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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第七章 『思惑と思い』
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亀裂の種

「ふあぁ……」

 ソルダート王国、ソルダート城。

 その城壁の見張り台で、欠伸をした新米兵士。

 それを見ていた先輩兵士が彼の尻に軽い蹴りを入れる。

「おい、気を抜くんじゃない」

「あイて。すいません。良い天気なんで」

 そう笑う新米に、先輩はため息を吐く。

「ったく。お前もっと緊張感もてよ。今がどういう状況か分かってるだろ?」

「ソルダート王が兵士の3分の1を連れて出陣。現在城は手薄状態。故に僕たちがしっかりと守らないといけない、ですよね」

 新米兵士はそう教科書を朗読するように状況を口にした後、ため息を吐いて肩を落とす。

「勝手ですよね、おーさまも。普通この時期自分から出撃なんてしないですよ」

「しっ、おい! 口を慎め! 本来なら重罪だぞ」

「あ、すんません」

 誰も聞いていないか、焦って周りを警戒する先輩兵士。それに新米兵士は「大丈夫ですよ」とヘラヘラ笑う。

「ここには俺と先輩以外いませんよ。他は城の内部を固めてますよ。だから、多少サボってもバレませんて」

 なんて、そういう話だけはきっちり聞いている彼に先輩は呆れつつ、

「……まあ、確かに、お前の抜けた気持ちも分からんではないな」

 そう、空を見上げる。

「今日はいい天気だ」



   ・・・



 ソルダート領内にある、城からから程近い街道。

 そこはソルダート城の正門へと続く道で、兵士だけでなく、商人や一般国民も使う国の動脈にあたる道のひとつだ。

 しかし、近年は魔族が頻繁に出没するようになり、敬遠されがちになっている。

 そのため動脈でありながら、人の通りは少ない。

 そこに、馬を走らせるものたちがいた。

 鎧と兜には、ソルダートの紋章が。

「急げ急げ! なんとしてもこの緊急事態を知らせるのだ! 一刻でも早く、一秒でも早くだ!」

 彼らは魔族討伐のため出陣したソルダートの伝令班。

 その討伐が失敗に終わり、ソルダート王と残りの兵が敵陣で孤立状態にあることを知られるために。

「走れ走れ! ひづめがなくなっても走り続けろ!」

 電報を持った兵士は叫び、鞭を打つ。

 班は電報を持った者を中心に、三人がトライアングル状に囲んでいる。

 と、

「ッ! 2時の方向に部隊発見!」

「何!?」

 先頭を走っていた兵士の言葉に、一瞬緊張が走る。

 先頭を行く兵には、とりわけ目がいい者が選ばれる。故に他の兵士がその影を確認するまでには、少々時間がかかる。

 先頭以外の兵は、その間、思考を巡らせる。

 味方だろうか。しかし自軍の拠点からはまだ遠い。

 いや、そもそも……

「人間か?」

「――――――はい!」

 そう先頭の兵が答えた直後、ようやく全員がその影をとらえることができるようになる。

 その姿を見て、全員が安堵の息を漏らした。

 鎧を着た騎馬の小隊。その肩や胸の紋章は、見覚えがある。

「ケーラです! 同志ケーラの国の者です!」

 その紋章が目に入った瞬間、全員は心から幸福を感じた。

 まさに九死に一生の思い。

 そして、

 心強い味方に、同志に会えたこともそうだが、

 何よりも自分達と同じ人間が会えたことが、心の救いだった。

 ケーラの小隊も伝令らを発見したようで、合流した。

 ケーラの兵士は馬を並走させながら、伝令班に近づき、部隊長だけが伝令に近づくことを許された。

 部隊長は並走しながら伝令に問う。

「ソルダートの伝令か。我らはケーラ国王アイゼン・ケーラ様よりソルダート支援の任を授かった者だ。その急ぎ様、いかがされた?」

「ケーラからの支援? そのような話は聞いていないが?」

「ソルダートが大規模な出兵を行うと聞いて急遽きゅうきょ決まったのだ。手紙もある」

 部隊長は懐から手紙を取り出す。そこには確かにケーラの刻印があり、正式な文書であることがわかった。

 伝令は内心「なるほど」と納得する。急遽決まったが故に小隊しか変声できたなかったというわけか。

 しかしその分兵士の質は良さそうだ。おそらく精鋭ぞろいなのだろう。

「心強い」

 伝令は素直に気持ちを口にし、それに部隊長も笑みを返し、再度質問する。

「それで、なぜそこまでいているのだ? 何が問題があったのなら遠慮なく言って欲しい。すぐに助太刀する」

 その暖かく、力強い言葉に、伝令班は皆胸を締め付けられるような思いだった。


 かつては敵国として睨み合っていた強国同士。互いにたくさんの仲間を殺され、怨みも憎しみも溜まりに溜まっていた。

 そんな状況だったのだ。もう、手を取り合うことはないだろうと思っていた。

 しかし今、こうして手を差し出してくれている。かつての敵国が、手を差し伸べてくれている。

 最悪の状況下で、その差し伸べてくれた手が、どれだけありがたいことか。


 そのことへの感謝で、胸がいっぱいになった。

 しかし、それを顔に出すわけにはいかない。気丈に振る舞わなければいけない。例え仲間でも言えないことはある。

 故に伝令は、ポーカーフェイスを保ちながら問題のない範囲でことを伝える。

「詳細は明かせないが、前線で少々問題が発生した。故に城に援軍を求めに向かっている」

「そうか」

 話を聞いたケーラの部隊長は内容を察したのか、神妙な顔になる。

 そして、



「――――――前線が孤立したという情報は、正しかったようだな」




 刹那、

 伝令の首が飛んだ・・・・・・・・


「「「ッッッ!!!???」」」

 それに伝令を守っていた三人の兵士が目を見開いて固まる。

 一体何が起こったのか。

 いや、起こった出来事は至極単純で明快だった。

 伝令が話し終わったとき、ケーラの部隊長が剣を抜き、伝令の首を切り飛ばしたのだ。

「な、なッ―――――貴様何を!!」

 そうソルダートの兵が叫ぼうとした瞬間、その残りの兵士たちも次々とケーラの兵に切り殺された。

 あっという間に道端には四体のソルダートの兵士の死体が出来上がり、それを見てケーラの部隊長は指示を出す。

「魔族がやったようにみせかけておけ! できるだけ無残にだ! 馬も殺せ!」

 その指示通り、兵士たちは死体から鎧を脱がし、腕や足を細切れにして、どうも剣で穴だらけにしてミンチにする。

 こんな所業、人間にできるわけがない。きっと魔族だ。

 そう思わせるためだけに、死体を蹂躙した。

 やがて仕事を終えると、部隊長は「よし」と出来栄えに口角を挙げる。


「これでソルダートに情報はいかない。アイゼン・ケーラ様の企て通り、ソルダートは終わりだ」


 魔族という共通の脅威が出現し、結束した人間。

 しかしその内部に、亀裂が生じ始めていた。

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