表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/51

一日目夜 5

 遭難者にはS村以外の者も、S村の者であっても雅夫とは関係のない者もいる。そうした者にまで、どうしてミツエのタタリがおよぶというのか。

――なぜ?

 疑問を解こうと質問を続けた。

「遭難者には、この村以外の人もいます。そんな人たち、ミツエさんとは関係ないのでは。なのにどうしてタタリが?」

「それはですね。そのタタリというのが、ミツエさんが恨んでいたことと関係があるようで、ほんとは関係ないからなんですのよ」

「あるようで、ない。それって、どういうことなんです?」

「恨むべき相手じゃなく、ウワサの元は死んだ場所からきてるんです。ミツエさんが自殺した場所、T山の山小屋だったものですから」

「それで……」

 しばし、山田さんは言葉を失った。

 母親は死に場所に山小屋を選んだ。息子の死にかかわったであろう、山小屋で自殺したのだ。

 ミツエの怨霊のタタリ。

 そのあらぬウワサは、遭難者や村の者とは関係なく発生していたのだ。

 すなわち。

 山小屋で自殺したミツエの怨霊が、なんの関係もない登山者の進路をまどわせる。樹海に迷い込ませ、帰らぬ人にしてしまうということなのだろう。

「びっくりですね」

「そうでしょ。それでいつのまにか、まるで怪談話のようなウワサになってしまって」

「ところで先ほどの話ですが。村が山小屋を建て直したの、それってミツエさんの自殺が関係していたのでは?」

「あったと思いますわ。ウワサを知ってる人は利用したくないでしょうからね」

「昼間はともかく、さすがに夜はイヤですよね」

「それにミツエさん、そこで首をつったんですの。ですからよけいに」

「そうでしたか……」

 山田さんは息をひとつ飲んで続けた。

「山小屋の中にはだれかがいて、そのだれかがドアを開けなかったので、雅夫君はやむなく下山して遭難してしまった。そしてそれには、村の一部の者がかかわっていた。たしかミツエさんは、そう言い残したんですよね」

「はい。あのときミツエさんは、わたしにはそう話しましたけど」

「だったらミツエさん、そのだれかを知っていた。そういうことになりますよね」

「ええ、メモからわかったらしくて」

「メモから? それって、おかしくないですか。だって雅夫君、山小屋の中に入ってないんでしょ。だったらだれが中にいたのか、わからなかったはずなんでは?」

「そのことは、雅夫ちゃんが書き残していたわけじゃないんです。あとになって、ミツエさんがメモを調べてわかったことなんですの」

「そうか、あそこで……」

 管理事務所では登山許可証を発行している。登山者の記録も保管されている。

 その気になって調べれば、だれがいつ登って、いつ下山したか、それぐらいのことはわかるだろうし、だれが山小屋にいたかも見当がつくはずだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ