アンダンテ 【吹雪の日常】 18
――と、そうだ。
[吹雪]:「あの、先輩、ちょっと相談いいですか?」
[カホラ]:「うん? どうしたの?」
[愛海]:「ひょっとして、恋のなや――ぶにゃっ!?」
余計なことを言われる前に、俺は手刀を振り下ろした。
[吹雪]:「実は――これなんですけど」
[カホラ]:「あ、すごいじゃない。ここまで出来たのね」
[吹雪]:「ありがとうございます、でも、ここからが進まなくて」
[カホラ]:「ふーん、ちょっと見せてもらってもいいかしら?」
[吹雪]:「はい、どうぞ」
俺は先輩に機械を手渡した。
[カホラ]:「ふんふん、なかなかしっかりしてていいんじゃない? 魔法ブースターも問題なく完成してるようだし」
[吹雪]:「ありがとうございます」
[カホラ]:「このフィルムは、舞羽が作ったの?」
[舞羽]:「はい、あまり上手くはできなかったんですけど」
[カホラ]:「全然問題ないわよ、じゃあ、魔法ブースターは吹雪が作ったのね」
[吹雪]:「はい、一度作ったことはあったんで」
[カホラ]:「上手ね、売り出すことも可能かもしれないわよ?」
[吹雪]:「いや、それはないですよ」
先輩に褒めてもらえるのは、やはり嬉しいな。
[カホラ]:「なるほど、それで、何に悩んでるのかしら?」
[吹雪]:「えっと、もう一工夫を加えたいって思ってるんですよ。で、さっきから考えてるんですけど、何処に工夫を加えたらいいかが分からなくて」
[カホラ]:「つまり、もっと完成度の高いものにしたいってことね?」
[吹雪]:「そうですね」
[カホラ]:「これでも十分高い気もするけど、二人はまだ物足りないって思ってるのよね」
[愛海]:「カホラ先輩、私はー?」
[カホラ]:「愛海は口出ししかしてないんでしょー?」
[愛海]:「え、そ、そんなことはありませんよ?」
[カホラ]:「じゃあ、何処を作ったの? 愛海の製作した部分が、私には見えなかったんだけど」
[愛海]:「えっと、私は……応援をしてました」
[カホラ]:「翔と一緒に、でしょ?」
[愛海]:「う、はい……」
何でもお見通しなんだな、先輩は。
[愛海]:「でも、一生懸命頑張りましたよ、応援を」
[カホラ]:「そうなの? 二人とも」
[吹雪]:「…………」
[舞羽]:「…………」
[吹雪]:「……はい」
[カホラ]:「今の間がちょっと気になるけど、そういうことにしておこっか」
俺たちは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。
[カホラ]:「あれ? そういえば翔は?」
[吹雪]:「ああ、今日は来ないって言ってました」
[カホラ]:「あ、そうなの」
[吹雪]:「はい、野暮用があるとかないとか」
どうせどうでもいいことなんだと思うが。アイツの野暮用なんて、俺たちにとっての下らないものに違いないからな。
[吹雪]:「明日聞いてみます」
[舞羽]:「多分、いつものだよね」
[吹雪]:「多分な」
[カホラ]:「そっか、分かったわ。――さて、話を戻しましょう」
[吹雪]:「はい」
[カホラ]:「うーん、そうね。完成度の高いものにするってなると、もっと大きいものにするのが手っ取り早いんだけど、ここまで来てそれはちょっとあんまりよね?」
[吹雪]:「そうですね、ちょっと捻った感じが理想的かもしれないです。な?」
[舞羽]:「そうだね」
[カホラ]:「なるほど……ちょっと時間もらってもいいかしら?」
[吹雪]:「はい、もちろんです」
先輩はしばらく機械を見つめながら、腕を組んで考え始める。
[吹雪]:「俺たちももう一度考えよう」
[舞羽]:「そうだね」
……………………。
…………。
……。