五日目 2
第三の推理――。
これも雅夫を数に含める推理。
この場合、雅夫の遭難だけを別なものとして、悪魔とは切り離さなければならない。
――メモは雅夫の筆跡だったんだろうか?
残されたメモとリュックの場所から、雅夫が山小屋に入った可能性はないと考えていた。だが山小屋に入っていたとすれば、メモに書かれていたことが怪しくなる。
しかもだ。
メモが宮村の息子が書いたものなら、そうしたこともつじつまが合う。つまりメモは、雅夫が山小屋に入っていないというアリバイ作りである。
――調べてみる価値があるな。
あとでメモの筆跡のことを、星野さんに確かめてみようと思った。
可能性が一番あるのは第三の推理であろう。
だが実際に悪魔に遭遇した山田さんとしては、悪魔と切り離すこの推理に納得がいかなかった。
――数さえあっていれば、アイツがミツエだと言い切れるんだがな。
七人分の人骨は同じ場所にあった。雅夫の遭難だけを別なものにすることにはどうしても抵抗がある。
だとすれば、次は第一の推理となる。
が、これについても疑問がぬぐえない。
遭難者が行方不明になり始めたのが五年前からということだ。雅夫のときからなのだ。
今回のことは、雅夫の遭難とミツエの自殺を抜いては考えられない。
――どうして七体分なんだ?
山田さんは迷路の出口を探し出そうと、それからも推理をめぐらせることに没頭したのだった。
雨は昼前にやんでいた。
星野さんには室内電話で話があるからと伝え、わざわざ部屋まで来てもらった。
「テレビでみたんですけど、この村、すごいことになりましたわ」
山田さんの顔を見るやいなや、星野さんが興奮した口調でしゃべる。
「ええ、ほんとにおどろきですよね」
「みんな、びっくりしていますわ。人の骨が、いっぺんに七人分も出てきたんですもの」
やすらぎ旅館の従業員たちの間でも、この怪事件の話題でもちきりだそうである。
「ミツエさんの復讐だって、そんなことを言ってる人も。そうじゃないのに」
「ええ」
山田さんはあいまいにうなずいてみせた。
真実は語れず、悪魔のことを口に出せないもどかしさを感じながら話す。
「ただですね。今回のことを五年前の事件と結びつけると、つじつまが合うんですよ」
ここで。
第三の推理だけを話すことにした。悪魔のことは抜きにして話せるうえ、可能性も一番ある。
「あくまでもボクの考えなんですが……」
山田さんは話しながら、頭の中であらためて、この推理の整理をしていた。
メモから雅夫は、山小屋に入っていないと考えていた。しかし、メモが偽装なら話は変わる。残された リュックの場所にしろ、宮村の息子が偽装工作をしたと考えれば筋が通る。
宮村の息子がなんらかの理由で雅夫を殺害し、山小屋の床下に埋めた。その息子をかばうため、父親の宮村議員が村長らに登山記録を抹消させ、事件の真実を闇にほうむったのであろう。




