王と雷光 -2
ドルンからの帰り道。
ソルダート軍は魔族の夜襲にあった。
初めは隙を突いた魔族側の一方的な虐殺だったが、ストレングスの声で戦況一変する。
現在は兵士たちも応戦し、一進一退の戦況となっている。
「うぉらあ!!」
「ッ!」
荒々しく刃を振るうブリッツ。
ナックルダスター―――いわゆる、メリケンサック。
その先端に30センチ程度の刃が付いたもの。それが、ブリッツが振るっている武器である。
剣ではない、故に繊細な技術は必要なく、
刃渡りも短いため小回りが効き、彼のように振り回して使用するのに特化した武器である。
故に身のこなしだけで自由自在。
ブリッツはただ力任せに振るっているだけ、にも関わらず、剣技ではあり得ない方向から斬撃が出現する。
「どうした! 防戦一方か、おっさん!」
「―――図にのるな、童が!」
それを受け止め、受け流し、攻撃と攻撃の合間を縫って反撃するストレングス。
ブリッツが振るうのは二刀。速さも魔法で向上している。
にもかかわらず、ストレングスはそれに遅れをとっていない。
連撃を止め、一度距離をとったブリッツに、ストレングスは鼻で笑う。
「魔族は人間の三倍若いと聞く」
「あ? それがどうした?」
「となるとお前の年は30か40だろう」
「だからなんなんだよ!」
「フン、剣技ならば、人間ならその年で玄人と呼ばれる程度には技を極めているものだが……まだまだ若いな」
「んだと!」
「やはり童だ」
「ッ―――」
その嘲笑を見て、ブリッツは『疾風の雷光』を発動して、再度突撃する。
常人には、否、普通の魔族ですらあり得ないほどのスピードで。
地面を蹴り、稲妻の軌道を描きながら疾走する。
―――しかし、
「やはり直線的だ」
ストレングス剣を構え、振る。
冷静に、隙無く、最低限の挙動で。
その一撃は容易にブリッツの軌道を捕えた。
「ぐっ!?」
慌てて刃で防ぐブリッツ。
そこから彼は体を捻り、ストレングスの腹部目がけて蹴りを放つ。
しかしそれをストレングスは片手で掴み、
「だから童なのだ」
「なにッ!」
刹那、ストレングスのアイコンコンタクトで、近くに控えていた兵士が飛び出してきた。先ほどストレングスに声をかけていた兵士だ。
彼は剣を構え、ブリッツを両断せんと迫る。
それに気づいたブリッツに冷たい感覚が走る。
慌てて体を捻り、逃げようとする。しかし間に合わない。
―――切られる。
そう確信した時だった。
「必中の雨粒」
弓矢がその兵士の前に降り注いだ。
狙いは兵士の脚。ブリッツに向かっている足を止めるために放たれた矢だった。
そして狙い通り矢は鎧の隙間を抜け、兵士の脚を射ぬく。
――――――しかし、
「あああああああああああああああああああああああッッ!」
兵士はそれでもなお進み、躓きそうになりながらも強引にブリッツに迫る。
その根性を見て、ストレングスは笑い、ブリッツは戦慄する。
そして狙い通り、刃がブリッツの胴に迫る。
本当に殺される。
「くそがああああああああああああああああっっ!!!」
「でかい声じゃのう」
ガキンッ、―――
振られた刃は、刃によって受け止められた。
「何!?」
「そこの王様もブリッツも燥ぎ過ぎじゃ」
ブリッツの目の前で交差する刃。
剣と交わる、刀。
クレマシオンはニヤリと笑って剣をはじき返し、ストレングスの手からブリッツを奪い返すと、距離をとる。
それを見てストレングスは不満げな顔をする。
そして「申し訳ありません」と頭を垂れた兵士に、「よい」と言い剣を構え直す。
「俺も少々、ガキと思って気が緩んでいた。次は仕留める」
「はいっ」
そんな二人の様子を見て、クレマシオンは肩を竦めて笑う。
「国王自ら仕留めるとは、野蛮な王じゃのう」
「前線にひるむ王など、王にあらず。貴様らの王は違うようだがな」
「ん? ああ、魔王のことを言うておるのか。ハッ、確かに、アレは王ではないのう」
「……どういうことだ?」
「語る必要はなし。わしらはただお前たちをここで打ち倒すのみよ」
「ていうかいい加減離せよクレマシオン!」
「おっと! すまんすまん」
暴れるブリッツを離しクレマシオンとブリッツは構え直す。
そしてストレングスと兵士を見て、
「ブリッツは兵士、わしが王様を相手した方がよいかの」
「ああ!? 俺が先に目を付けたんだぞ! 横取りすんな!」
「ふむ。しかしお前じゃあ勝てんじゃろ?」
「んなっ!! っざけんな! 勝てるわ!」
「さっき負けておったじゃろ」
「負けてねえ! 殺すぞクソマシオン!」
「クソま……そのあだ名は止めい! 人の名前をなんじゃと思っとる!?」
「ならあっちの王様は俺にやらせろ! でないと一生そのあだ名で呼ぶぞ! 他の皆にも広めるからな!」
「んなっ!!? ……な、なんちゅう奴じゃ。これが大事な戦闘だということを分かっておるのか!?」
「嫌なら広めるだけだ」
「……し、仕方ないのう。今回だけじゃぞ?」
「ふざけんな! 俺はいつだって大物狙いだ!」
「あ、コラ!」
そう叱るクレマシオンの言葉も聞かず、ブリッツはストレングスに突っ込んでいった。
その後ろ姿にため息を吐き、クレマシオンは刀を構える。
「さて、お待たせしたのう」
「いえ。むしろ安心しました」
そう落ち着いた様子で剣を構え直す兵士。
彼の言葉にクレマシオンは首を傾げる。
「それは、どういうことじゃ?」
「深い意味はありません。ただ、あの少年よりあなたの方が強そうだと思っただけです」
「ほぅ……つまり王から脅威を引き離せてよかった、ということかの?」
「勘違いしないでください。ストレングス様ならばどのような敵でも確実に打ち倒してくださいます」
私が安心したというのは……、と。
「先ほどの汚名返上の機会を得られた。故に安堵したのです」
「……なるほど」
言葉の意図を理解し、クレマシオンは鼻で笑う。
「ならば、わしは普通に格下の敵で安堵したわい」
「それはどうも」
「そんな手負いで良く吠える。脚は使い物にならんじゃろ?」
「ご心配なく。それならば相応の足さばきをすればいいだけの話です」
「ハハ、つくづく生意気な人間じゃわい。おぬし、名は何という?」
「『ライン』。以後……いえ、死後お見知りおきを」
「『クレマシオン』じゃ。死んでまで覚えとりとうないわい」
そうして、会話後、
クレマシオンとラインはともに踏み込んだ。