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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第七章 『思惑と思い』
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一夜の幕引き


 フライデーに無数の刃を突きつけられ、ストレングスとクレマシオンは動きを止めた。


 それに伴い、周りに居た兵士や魔族たちも動きを止める。

 ただ、そんな状況の中でも戦おうとする者が中にはチラホラと見受けられた。

 フライデーはそんな奴らを見つけると、

「戦闘行為はおやめください」

 地面に落ちていた小石を蹴った。

 小石は弾丸の如き速さで跳び、その兵士の足元に飛来した。

「ひっ!」

 それに驚き、兵士は身を硬直させる。

 同時にその様子を見て、他の兵士や魔族たちに寒気が駆ける。


 ―――この場に居る全員が射程圏内。


 たった小石一つで、それを実感させられた。

 フライデーはため息交じりに、淡々ともう一度アナウンスする。

「両軍、剣をお納めください。それ以上戦闘を行うというならば、この場に居る魔族、人間、もろともに私が排除させていただきます」

 言葉の後、彼女の腕から飛び出していた刃が成長するように増大する。

 ただ剣山のように飛び出し、ストレングスとクレマシオンに向けられていた刃は、連なるようにしてドンドン彼女の袖口から発生し、次第に前後左右上下に伸びていき、樹のような形になる。

 そして、

「言葉で通じないようでしたら――――――」

 フライデーの瞳が冷たく光る。

 刹那、その『刃の樹』が風に揺られるようにカサリと音を鳴らした。

 同時に無数のナイフのような小さな刃が全方向に向けて射出された。

 それはさっきの小石同様、この戦場に居る兵士と魔族全員の目の前、足元に飛来した。

 ―――全員に戦慄が走る。

 その戦場の様子を確認して、フライデーは静かに言う。

「次は全員に当てます。死にたくなければお互い武器を納めて撤退ください」

 その言葉を聞いて、ようやく全員が動かなくなる。

 ……しかし、動かなくなっただけで、武器を納めることはしない。

 それは、各々のリーダーが未だ武器を納めていないからだ。


「―――ふざけるなよ」


 そう、唸るように声を零したのは、クレマシオン・・・・・・だった。

「どこまで……どこまでわしらを侮辱するつもりじゃ! 貴様らは!」

 彼はキッとフライデーを睨み付ける。

 それは、さっきまでの飄々としたつかみどころのない彼からは想像できないほど、怒りに満ちた形相ぎょうそうだった。

「貴様らはもはや魔族の恥さらしじゃ! 貴様らがそうやって人間に加担し続ける限り、わしらは一生日の光を浴びられんのじゃ!」

「……人間に加担? それはどういうことだ?」

 彼の放った言葉に、今度はストレングスが反応した。

 その様子に、フライデーは目を細める。

「遥か昔、魔族はヴォールの王によって地下に封じ込められました」

「なんだと……」

 歴史では、魔族は全滅したということになっている。もちろんストレングスもその知識を持っていたし、疑いもしなかった。

 しかし、ずっと違和感は抱いていたのだ。

 なぜ全滅したはずの魔族が現れたのか。死に絶えたのではないのか。

 その答えを、こんな場所で、あっさりと聞かされ、彼の思考は一瞬止まる。

 しかしお構いなしに、フライデーは隠された事実を淡々と続ける。

「そして今、我々はヴォールと契約し、地下での更なる安定した生活を約束に戦争を引き起こしたのです」

「……」

 もはやストレングスの口から、言葉は出なかった。

 思考が完全に歯車を止め、理解しようとする回路を凍結させる。


 何が起こっている。何を話している。今自分は何を聞いている。


 そんなフリーズしたストレングスを放っておいて、フライデーはクレマシオンに問う。

「さて、向こうはある程度戦意喪失したようですが……クレマシオン。あなたはいかがしま―――」

 そう、振り向いたとき、彼女の目に映ったのは、


 目前に迫る刃だった・・・・・・・・・


「貴様の言葉なぞしらん。魔王の手先が」

「無駄です」

 しかし彼女の袖口から発生している『刃の樹』から即座に枝がとび出し、クレマシオンの刃を受け止める。

「くっ!」

 次いで枝からまた枝が発生し、クレマシオンに向けて飛び出す。

 彼はバックステップでそれを躱し、刀を構える。

 それを見てフライデーは呆れて、ため息を吐く。

「あなたでは勝てませんよ。全滅する前に退くことをお勧めしますが?」

「お気遣いくださり感謝、とでも言えばいいのかのう? 全く魔王の木偶人形がわしに説教する出ないわい」

「木偶人形で結構です。あなたは違うのですか? 身勝手な正義の木偶人形では? いえ、それか没主観的な信者でしょうか? レーエンが言ったから全て正しい、などと。ふむ、没主観的とはまた違いますか。盲信、でしょうか。本当にあなた方が進む先に未来がおありだと?」

「応とも。そうでなければ進む意味なし!」

「やれやれ。何もかも無駄だというのに……残念です」

 もう一度ため息を吐き、フライデーは刃の枝をクレマシオンに向けて伸ばす。

 しかし、それはクレマシオンに当たらず、その残像を貫いただけ。

「歩法の弐『気霧散々』」

「所詮は残像。高速で移動しているわけではありません……そこです」

 淡々と、フライデーはクレマシオンの姿を捕え、枝を伸ばす。

 それは完全に彼を捕えていた。歩法の緩急を付ける合間に生じるわずかな隙を捕えた完璧なタイミング。

 しかし、


「―――歩法の壱『須臾しゅゆ』」


 その捕えたと思った瞬間、

 クレマシオンの姿は一瞬でフライデーの目の前まで迫っていた。

 瞬きもできないほど一瞬で、約10メートルの間合いをいとも容易く詰めた。

「わしらは、わしらの道を行く……」

 貴様は邪魔じゃ、と。

 横凪ぎに、刀が振るわれる。

 今度こそ、枝でガードする暇はない。

 完全に不意を突いた一撃。

 刃はフライデーの胴を切り裂き、人体の輪切りが完成する。



 ――――そのはずだった。



 一本の矢が、飛来した。

 それは彼女の胴を切り裂こうとしていたクレマシオンの刀に当たり、その軌道を変える。

「んなっ!!」

 驚いたのはクレマシオンだけ。

 フライデーはまるで分かっていたかのようにため息を吐き、

「お伝えしました。何もかも無駄なのだと」

 そして無数の刃の枝を伸ばし、クレマシオンの周りを囲うようにして鳥かご状にする。

「くそ! 何故じゃ『リュゼ』! 何故止めた!」

「大人しくしていてください」

「何じゃこのッ、離せフライデー!」

「大人なら大人しくしてください」

 フライデーはそう視線を、クレマシオンから飛んできた矢・・・・・・に向けた。

 それには紙が結び付けられており、彼女はそれを解いて中身を確認する。

 その内容を見て、概ね予定通りに事が進行していることを確認し、再びクレマシオンの方を見る。

 そしてその紙を見せて、



「どうやら、レーエンとトレラントは魔王様の軍門に下る決断をしたようです」



 その言葉に、今度こそクレマシオンは硬直する。

「……なん、じゃと?」

「内容は自分で文を読んで下さい」

 彼女はそうクレマシオンの目の前に飛んできた文書を出す。

 そして、問う。

 クレマシオンと、

 強国、ソルダート王国の王『ストレングス・・・・・・ソルダート・・・・・』に。



「さて、あなた方はいかがしますか?」



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