スピリトーゾ 【前日準備といちゃもんと……】 3
[吹雪]:「何かは聞いてませんが」
[フェルシア]:「ああ、多分あれよ、あれ」
[吹雪]:「あれって言いますと?」
[フェルシア]:「んーっと、宿題の問題とか、授業中に聞かれそうな質問とかに関する答えとか」
[吹雪]:「え、じゃあ先生がその答えを考えてるんですか?」
[フェルシア]:「ううん、違うわよ。マユが自分で出した答えを、私がチェックしてるのよ。これはちょっと理解に難しいとか、この答えはおかしいって感じで」
[吹雪]:「なるほど」
[フェルシア]:「見えないところでマユは努力してるのよ、びっくり?」
[吹雪]:「まあ、少し。でも、先生にまで協力してもらっていいのかな」
[フェルシア]:「いいに決まってるわよ。教師間は助け合いが必須なんだから。それに、私は毎日授業があるわけじゃないし、手伝わない理由はないわ」
[吹雪]:「優しいですね、先生は」
[フェルシア]:「あら、吹雪くんには負けるわよ」
[吹雪]:「はい? 俺ですか?」
[フェルシア]:「そうよ、いつもマユから聞いてるわよ。吹雪くんの活躍っぷりは」
[吹雪]:「言わなくていいのに」
[フェルシア]:「毎日家事をやってくれてるらしいじゃない。ワタシが教師を続けられてるのは吹雪くんがいるからって言ってたわ。笑顔でね」
[吹雪]:「マユ姉は、家事全くできませんからね。俺がやるしかないんです」
[フェルシア]:「まあ、そうでしょうね。あの子、見た目からしてできなそうだし」
悪い意味で期待に答えてしまってるからな。
[吹雪]:「好きで進んでやってるわけじゃあないんですよ」
[フェルシア]:「まあ、そうよね。家事は女の仕事みたいなものだもんね」
[吹雪]:「少しでいいから覚えてほしいものですよ。皿洗いとかでいいから」
[フェルシア]:「あ、それもできないんだ」
[吹雪]:「はい、必ず一枚は割っちゃいますから」
[フェルシア]:「……筋金入りなのね」
[吹雪]:「そうなんですよ」
[フェルシア]:「まあ、マユらしいといえば繭子らしい、か」
[吹雪]:「それくらいできないでどうするの、って思うんですけどね」
[フェルシア]:「甘えてるのかもしれないわよ、吹雪くんに」
[吹雪]:「甘えすぎてると思うんですけどね」
[フェルシア]:「まあまあ、その分、暮らすためのお金を稼いでるわけだし」
[吹雪]:「そうなんですよね」
そこが一番のポイントだ。何だかんだ言っても、マユ姉が給料をもらってくれてるから、こうして二人で生活が可能なんであって。稼ぎがなければ、俺一人では家計を賄っていくことは不可能だ。
[フェルシア]:「せめて学園卒業まではやって上げないと、ね」
[吹雪]:「そうですね、やるつもりではいますけど」
[フェルシア]:「うん、エライ。それでこそ吹雪くんね」
[吹雪]:「いや、そんなことは」
俺はお茶を一口啜った。
[フェルシア]:「あ、そういえば聞いたよ。マジックコロシアム出るんだってね」
[吹雪]:「マユ姉からですか?」
[フェルシア]:「ええ、というより、結構噂になってるみたいよ」
あの二人の仕業なんだろうか?
[フェルシア]:「優勝候補の一角だとかなんとか」
[吹雪]:「そんなこと言ってたんですか?」
[フェルシア]:「ううん、私が今考えた」
[吹雪]:「先生」
[フェルシア]:「うふふ、でも、嘘じゃないわよ。私は優勝する可能性はかなり高いと思ってるわ」
[吹雪]:「そうなんですか?」
[フェルシア]:「ええ、吹雪くんの部活の副顧問ですからね、こう見えても」
指で自分を差しながら。
[吹雪]:「補正かけてるんじゃないですか?」
[フェルシア]:「かかってもかかってなくても好勝負が期待できるわね」
[吹雪]:「そうですか?」
[フェルシア]:「だって、何だかんだ言っても、吹雪くん、上位進出狙ってるでしょう?」
[吹雪]:「ま、まあ」
やるからには、全力で望まなければもったいないからな。俺で通用するのかがよく分からないが。
[フェルシア]:「応援してるわ、がんばって」
[吹雪]:「はい、先生は明日は救護班に回るんですか?」
[フェルシア]:「おそらくね。無傷で終わる試合は多分ないと思うからね」
そりゃそうか、コロシアムだからな。
[フェルシア]:「あらかじめ自然治癒の魔法を出場者にかけておくってのもありかもしれないけど、そこまでタフじゃないからな、私は」
[吹雪]:「先生がいるからこそ、こういう大会も開催できるんだと思いますよ」
[フェルシア]:「ふふ、本当に吹雪くんはいい子ね。繭子に譲ってもらおうかしら?」
[吹雪]:「いやいや、先生はもっといい男ゲットできますよ」
[フェルシア]:「……結構本気なのに、残念」
冗談、だよな、うん。
[吹雪]:「先生も頑張ってください、明日」
[フェルシア]:「ええ、合点承知」
ちょうど、授業5分前のベルが鳴った。
[吹雪]:「おっと、そろそろ行かなきゃ」
[フェルシア]:「そお、もう少し話したかったわね」
[吹雪]:「また今度ってことで、ごちそうさまでした」
[フェルシア]:「ええ、また来てね?」
[吹雪]:「はい、失礼します」
俺は頭を下げて保健室を後にした。応援してもらったし、やれるだけのことはやらないとな。




