六日目昼 2
写真館を出た山田さんは、旅館に向かう川沿いを歩きながら推理をめぐらせていた。
さまざまな情景がめぐる。
その情景を糸にして、事件の真相として、糸巻きに巻き取ってゆく。
宮村は予期していなかったのだろう。あの夜の、あの山小屋での、雅夫との二度目の再会を……。
もつれた糸がほぐれてゆく。
ほぐれた糸を巻いていくうちに、次のもつれにつきあたる。それでもわずかずつだが、糸は確実に糸巻きに巻き取られてゆく。
では、なぜドアを開けなかったのか?
雅夫がただたんに、予期せぬ訪問者であったからなのか? 自分が山に登った夜、あの若者たちにとって予期せぬ訪問者だったように。
ただそれだけで……それだけで、人を見殺しにするものだろうか?
そんなはずはない。
一度は、二人は同じ写真に写っている。それも肩を並べ、ごく自然にである。
であれば……。
雅夫との再会は、宮村にとって非常に都合の悪いことであったのだ。だから宮村は、吹雪であるにもかかわらずドアを開けなかった。
いや、ドアを開けることができなかった。
真相の糸を巻く手が止まる。
――待てよ。
糸巻きが手から離れコロコロと転がり、それまで巻いていた糸が流れ出す。流れ出しはしたがもつれてはいない。
――もしかして……。
オートシャッターではなく、シャッターを押した人物がそこにいたとしたら、あの場には第三の人物がいたということになる。
転がった糸巻きを拾った。
少しばかりあともどって推理をやり直す。
流れ出した糸がふたたび巻き取られてゆく。
ここで、ひとつの仮説を立てる。
山小屋には死体があった。シャッターを押した第三の人物の死体だ。
その犯行を宮村とする。
だとすればドアは開けられない。で、招からざる訪問者――雅夫は下山を余儀なくされた。いや、このとき訪問者がだれであろうと、ドアは開けられるはずがない。
もつれていた糸は、すでにほとんどが糸巻きに移っていた。
――とにかく星野さんに!




