好きです!
「さて、本題に入りましょうか。」
唐突にそう言われ、あたしはおもむろに座り直した。
そうだった。
本題にはまだ入っていなかったんだった。
あたしの姿勢に緊張の色を見てとったのか、加藤さんは苦笑している。
「この前は、ありがとう。」
す、と加藤さんは切り出した。
お礼を言われるとは思ってもみなかったあたしは面食らった。
「その、人から好意を寄せられるっていうのが久しぶりなんで、最初は、驚いたんだけど、嬉しかった。」
あたしはつめていた息をふうっと吐き出した。
なんだか、泣きそうだ。
そんなあたしの感情を知って知らずか加藤さんは続ける。
「この前も、言ったんだけど、今日、これだけは確認しておきたくて、良いかな?」
最後の確認の仕方が、職場での加藤主任そのもので、あたしは、はひ、と変な声を上げてしまった。
慌てて言いなおす。
「は、はい。」
加藤さんは突っ込んでこない。そろり、と表情を伺うと、真剣な表情だった。
「俺で、良いの?」
その確認の仕方があまりにも、問い詰めてられているような感じなので、あたしは思わず黙りこんでしまった。
あの日は、確かに、勢いで伝えた感じがある。
もうこれが最後だから、とか。どっちに転んでもいい、とか。
言葉の裏を読んで即答できない自分が悔しい。
あたしの加藤さんが好きっていう気持ちは、その程度だったの?
加藤さんだって、いろいろと考えて、今の聞き方をしているんだろうに。
張り詰めた空気の糸を切ったのは、加藤さんだった。
「いや、ごめん。鈴木さんは、まだ23だからさ、なんて言うの、選択肢って他にもいっぱいあると思うんだよ。」
そう言うと、加藤さんはぐいとコーヒー一気に飲み干した。
「えっと、でも、加藤さんが好きなんです。」
そう言われても、現在、この瞬間のあたしは加藤さんのことが好きなのだから、そう答えるしかない。
口に含んだコーヒーがやたら苦味を強調してくる。
「そう言うと、思った。」
がりがり、と頭をかいて、加藤さんは本日何度目になるかわからない苦笑いをした。