モデラート 【放課後の過ごし方】 7
[吹雪]:「俺、まだ何が欲しいのか言ってなかったのに」
[カホラ]:「言ったでしょう? 吹雪のことは何でも知ってるって」
[吹雪]:「マジですか」
[カホラ]:「本当は、吹雪が上を見て悩んでたみたいだったからなんだけど」
軽く舌を出しておどけて見せた。
[カホラ]:「どっちにしたって、使うでしょう? 梯子」
[吹雪]:「はい、助かります。あそこにあるんですよ、見えます?」
俺は上から3段目の本棚を指差す。
[カホラ]:「ありゃ、随分高いわね」
[吹雪]:「背伸びしても絶対に届かないですよ、あの高さは」
[カホラ]:「じゃあ、持ってきて正解?」
[吹雪]:「はい、大正解です」
[カホラ]:「ふふ、誉められた」
[吹雪]:「じゃあ、ちょっと使わせてもらいますね」
[カホラ]:「ええ」
俺は梯子をかけ、本に向かって少しずつ上っていく。
[カホラ]:「大丈夫? 吹雪」
[吹雪]:「はい、大丈夫です」
[カホラ]:「気をつけてね」
[吹雪]:「はい」
慎重に、慎重に……。よし、後少しだ。
[吹雪]:「よし、着いた」
後はこの本を抜き取って、下に降りるだけ。だが、
[吹雪]:「お、おおっ」
見なければよかったー、思った以上に下まで高さがあったー。
[カホラ]:「どうしたの? 吹雪」
[吹雪]:「い、いえ、問題ないですよ」
[カホラ]:「ひょっとして、高さに驚いちゃった?」
[吹雪]:「え? いえ、そんなことは、ないですよ?」
[カホラ]:「ふふ、そう」
強がり言ったが、先輩のあの顔、多分感づいてるんだろうな。俺のことは何でも知ってるって言ってたし。
[カホラ]:「ちゃんと押さえてるから、心配しないで」
[吹雪]:「はい、ありがとうございます」
とりあえず、降りよう。足下を見ながら降りれば問題はないはずだ。
[吹雪]:「そーっと、そーっと」
よし、このままいけば、問題なく。
[吹雪]:「――あ」
[カホラ]:「え?」
しまったー! 足を踏み外したー。何でだよ? 俺一時も目を離さず足下を見ていたのに。……あ、よく見たらあれ、先輩の足じゃないか。俺の馬鹿ー!
[吹雪]:「ぎゃああああ!?」
[カホラ]:「きゃああああっ!?」
バランスを失った梯子はゆっくりと傾いていく。俺の体は梯子を離れ、先輩めがけて一直線。
[吹雪]:「うわああああっ!?」
ドン。
ガタンガタン。
大きい音を立てて、梯子は後方に倒れた。
[吹雪]:「いっててて……」
うー、助かった。どうやら体に異常はないらしい。
[カホラ]:「ふ、吹雪」
[吹雪]:「ん?」
何だろう、顔にすごい柔らかな感触がする。一体これは……?
[カホラ]:「ちょ、ちょっと吹雪。顔、顔どけて」
[吹雪]:「え? ……」
こ、これは、ひょっとして――!?
[カホラ]:「うわああああああああっ!?」
俺は急いで顔を離した。自分が何をしてやがったかようやく理解できた。
[吹雪]:「すすすすす、すいませんでした先輩。おおおおお、俺、俺、せせせせせ先輩にとんでもないことを」
[カホラ]:「と、とりあえず落ち着きなさい。口が回ってないわよ」
[吹雪]:「あ、は、はい。スーハー」
[カホラ]:「落ち着いた?」
[吹雪]:「あ、え、えっと、えっと、そそそその……」
[カホラ]:「変わってないじゃない、もう一回深呼吸。落ち着いてしなさい」
[吹雪]:「は、はい。スーハー、スーハー」
[カホラ]:「どう? 今度は大丈夫?」
[吹雪]:「は、はい、す、すいませんでした!」
俺は大きく頭を下げた。
[吹雪]:「お、俺のせいであんなことに、ごめんなさい」
[カホラ]:「いいわよ、大丈夫。事故だったんだし、吹雪は自ら危険を犯してまで胸に飛び込みたいと思うほどやんちゃじゃないはずだしね」
[吹雪]:「そ、それはもちろんです」
[カホラ]:「ならいいわ、許してあげる。梯子登る時は気をつけなさいよ」
[吹雪]:「は、はい」
随分あっさりと、普通ならパンチやキックが飛んできても不思議ではないのに。やはり先輩の物腰は大人だな。




