スピリトーゾ 【前日準備といちゃもんと……】
11月27日(金曜日)
[場所:廊下]
[繭子]:「あ、いたいた、ふーちゃーん。おーい」
[祐喜]:「ん? ねえ吹雪。繭子先生が呼んでるみたいだよ」
[繭子]:「おーい」
この近さなのに手を振る必要性はあるんだろうか。マユ姉はこっちに走り寄ってきた。
[繭子]:「ふーちゃんだ。元気ー?」
[吹雪]:「いや、朝も一緒に登校したし、第一一緒に住んでるんだから分かるだろ」
[繭子]:「むう、そういう返答を女の子は求めてるわけじゃないよー? もっと心に響くような返事をしなくちゃさあ」
[吹雪]:「どんなのだよ」
[繭子]:「例えば――ついさっきまではあんまり元気がなかったけど、お前の姿が見えたら、一気に元気が沸き上がってきたよ。見たいなー?」
[吹雪]:「何処のバカップルだよ、それ」
[繭子]:「いいのー? そんな風に否定してー? 全世界のカップルを敵に回しちゃうわよー?」
[吹雪]:「あんたは姉だろ? 姉にそんなこと言えるわけないだろ普通に考えて」
[繭子]:「――からの」
[吹雪]:「ねぇよ」
[繭子]:「もう、ふーちゃん冷たいなー。やっぱり吹雪だから?」
[吹雪]:「祐喜、行こうぜ」
[繭子]:「あーん、待ってプリーズ!」
服の裾をぐいっと引っ張られた。
[繭子]:「先生を無視するなんてひどいんじゃないのー?」
[吹雪]:「先生が生徒をからかっていいのかよ?」
[繭子]:「うぐ……からかってないもん。指導だもん」
[吹雪]:「生徒の名前を馬鹿にするのが指導だと?」
[繭子]:「馬鹿になんてしてないよー。遊んだだけだよー」
[吹雪]:「それが馬鹿にするって言うんだよ、馬鹿もの」
[繭子]:「先生に向かって馬鹿って言った? 先生に言いつけるよ」
[吹雪]:「あんたが先生だろうが」
[繭子]:「ああ、そうだったね」
話が前に進まない……。
[繭子]:「で? 何の話だったっけ?」
[吹雪]:「俺は呼んでねぇよ。つか忘れるな、その件は昨日聞いた」
[繭子]:「昼間からトリプル突っ込み、日に日に腕を上げていくね、ふーちゃんは」
[吹雪]:「マジで、用件あるなら言ってくれよ。祐喜もいるんだからよ」
[繭子]:「あ、ヨッシー。元気―?」
[祐喜]:「はい、出席の時に言った気がしますけど」
[繭子]:「うん、生徒が元気だと、ワタシも元気になる。これが、元気の連鎖ってものなのかしら」
[吹雪]:「……そんな世間話をしに来たのかよ」
[繭子]:「ううん」
[吹雪]:「……そろそろ切れちゃうぜ? 俺も」
[繭子]:「あーん、待って待ってー。プリーズウェイト!」
[吹雪]:「ならさっと言え、さっと」
[繭子]:「うんとね……そう、これこれ」
マユ姉は胸ポケットから一枚の封筒を取り出した。
[繭子]:「これを、フェルに渡して欲しいの。ワタシ、これから職員ミーティングがあるからさあ」
[吹雪]:「話す時間があったなら渡せたんじゃないのか」
[繭子]:「あはは、そうかもね」
笑ってごまかされても困るよな。
[吹雪]:「もう時間ないからさー。ねえ、お願い」
手を合わせて首を傾げられる。
[繭子]:「お礼は今度するからさー」
[吹雪]:「今までしてもらった覚えないんだけども?」
[繭子]:「じゃあ、お給料入ったら何か買ってあげるわー。ふーちゃんの好きなもの。それならいいでしょー?」
[吹雪]:「別にそこまでしてもらわなくてもいいよ」
仕方ないな。
[吹雪]:「早く行きな。遅れちゃうだろ」
[繭子]:「行ってくれるの? ありがとーふーちゃん。持つべきものはマーベラスブラザーだね」
[吹雪]:「ミーティング中に寝るなよ」
[繭子]:「うん、頑張って起きまーす」
[吹雪]:「起きてるだけじゃなくてちゃんと話を聞いてろよ」
[繭子]:「分かってるよー、これでも教師だもーん」
ふらふらーっと、マユ姉は職員室に戻っていった。
[吹雪]:「さて、ごめんな祐喜」
[祐喜]:「持っていかないといけないのかい?」
[吹雪]:「ああ、これをな」
預かった封筒を見せる。
[吹雪]:「昼食を早く済ませて行かねぇと」
[祐喜]:「そっか、じゃあ少し急ごうか」
[吹雪]:「ああ、悪い」
[祐喜]:「いいよ、これくらい」
俺たちは早足で食堂に向かった。




