第十五話
さてお使いも済ませた俺たち一行は魔王城で報告をし一息ついたのだった。
久々の我が家は落ち着くね。まあ実際は魔王様のお城なんだけどさ。
「魔王様、俺結構がんばったんでご褒美ください」
せっかくなのでおねだりをしてみる。すると魔王様は人を見下す素敵な罵声を浴びせてくれました。
「ハッ、下僕ごときがなに偉そうな口をたたいているのかしら。仕事を与えてやってるだけでも感謝してほしいくらいなのに褒美?馬鹿も休み休み言いなさい」
「でも今回俺はかなり頑張ったんですよ」
「具体的には」
「えーとセシルのお使いはちゃんと終わらせたし、イーリスにもプレゼント買ったし。途中押し売りにあったりランジェリーショップで誤解されたりしたけど無事へこまず立ち直れたし、俺凄くないですか?」
「別にたいしたことではないわ。しかも後半はお前の自業自得よ」
「えー自業自得ってひどくないですか。頼みますから今日も魔王様の可愛い下僕に何か優しい一言お願いしますよ」
「じゃあ言わせてもらうわ。お可愛そうに貧弱なハートと図太い神経を持って、わざわざ身から出たさびを自ら報告した挙句褒美を求めるだなんて。本当に頭の中がお花畑な下僕ですこと。涙が出てきそうだわ」
魔王様は口元に手を当ていかにも俺に同情しているといった体を装う。
「それって可愛い下僕じゃなくて可愛そうな下僕と取り違えてません?」
「あらっ違ったのかしら」
悪げもなく言い返すあたりが流石魔王様。今日は黒のチャイナドレスを身にまとっているのですがスリットからのぞく太ももが大変美味しいです。それ以外はマジで勘弁してほしいくらいの貫禄と迫力があります。
「まあイーリスとセシルの下着を新調できたことは褒めてやらなくもないわ」
「おおっようやく俺の凄さに気がついたのですか。いやいや俺の主人は慧眼をお持ちのようですな」
「お世辞はありがとう。でもこれは下僕風情がよく恥じらいもなく堂々と買いにいけたものだわ、という意味よ」
ぶっちゃけこれって貶してるだけだよね?
「下着の件は二人とも頑固だから説得するのは骨が折れたと思うけれど」
ついでに一言付け足された。これは微妙にフォローされてるのか?
「イーリスはベルゼブブ家に来る前は近くの教会で暮らしていたから質素で堅実なのよね。でも女ざかりに着飾らないのももったいないと思うのよね。だから貴方がいると助かるわ」
ここからは他言無用だと念を押される。
「当ベルゼブブ家ではセシル、私、イーリスの順に相続権があったのだけれど、私以外の二人は相続権を放棄したのよ。本来はセシルが家督を継ぐはずだったのだけれどそれも呪いのせいで取り消されて」
どうやら魔族の家族関係は複雑らしい。魔王様は胸に手を当て話を続ける。
「昔はこの家も栄えていて使用人も大勢いたわ。でも先代が亡くなってからは、勇者に収奪を繰り返され貯蓄も底を尽きベルゼブブ家はほとんど解散に近い状態になってしまった。だからこの家に残っているのは帰る場所がない者だけなの。そういう意味ではイーリスや私、使い魔も同じ。皮肉な話でしょう」
寂しげに笑う魔王様。一体彼女たちにどれほどつらいことがあったのか。俺には聞くことができなかった。
「でも財政を立て直せばみんな戻ってくるのではないかって希望もあるの。城に貴方が来てから少しずつ元の雰囲気に戻りつつあるからこのまま諦めなければ。勝手に攫って契約させて悪かったとは思うけれど、貴方には感謝するわ」
魔王様が俺の手を握る。すると手の甲に浮かんだ紋様が怪しく蠢き、同時にひどい眩暈が襲ってきた。
「少し長話が過ぎたかしら。今まで城を離れていたから魔力が尽きかけていたみたいだからこれで終わりにするわ」
彼女が手を離すと急に気分が落ち着く。一体なんだったんだろう。
「ということで褒美に新たな仕事を与えるわ。貴方は今後わがベルゼブブ家の領地拡大と経営に尽力すること」
ってご褒美が仕事の追加なのかよ!思わず口から文句が出てきそうだったがそれをなんとかこらえる。
「せいぜい頑張りなさい。上手くいったら今度こそきちんとした褒賞を与えるわ」
「イエッサー」
おおっなんかよくわからんけど褒章の確約を得たぞ。
「あと大事なことを忘れていたわ。イーリスに耳飾をちゃんと渡すのよ。女の子にはタイミングってものがあるからなるべく早めにね」
「イエッサー」
更に俺の恋路を応援されてしまった。あれっこれは俺が付き合うフラグなのか。
「彼女を悲しませたら承知しないわ」
そう付け足され魔王様との謁見は終わったのであった。
以前投稿した内容があまりにあれだったので代わりに新しい話に。