アンダンテ 【吹雪の日常】 8
[場所:学食]
[翔]:「――というわけでだ、オレはマジックコロシアムに出るぜ」
[吹雪]:「ふーん」
[翔]:「おいおい、反応薄すぎじゃないかい!? 吹雪よ」
[吹雪]:「というより、もっと分かりやすく話を始めてくれ。はい、もう一回」
[翔]:「オレは、マジックコロシアムに出る」
[吹雪]:「おい、同じじゃねぇかよ」
[翔]:「これで分かりやすいじゃないか、オレが言ったとおりだよ」
[吹雪]:「分かりずらいことこの上ないぞ? どうして、何故、WHY?」
[翔]:「おお、見事な三連コンボだぜ」
[吹雪]:「食いついてないで質問に答えな」
[翔]:「オレとお前の仲じゃないか~? 言わなくても薄々分かってんだろ?」
[吹雪]:「……かわい子ちゃんゲットを狙ってか?」
[翔]:「そのとおり、グットアンサー!」
普通は否定するのが筋なんだが、こいつには何を言っても無駄か。
[翔]:「マジックコロシアムって言えば、この島じゃ指折りの注目イベントだろ? そこでオレが華麗にエレガントにそしてかっこよくステージで舞えば、オレの評価はぐっと上昇。女の子もメロメロになるに違いない。どうだ? いい考えだろ? 否の打ち所ないだろ?」
[吹雪]:「残念だが、とってもたくさん非の打ち所があるぞ? まず、華麗とエレガントは似たような言葉だから、同じことを二回言っているようなものだ。繰り返す必要はない。お前を見てくれる女の子も確かにいないとは限らないが、お前の他にも男の出場者はたくさんいるはずだ。お前だけを観客が見てる可能性は0だ。勝手に良いように解釈はしないほうがいい。後、これが最大の否の打ち所だ」
[翔]:「あ、ああ……」
[吹雪]:「お前、魔法ほとんど使えねぇだろうが!」
[翔]:「はっ!?」
[吹雪]:「マジックコロシアムは、名前のとおり、魔法で戦うイベントなんだ。肉弾戦は基本的に禁止だ。さっきマユ姉も言ってただろう?」
[翔]:「んーそうだったぜ。どうすっかな~。あ、その唐揚げ一つもらい」
[吹雪]:「おい、俺のメインディッシュに何をする?」
[翔]:「いいだろ~? 一個くらい。んー、なかなか美味いな、これは」
[吹雪]:「ったく、後二つしかないってのに……でだ。そんなわけだから、お前はコロシアムには出ないほうがいいと思うぞ?」
[翔]:「でもよー、折角の行事だぜ? 楽しまなきゃ損じゃないか? 観戦するよりかは、対戦したほうが楽しいだろ?」
[吹雪]:「確かにそうかもしれないが、お前は魔法をほとんど使えない。そんな奴が出場しても、勝てる可能性なんてぶっちゃけ0に等しいだろ」
[翔]:「何かないかよ? 詠唱しなくても成功する魔法とか」
[吹雪]:「ねぇよ、そんなもの」
[翔]:「じゃあ、手軽に使えて威力絶大なものとかは?」
[吹雪]:「あったらとっくにみんな使ってんだろ?」
[翔]:「んー、くそー、何か打開策はないのかー?」
[吹雪]:「俺が知るわけないだろ? あ、舞羽、それと俺のシューマイ交換しようぜ」
[舞羽]:「あ、うん、いいよ。はい」
[吹雪]:「サンキュー」
[翔]:「おい~、楽しそうに昼食食ってないで、何かいい方法考えてくれよー」
[吹雪]:「んなこと言われてもよー、なあ? 舞羽」
[舞羽]:「うん、私たちは出ないから。マジックコロシアムに」
[翔]:「友達が、親友が困ってるのにお前らは手を貸さないというのか? その行為はあれだぞ? 下が谷底になってる不安定なつり橋を渡ってる最中に不運にも橋が壊れて、かろうじてぶら下がって下に落ちないように必死にこらえてる友人を、『ふ、お前とはここまでだ』って言ってその場を去ろうとする行為と同じだぞ」
[吹雪]:「長いんだよ台詞が! もっとコンパクトにまとめろ、コンパクトに」
[翔]:「助けてー」
[吹雪]:「だが断る!」
[翔]:「そこを何とか吹雪ちゃん」
[吹雪]:「じゃあ、一つだけアドバイスしてやる」
[翔]:「え? 何なに?」
[吹雪]:「「出るのやめな」
[翔]:「解決してねぇじゃーん」
[吹雪]:「だー、飯くらいゆっくり食わせてくれよ」
さっきから箸を進めることができねぇんだよ。