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第四話

「で、魔王様つかぬ事を聞きますが」

俺が魔族の下僕になってから一日が過ぎた。相変わらず体はだるいし気分は最悪だしで働く気はまったく起きなかったが、今朝もイーリスに日が昇る前にたたき起こされ下僕としての仕事の一つ一つを教え込まれた。簡単な掃除、炊事、洗濯など。まあ普段俺がやっていることとさほど変わりはない。人数分だけ量が増えたというだけの話だ。

「どうした下僕23号」

「その呼び方やめてもらえませんか」

豪奢なシャンデリアが飾ってある食堂で簡単な朝食を済ませ、時間が空いていたので声をかけたのだがこれは失敗だったかもしれない。だってさこの人寝起きだから不機嫌だし今にも暴言吐きそうな雰囲気だし。

「何を急に。私が与えた立派な名前じゃないか」

黒のネグリジェ一枚に薄手のカーディガンを羽織っただけの格好で魔王がしれっと言い返す。はい今日もゴージャスで色っぽいお姿ですが性格は問題ありまくりです。というか横暴にもほどがあります。いくらその規格外のけしからん谷間を見せ付けたところで…おっと失敬。チラリとのぞかせるそれはすばらしいです。

「もう呼び名はともかく、俺の仕事の話ですよ」

「ああ、まだ話してなかったか。イーリスこちらにあれを持ってきなさい」

何故か下僕の俺と使う言葉が違うのは突っ込むべきだろうか。一瞬考えたものの下僕だからの一言で片付けられそうなのでやめておいた。

「本日の仕事一覧とベルゼブブ家の家訓、あとは魔族新報です」

「魔族新報はこちらに。あとは下僕に渡しておきなさい」

魔王はイーリスから新聞らしきものを受け取りざっと全体を眺めていた。右に倣って俺もチラシの裏に書かれた家訓と仕事内容を確認する。


家訓

1ベルゼブブ家の一員はその一人一人が魔族の頂点に立つものとしての自覚を持ち悪辣に行動するべし。

2ベルゼベブブ家の一員は日々清らかで純粋な悪の心を忘れず、税を農民から一滴残らず搾り取るべし。

3ベルゼブブ家の一員は朝日が昇ってから沈むまで汗水たらして懸命に働き、同様に下僕をしごきあげるべし。

4ベルゼブブ家の一員はいかなるときも平静を保ち、弱きをくじき強きを守るべし。

5ベルゼブブ家の一員は……


もういいわ!滅茶苦茶なことしか書いてないわ!なんなのこのブラック加減。一見まともそうなこと書いてるけど後半がおかし過ぎるだろ。仕方ない。次は仕事の中身を調べるとするか。


本日の仕事

1家畜の餌やり

飼育小屋にいる鶏、豚、牛を生かさず殺さず上手く管理しましょう。

2庭掃除

庭は家の状態を示すといいます。魔族の誇りにかけてしっかり綺麗に保ちましょう。

3勇者退治

最近近くで領地を荒らす勇者が増えています。魔王様の弟も攫われました。勇者が二度と叛意を起こさないよう完膚なきよう叩きのめしてついでに弟も救いましょう。

4風呂焚き

魔王様は日々のお仕事でたいそうお疲れです。主を身も心も清潔に、美しく保つには毎日のお風呂が欠かせません。気を抜かず頑張りましょう。

psシャンプーの詰め替えだけは忘れずに


うん。なんか真ん中にさりげなくすごいことが書いてあるんだけど。特に三番。

えっ魔王の弟攫われてたの?これってピンチじゃないの。そしてどうしてそれを先に言わない。


「イーリス、今日中に俺は全部これを終わらせられるんだろうか」

「下僕23号さんならきっと大丈夫です」

イーリスは棒読みで答える。うん。端から期待されてないということでいいのか。

「ちなみに終わらせられなかったら?」

俺は一抹の不安を覚え質問する。

「そのときは命の保障はいたしかねます」

にこやかな笑みを浮かべてイーリスはナイフを俺ののど元に向ける。なんでこの人たちはすぐ暴力に訴えるのかな。

「大丈夫です。そこまで難しいことは要求されてませんから」

自分でできないことを人に押し付けてるのにも関わらずこの言い草はどうなんだろう。

「そうだ下僕23号、お前の知識と技量と熱意があればどんなことも不可能ではない」

ついでに食堂のテーブルで新聞を読み終えた魔王が口を挟んでくる。

「ってあなたの弟が攫われてるんですよ。どうしてそんなに冷静でいられるんですか!」

「冷静も何も私は今胸が引き裂かれるような思いをしている」

「だったらおかわりのオレンジジュースいりませんよね」

ガラスの杯を持ち上げてオレンジジュースを注ぐように促す魔王を尻目に俺は冷たく言い返す。

「ぐぬぬ。そういう話でもないだろう」

「俺はこれから弟さんを助けに行かないといけないのにこんなのんびりしていていいんですかね」

「……行けばわかることもある」

幾分か複雑そうな顔で魔王は言葉を濁す。

「イーリス今日はあなたが下僕を見張って、彼に困ったことがあればフォローするように」

「承知いたしました」

結局うやむやにされてしまった。うーん。今日も一日大変なことになりそうです。

「それではまずは家畜の餌やりから始めましょうか」

えっ。弟助けるのが最初じゃないの?弟の命の優先度がそんなに低いの?

「下僕23号さん、何事にも順序というものがあるのです」

やれやれとイーリスは肩をすくめた。朝食の片づけを早々と済ませ廊下に出ると先を急ぐように歩き始めた。

「ちょっと待ってくれよ」

俺の言葉が届いているのかいないのか、彼女は家畜小屋へと歩を進めるのであった。



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