うてな。カンニンやで」

おっさんは素直に謝ると、タバコを拾って自分の掲帯用灰皿に入れた。

「私も乱暴な物言いで、失礼しました」

空海も頭を下げた。

それを見届けると、イチローはまた悠々と歩いて元の位置に戻り、ドサリと横になった。何事も無かったように目を閉じる。

「さすが、笠〇商店街のボスやな」

俺は溜め息混じりで言った。

「俺も、イチローさんに人の道を教わったわ。まだまだ修行が足らんな」

空海はそう言って笑顔を見せた。



20190302

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