好きになったのは12歳上の人でした
「鈴木さんてさぁ、考えすぎなんだよ。」
加藤主任が頬杖をついてこちらを見ている。
無性にイライラする。これ、ワケわかんない。
あたしは、とんとん、と鉛筆のおしりを机に打ち付ける。
てか、あたしが考えすぎってことがあなたに何の関係があるわけ?
「関係あるよ。」
…あたしは思わず口をふさいだ。
あたしの声、もれてた?
「もれてないし。っていうか、鈴木さんの行動、ウケる。」
相変わらず頬杖をついて、彼はくくく、と笑った。ほんっと、なんなの?この人。
「俺さぁ、ずっと鈴木さんのこと見てたよ。」
何それ、怖い。ストーカー?
「あ、今、ストーカーって思ったでしょ?違うから。」
この先輩、何者だ。
ふぅ、と息をついて、あたしは席に着いた。
「うん、あたしが考えすぎなのは認めます。
でも、それが加藤さんにどう関係してくるんですか?」
少しぶっきらぼうな物言いかなと思ったけれど、にこにこ笑う加藤さんにはなんてことないらしい。
「うん。俺、鈴木さんのこと好きだから。」
…うん。
…へ?
加藤さんが、あたしのこと好き?
「人間として?」
いや待て、あたしは人間なんだから、その質問はなんだ。
自分で自分に突っ込む。
「そう、人間として。」
真面目に返す加藤さんも何なの?
「鈴木さんてさぁ、考えすぎて、動けなくなって、自分の首絞めてるでしょ。もっと周りに相談していいんだよ?」
…返す言葉もない。
さくさくさくさく仕事を進められる加藤さんからしたら、あたしはどんくさくて何してんのって感じなんだろう。
「加藤さんみたいな人が、何であたしのことを?」
あれ?違うことを聞いてしまった。
彼は頬杖をつくのをやめて、手を組んだ。
「最初はね、面白い子だなって見てただけ。」
おも、面白い子…。
少なからずショックを受ける。
12も離れてるのだから、まぁ、子ども扱いされてるのは仕方ない。
「別に子ども扱いしてるわけじゃなくてさ。」
うん、心読まれてる。
「俺にとっては、すげー簡単なことを、鈴木さんはめっちゃ難しく捉えててさ、そんな見方もあるのかなって思った。」
褒められているのか、けなされているのか。
頬杖をついて、加藤さんはこちらを見つめている。
好き、と言われたことが頭の中をぐるぐる回っている。別に嫌じゃない。あたし、23歳、加藤さん、35歳。あり得るの?
「鈴木さんて、ほんと面白いよね。思考ダダ漏れ。12歳差、いいんじゃない?」
くくっと口を押さえて笑う加藤さんをあたしは睨んだ。
好きって言ってきたのは、そっちよね?
あぁ、そうか。あたしは、オトナである加藤さんに振り回されているだけか。
だいたい、主任と主事が付き合ってるなんて…所属長にバレたら何かありそう。
「まー、お互い独身だし?」
そうだ。加藤さんは、既婚者が多いうちの職場の中では、数少ない独身の一人だ。
…いや、お互いってどういうことよ。あたし、まだ23歳だし。
「そのまま、ゴールまで行けばいいんだし?」
ゴールって何よ!?
このままでは、ハタから見ると、加藤さんが独り言喋っているイカレタ人にしか見えない。
いや、休日出勤であるこの日は、職場にはあたしと加藤さんの二人しかいないんだけれど。
「じゃ、おふざけはここまでにしよっか。」
加藤さんはゆっくり立ち上がった。
「鈴木さんは、どこで止まってんのかな?」
あ、加藤主任の顔に戻ってる。
どきどきしたあたしの気持ちを返せ。