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イタチ憑きの娘  作者: ヒデヲ
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三番目の子

 子を生すのは二人まで、三人目にはイタチが憑りつく。


 それが式部家に代々伝わる因習だ。イタチが憑りつくと、家に様々な災いが降りかかる言われている。しかし時代が流れるにつれ、信じる者は少なくなっていった。実際に半世紀ほど前に三人目の子供が生まれたときがあり、その当時は言い伝えなんて所詮は作り話だと高を括っていた。しかし本当に家に災厄が降りかかった。その時の被害は恐ろしいもので、イタチ憑きであった三人目の少女から二親等以内の家族は全員亡くなり、四親等以上だと大きな怪我をする者が現れた。唯一無事だったのは、何故かイタチが憑りついている三人目の少女のみだったという。


 式部家に伝わるイタチというのは真っ白な体毛をしており、ちょうどイタチの一種であるオコジョが冬に換毛して白い体毛を生やしている姿に近い。しかし実際のオコジョが一五センチぐらいであるのに対し、伝説のイタチは人ひとりを簡単に切り裂くことが出来る程大きいとされている。また瞳の色もオコジョ違って銀色の瞳をしており、暗闇の中でその双眸は真っ白な光を放つという。まるで人魂が二つ闇の中に浮かんでいるように見え、その双眸に睨まれた者は魂を抜かれると恐れられた。これが式部家に伝わるイタチの容貌だったが、あくまでこれは伝説として大げさに脚色されているのだと思われていた。

 しかし実際に亡くなった者は、大きな獣に襲われたようにずたずたに引き裂かれており、運よく生き残った者は言い伝えどうりだったと顔を蒼くして語った。また、巨大な獣姿を見たという目撃情報も見られ、伝説は本当であったのだと思い知らされた。

 

 イタチによる災厄が終わったのは、一通りの人間が殺されたり怪我を負った後だった。その様子は巨大な台風が過ぎ去り、後に残った瓦礫の山のような惨状であった。

 三人目の少女の立場の悪さといえば酷いもので、なにしろイタチが憑りついているはずの本人だけが無事だったものだから、周りからの非難が絶えなかった。まるで、残酷な事件を起こしておきながらのうのうと暮らしているような凶悪犯みたいに見てくるのである。

 なんにせよ、死んだ少女の家族は所謂本流にあたる重要な地位を占めていた。それがばったばったと倒れたとなったら次は誰が当主になるのだと親戚筋が騒ぎ始めた。


 式部家は昔から日本の兵器や武器の開発に携わってきた名家だ。戦後のGHQの政策によって規模は縮小されたが、現在でも自衛隊の兵器の開発に関係したりと強い影響力を持っている。その一族の長となれば莫大の利益を受けることが出来るわけだから、誰もが当主となりたがった。もちろん中には、もうイタチの災厄に関わりたくないという人間もいたが、それでもやはり欲というのは人間を愚かにさせたのだ。


 そういった理由から当時の話し合いは難航を極めたというが、当初から三人目の少女は当主にならないことだけは決まっていたようで、少女は話し合いに関わることはほとんどなかったという。

 話し合いの末、少女の父親の弟、つまりは少女の叔父が当主となることが決まり、お家騒動は収束に向かって行った。


 さて生き残ってしまった三人目の少女であるが、その後は家を出て行くこともせず家の奥に引っ込んで誰とも関わろうとしなかった。他の親戚も無理して関わることはせず、ほうっておくことにした。下手に関わって災厄が降りかかるのが嫌だったからだ。


 今回の騒動を通して、イタチの呪いの恐ろしさを知った式部家は、もう二度とこんなことが起きてしまわないように三人目の子供は産まないことを誓い、今まで以上にこの因習を守っていくことを決めた。


 しかしそれから半世紀ほど過ぎた現在。

 

 双子という予想外の形で三人目の子供が生まれてしまったのである。



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