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六日目昼 4

「これって、あの心霊写真でしょ。大きくなって、ずいぶん顔がはっきりしましたわね」

「どうです?」

「やっぱり知らない人ですわ。それで雅夫ちゃんと宮村さん、一緒に登ったのかしら?」

「どうもそうではなく、二人は登山中に知り合ったようなんです。ネガを見るとわかるんですが、それって中ほどでいきなり出てきます。しかも人物が写ったのは、それ一枚きりなんです。ずっと一緒だったとしたら、ほかにも人物の写真があると思うんです」

「なるほどねえ」

「それで問題は、その場にもう一人いた可能性があるってことなんです」

「二人を写した人ですね」

「はい。オートにすれば一緒に写れるんですが、シャッター切った人物がいたとも考えられますので」

「そのもう一人が、この人?」

 星野さんが心霊写真に目を移す。

「そうかもしれません。いずれにしろ、二人がつながったことは確かです」

「警察の人、リュックを調べたんでしょ。そのときフイルムに気づいてもよさそうなのに」

「目的はノートだったんで、カメラの中まで目が届かなかったんだと思います」

「それで……」

「ちゃんと調べてたら、そのときに真相がわかっていたかも」

「くやしいですわ。でも山田さん、よく気がつきましたわね」

「これでもカメラマンのはしくれですから」

 山田さんは、はにかむように笑った。

「あら、そうでしたわ」

 星野さんもつられて笑った。

「この心霊写真なんですが、宮村はこの人物とは深いかかわりがあるようです。彼と会って、そのことがわかったんです」

「宮村さんが、そう言ったんですか?」

「もちろん、そんなことは口に出しません。でも、心霊写真を見せて、五年前に山小屋で写したものだと話したとたん、偽造写真だと言って、いきなり怒り出したんです。まさに、いきなりって感じで……。わけありの関係だからですよ」

「わけありって?」

「小さい写真の方でだれだかわかったんで、よく知っているのは確かです。それにひとつだけ、確実に言えることがあります。雅夫君の遭難の日、三人は同じ時刻に同じ場所にいた。ある一点で、重なっていたんです。三人の関係まではわかりませんが」

「雅夫ちゃんの遭難に関係していたのは、宮村さんだけじゃなかったんですね。この人も、なんらかの関係が……」

 星野さんがあらためて心霊写真に目を落とす。

「必ずあると思います。だれだかわかればいいんですが」

 どこのだれなのだろう?

 この人物こそ山小屋の悪魔では?

 そういう思いにいたっても、山田さんはまだ打ち明ける気持ちにはなれないでいた。

 あの夜の、あの山小屋でのことは……。

「ところで、ここらに図書館はありますか?」

「駅の近くに役場があるのはご存じ?」

「はい、わかります」

「すぐとなりに村立図書館がありますが、何か調べるんですか?」

「ちょっと気になることがあって」

 山田さんは写真をポケットにしまうと、さっそくソファーから立ち上がった。

「今からですか? もうじき夕食ですよ」

 星野さんがおどろいたふうに見上げる。

「こちらには明日までしか……」

 貧乏カメラマンですからと言って、山田さんは苦笑いしたのだった。


 図書館は新しく立派だった。そのせいか隣接するS村役場がよけいおそまつに見える。

 山田さんは窓口受付の職員に頼み、五年前の二月の地元新聞の綴じ込みを出してもらうと、さっそく閲覧室にこもった。それから新聞を一枚ずつめくり、雅夫が遭難した日からの、行方不明者に関する記事をしらみつぶしに探した。

 三分の一ほど進んだところで、新聞をめくる手が止まった。意外にあっさりと、それらしき行方不明者の記事が出てきたのだ。

 記事と並んで顔写真もある。

 その写真を心霊写真の人物と見比べてみるに、第一印象、よく似ている気がした。

 続いて記事に目を通す。

 二月十日、K市○○町在住のA(二十四歳)は、山に登ると家族に言い残し消息を絶った。

 警察の捜査ではAが近隣の山に登った形跡が見られないため、事件に巻き込まれた可能性もあるとし、現在は遭難事故と事件の両面から捜査を続けている。

 記事の内容はおよそこのとおりであった。

 二月十日は、雅夫が遭難した日と重なる。しかもAは、山に登ると家族に言い残している。

 ここにきて。

 山田さんは確信した。

 Aが心霊写真の人物であることを。山小屋の悪魔であることを……。

 閲覧室にある複写機でコピーを数枚とった。



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