六日目朝 6
「人骨が出てきたことが、雅夫の遭難と関係してるってことなのか?」
ここにきて……。
安川氏は気がついたのだ。テレビを騒がせている事件のことで、山田さんが調べに来たことを。
「はい、もしかしたらですけど」
山田さんは星野さんから聞いた話を続けた。
「ミツエさんは登山記録を調べ、山小屋の中にいた者が宮村議員の息子だと気づいたようです。それで警察に相談したんですが、証拠がないと門前払いに。宮村がドアを開けてさえいれば、雅夫は死なずにすんだはずだって。ミツエさん、とても悔しそうに話していたそうです」
「なんも知らんかった。そんなことが……ミツエのヤツ……。あんた、それでわざわざ?」
「はじめに話せばよかったんですが」
「そんなことは気にせんでいい。で、どう関係してるんだ?」
「あくまで推測ですが、雅夫君は山小屋に入れてもらえなかった。宮村からすると、雅夫君を入れたくなかったんですね。そのとき中で、何かが起きていたからだと思います」
「そのことは、ミツエもわかってたのか?」
「わかってないようでした。宮村を責めていただけのようですね」
「だが、あんた。よくそこまで」
「たまたまなんです」
山田さんは照れながらも、なおも自分の思いを話し続けた。
「この話を聞いたとき、宮村にむしょうに腹が立ったんです。ドアを開けていれば、雅夫君は助かったはずですからね。さらにそのことで、ミツエさんが自殺したって……。宮村に罪をつぐなわせたい、そう思ったものですから」
「それで、あんた。探していたノートがなくて、これからどうするんだ?」
「残念ですが、調査はあきらめるしかありません」
「証拠がなくちゃあ、今となっては警察の連中も動かんだろうしな」
「はい。今回の件と雅夫君の件が、プッツリ切れてしまいましたので」
「記事にして雑誌社に売ると言っておったが、それもあきらめるのか」
「しかたありません。新聞と同じような記事じゃ、どこの雑誌社も買ってくれませんので」
心霊写真のことを書けば、雑誌社は買い取ってくれるかもしれない。だが、それは同時に、安川氏や星野さんを傷つけてしまうことになる。
「そろそろリュックにしまいましょうか」
山田さんは腰を浮かせてから、ホコリのついた懐中電灯を手に取った。
「いや、このままにしておいてくれ。あとできれいにして、ミツエと雅夫にも見せてやりたいんだ。二人とも、うちの仏壇にいるんでな」
「喜ぶでしょうね、二人も」
「なあ、こいつは使えるんじゃないか。あんた、カメラマンだろう。ちょっと見てくれんか?」
安川氏がカメラを山田さんに手渡す。
小型の携帯カメラだった。
ホコリはかぶっているものの、さびているところもなく、どうということはなさそうに見える。
「だいじょうぶそうですね。電池を交換すれば使えると思いますよ」
山田さんは指先でホコリを払っていたが、いきなり目を輝かせた。
「このカメラ、しばらくお借りできませんか? あとで必ずお返ししますので」
「あんたのカメラ、こわれてるって言ってたな。そんなんでよけりゃ、使ったらいい」
安川氏が膝に手を添えて立ち上がる。それから、シミだらけの顔に深いしわを寄せた。
「ミツエに、ワシはなんもしてやれんかった。ほんとになんも……」
「……」
返す言葉も思いあたらず、山田さんはカメラを手に小さくうなずいてみせた。
カメラを借りたのは使うためではない。カメラの中にフイルムが残されていたからだ。
それは五年間もの間……。
暗室で、人目に触れず眠っていたのだった。




