アンダンテ 【吹雪の日常】 6
[場所:教室]
――で、そんなこんなで朝のホームルームなわけだが。
[繭子]:「はいはーい、みんなおはよ~~」
こんなんで、本当に担任が務まるのが不思議でしょうがない今日この頃だ。初めてこの光景を見た人はきっと「え? このクラスって生徒が生徒を教えるの?」って思う人が大半を占めるだろう。俺が初見でも、きっとそういう自信がある。俺から言わせれば、あのマユ姉が教師をしてるってことが一番の不思議なんだけどな。
[繭子]:「みんな元気ですか~? 先生はとっても元気でーす。どれくらいかって言うと、グランドを3周半できるくらい元気でーす」
何だその中途半端な周数は、しかも3周半など体調が優れない人でも頑張れば走れるわ。
[繭子]:「じゃあ、早速出席取りますね~。安孫子くん」
[男子生徒]:「はーい」
[繭子]:「……以下略でーす」
[吹雪]:「馬鹿ったれ!」
持っていたペンをおでこ目掛けて投げた。
[繭子]:「にゃあああうっ!?」
[翔]:「おお、すげー」
[男子生徒]:「さすがは大久保だぜ……」
[吹雪]:「楽をしようとするな楽を。生徒の確認は教師の基本だ、それくらいしっかりやれ」
[繭子]:「ぶー、はーい。じゃあ続けまーす。池上さん――」
[吹雪]:「どっちが先生だか分かんないな」
近くの生徒がそんなことをつぶやいている。俺も正直そう思っていた。
[繭子]:「じゃあ、連絡がありますから、よーく聞いてください。いいですか? もう一度いいますよ? よーく聞いてください。いいですかー?」
そこは繰り返さんでもいいだろうが……。
[繭子]:「明日から暦は十二月に変わりますけど、それに伴って、いよいよ代表4人のピアニストとハーモニクサーが発表されます。誰が選ばれるかは、先生も分かりません。生徒かもしれないし、教師の中かもしれない。ひょっとしたら、選ばれないかもしれない」
ねぇよ!
[繭子]:「とにかく、年を無事に越すためのだいーじな式典なので、代表に選ばれたかたは、強い意志と志を持って望んでください。いいですね?」
――四季を司るピアノがこの島には存在する。『桜花のピアノ』、『海風のピアノ』、『月影のピアノ』、『風花のピアノ』。この四つのピアノを奏でることで、島の四季は保たれ、平和に過ごすことができるんだ。この時期には毎年、そのピアノを奏でるためのピアニストを4人と、ハーモニクサーと呼ばれる、ピアニストの力を最大限引き出す者を一人選出するのだ。ピアノを奏でるために必要なものは、才能と魔法、そして、平和を願う強い心。これらを兼ね備えたものが、ピアノを奏でることが可能なんだ。ハーモニクサーにおいても同じようなことが言える。ピアニストを信頼し、平和を願う心を兼ね備えた者がこの役職に選ばれる。蓋を開けて見るまでは誰が選ばれるかは分からない。しかし、選ばれた者は確固たる意志を持ってやり遂げなければならない。選ばれたということは、それだけ名誉なことでもあるからだ。これは、ハルモニア学園の歴史と伝統だ。