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七日目

     七日目


 早朝、電車でK市に向った。

――さて、どう話したものかな。

 家族はAの死を信じたくはないだろう。

 山田さんは重い気分だった。

 Aが住んでいた家には、降りた駅からタクシーで十分ほどで着く。

 山田さんは腹を決め呼鈴を鳴らした。

「どちらさまでしょう?」

 五十代半ばの女性が顔を出す。

「Aさんのお母さんでしょうか?」

「はい、そうですが」

「わたし、こういう者ですが」

 名刺を渡し、山田さんはさっそく切り出した。

「Aさんのことで、少しおうかがいしたいことがありまして」

「今、Aはいませんが、どのようなことで?」

「実は、これを見ていただきたいんです」

 ポケットから引き伸ばした心霊写真を取り出し、母親に渡した。

「これは……」

 写真を見るやいなや顔色を変え、母親は山田さんの目を見返してきた。

「Aさんにまちがいないでしょうか?」

「はい、うちの子です。それでこれ、いつどこで写したものなんですか?」

「T山に登ったときのようです。五年ほど前になりますが」

 山田さんはウソをついた。

「五年前? 山に登ると言い残し、行方不明になった年ですわ。おたく、一緒だったんですか?」

 ここで初めて母親の口から、行方不明という言葉が出た。情報が少しでも欲しかったのだろう。

「いいえ。でも知人が、どうも一緒に登っていたみたいなんです。この人なんですがね」

 宮村と雅夫が一緒に写った写真を見せ、雅夫の方を指さした。

「この人、雅夫君っていうんです。つい最近、T山で五年前の遭難者が発見されたことは存知でしょう」

「ええ、そのことは。Aのこと、いつも気にかけてるものですから」

「彼の遺品のカメラにAさんが写っていて、それで雅夫君はAさんと一緒に登っていたんだと」

 ウソのつきついでとばかりに、山田さんはもっともらしく話した。

「でも、よくこれがうちの子だと」

「今度のことがあって、五年前の新聞を調べてみたんです。そしたらたまたま、この記事を見つけたものですから」

 図書館でコピーした新聞記事を見せる。

 母親は記事を久しぶりに読み返し、当時の記憶がよみがえったのか、五年前のことをふり返るように語り始めた。

「あのとき警察の方が、近隣の山の登山記録を調べてくれたんです。でも、あの子が登った形跡は見つからなくて。それで何らかの事件に巻き込まれたか、たんなる家出だろうということに」

「そうでしたか。でも、登山管理事務所に登山届けを出してなければ、何も残りませんからね」

「では届け出をしないまま、T山に登ったということに?」

「そうだと思います。あの日、この人も無届けで登っていますから」

 写真の中の公彦を指さす。

「三人とも無届けでしたの?」

「いえ、なぜか雅夫君だけは届けてるんです。ですから二人が登っている所に、たまたま雅夫君が一緒になったと思われます」

 ここでも、山田さんはデタラメを話した。

 母親の意識が、あえて公彦に向かうように……。

「この人に聞けば、あの子のことがもっとわかるのかしら?」

 山田さんの思惑どおり、母親の意識は公彦に向かった。

 後日、彼女は必ず公彦に会いに行くであろう。あとは子を思う母の気持ちにかけるだけだ。

「二人はT山で一緒だったんです。きっとAさんのことも、よくご存知だと思いますよ。なんでしたらこの写真、さしあげます。ボクは別にネガを持っていますので」

 公彦の写った写真を母親に渡し、山田さんはさらに念を押した。

「この人、宮村公彦さんっていいましてね、彼の父親はS村の議員をしています。写真には日付が入ってますから、たぶん思い出してくれるのでは」

 母親は再捜査を求め、写真と記事を警察に持ち込むはずだ。

 写真には事件当日の日付が入っている。

 それはその日、公彦と雅夫が一緒にいたことを証明している。

「ありがとうございます」

 母親は深々と頭を下げた。

 今も息子が生きていると信じている。いちずに息子の帰りを待ち続けているのだ。

 山田さんは心に強く誓った。

 Aの怨霊が悪魔に化身して、次から次に登山者たちを呑み込んだ。そのことは何があっても語ってはならない。

 決して記事にしてはならないと……。



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