一日目夜 5
遭難者にはS村以外の者も、S村の者であっても雅夫とは関係のない者もいる。そうした者にまで、どうしてミツエのタタリがおよぶというのか。
――なぜ?
疑問を解こうと質問を続けた。
「遭難者には、この村以外の人もいます。そんな人たち、ミツエさんとは関係ないのでは。なのにどうしてタタリが?」
「それはですね。そのタタリというのが、ミツエさんが恨んでいたことと関係があるようで、ほんとは関係ないからなんですのよ」
「あるようで、ない。それって、どういうことなんです?」
「恨むべき相手じゃなく、ウワサの元は死んだ場所からきてるんです。ミツエさんが自殺した場所、T山の山小屋だったものですから」
「それで……」
しばし、山田さんは言葉を失った。
母親は死に場所に山小屋を選んだ。息子の死にかかわったであろう、山小屋で自殺したのだ。
ミツエの怨霊のタタリ。
そのあらぬウワサは、遭難者や村の者とは関係なく発生していたのだ。
すなわち。
山小屋で自殺したミツエの怨霊が、なんの関係もない登山者の進路をまどわせる。樹海に迷い込ませ、帰らぬ人にしてしまうということなのだろう。
「びっくりですね」
「そうでしょ。それでいつのまにか、まるで怪談話のようなウワサになってしまって」
「ところで先ほどの話ですが。村が山小屋を建て直したの、それってミツエさんの自殺が関係していたのでは?」
「あったと思いますわ。ウワサを知ってる人は利用したくないでしょうからね」
「昼間はともかく、さすがに夜はイヤですよね」
「それにミツエさん、そこで首をつったんですの。ですからよけいに」
「そうでしたか……」
山田さんは息をひとつ飲んで続けた。
「山小屋の中にはだれかがいて、そのだれかがドアを開けなかったので、雅夫君はやむなく下山して遭難してしまった。そしてそれには、村の一部の者がかかわっていた。たしかミツエさんは、そう言い残したんですよね」
「はい。あのときミツエさんは、わたしにはそう話しましたけど」
「だったらミツエさん、そのだれかを知っていた。そういうことになりますよね」
「ええ、メモからわかったらしくて」
「メモから? それって、おかしくないですか。だって雅夫君、山小屋の中に入ってないんでしょ。だったらだれが中にいたのか、わからなかったはずなんでは?」
「そのことは、雅夫ちゃんが書き残していたわけじゃないんです。あとになって、ミツエさんがメモを調べてわかったことなんですの」
「そうか、あそこで……」
管理事務所では登山許可証を発行している。登山者の記録も保管されている。
その気になって調べれば、だれがいつ登って、いつ下山したか、それぐらいのことはわかるだろうし、だれが山小屋にいたかも見当がつくはずだ。




