一日目夜 4
「メモを調べているうち、ミツエさんはある事実を知ったんです。村の一部の人たちが、雅夫ちゃんの遭難に深くかかわっていたことをですね。だけどミツエさん、自分だけじゃどうにもならなくて。結局、それが自殺の原因になって」
雅夫の遭難のことで、村の一部の者がミツエの恨みを買うようなことをやった。そのことにより、ミツエは彼らに恨みを抱き、この世に恨みを残したまま死んだ。あと追い自殺までした。
それで……。
その後の遭難事故の原因が、ミツエの怨霊のタタリのしわざだというのか。
――しかし……。
変ではないか。
どうにも理屈が合わない。
星野さんはこう言ったのだ。S村のある一部の人たちが雅夫の遭難にかかわっていると。
遭難者にはS村以外の者もいる。それにS村出身の遭難者であっても、雅夫とは関係のない者だっているはずだ。
――それがなんで?
ミツエの怨霊のタタリが、どうして関係のない者にまでおよぶのか。
「そのメモには、何て書かれてあったんですか?」
「実はとんでもないことが。でもそれって、直接ミツエさんから聞いたことだから、たぶんまちがいないと思うんです」
「それで、どういうことが?」
「雅夫ちゃん、どうも一度は山小屋に着いてるようなんです。でも中に入れなくて、吹雪の中を下山し続けるしかなかったと。あの当時は、山小屋がまだひとつのときでしたから」
ここでまた、山田さんは新たな疑問に首をかしげることとなった。
星野さんの話では――。
山小屋が今はふたつある。そういうふうに聞き取れた。管理事務所で見たパンフレットには、山小屋は一棟しか載っていなかったはずだ。
「山小屋って、ひとつじゃないんですか?」
「今はふたつあるんです。古い方も、まだ残ってるんですのよ」
「でも、パンフレットにはひとつしか」
「古い方は、たぶん載せてないんですわ」
パンフレットにはない山小屋があった。これも管理人の話には出なかったことだ。
「今でも、それって使えるんでしょうか?」
「使えるんじゃないかしら。使ったっていう話、お客さんから聞いたことがありますので」
「雅夫君、今ならも助かったかもしれませんね。一方がダメでも、もうひとつありますので」
「そうなんですの。ふたつの山小屋、わりと近い場所にあるって、そうも聞いていますから」
「それで、山小屋に入れなかったって、どうしてなんです? 何ごともなければ使えるはずですが」
「内側から鍵がかかっていたそうなんです。ですからそのとき、たぶん中にだれかいたんですわ。どうして開けてやらなかったのか。開けてさえいれば、雅夫は死なずにすんだのにって。ミツエさん、悔しそうに話していたんです」
死んでしまった友人の言葉の、そのひとつひとつをかみしめるように星野さんはしゃべった。
かたや、山田さんは疑問が解けないままだった。




