それでも好きなんです
「鈴木さんが、俺で良いのなら、俺は歓迎だよ。こんなおじさんでも良いならね。」
だけどさ、と加藤さんは続ける。
「世の中には、俺以外にも男はたくさんいるんだよ。そっちを見ずに、俺って決めるのは早急じゃないかな。」
にぶいあたしにも、ようやく理解ができた。
つまり、他を見ずに、加藤さんに決めるのは、どうなのか、と言うことなのだろう。
「そんなこと言われても、あたしは、他の男じゃなくて、加藤さんが好きなんです。」
こうなったら、引くに引けない。それに、一度好きになってしまった気持ちは、もう戻れない。
「鈴木さんて、やっぱガンコだね。」
呆れたように加藤さんは笑った。
それから、ゆっくり立ち上がる。
「男として、人生の先輩として、一つ忠告しておこうか。」
一瞬、何が起きたのかわからなくて、あたしは目をしばたかせる。
後には、同じようにゆっくりと席に座る加藤さんと、口もとをおさえて目を白黒させるあたしがいた。
「男の部屋に一人でのこのこ来るなんて、無防備すぎ。俺だからキスで済むんだよ。」
加藤さんは、頬杖をついて、まっすぐに視線を向けてくる。あたしは加藤さんの顔を直視できなくて、俯く。心臓がばくばくと鳴っていた。
そっと唇を指でなぞる。
押し付けられた加藤さんの柔らかい唇の感触がまだ残っている。
「もしかして、初めて?鈴木さん、反応が初々しいなー。」
かっ、と頬が熱くなるのが分かる。
「よ、呼ばれたら、行くじゃないですか…。」
やっとのことで、あたしは、反論にならない声をあげた。多分、全く説得力はない。
「ふぅん。それって、どんな男でも?」
軽く返してくる加藤さん。
「か、加藤さんだけですよ!」