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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第二章 いたずら心に勝るものなし!
9/122

村にて -2

 夜が明ける。


 日の光が顔に当たり、カリオスは目を覚ます。


 ん~、と伸びをするその隣には、アニスがまだすやすやと寝息を立てている。


 彼女を起こさないようにカリオスはそっと近くの小川に行き、顔を洗う。



 旅立ちから五日。



 二人は人目に付く大通りを避け、森の中を移動していた。魔郷にある故郷の森よりも深くはないが、身を隠すには十分だった。


「ふわぁ~……」


 大きな欠伸を一つ。距離を稼ごうとあの夜から歩きっぱなしで、正直疲れが溜まっている。

 もう一度伸びをし、頭を振って眠気を飛ばすと、アニスの元に戻る。


「アニス。朝だよアニス!」


 彼女の体を揺する。しかしアニスは「むにゃむにゃ……」と丸まって目を覚まさない。


「……あと五分」

「それを言う人は小一時間は起きないよ!」


 というわけで十分の格闘を経て、何とか『むにゃむにゃアニス』に勝利する。

 やっと腰を上げるアニス。半開きの眼を擦って、


「……おはよう」


 ふわぁ~、と大きな欠伸をする。


「小川で顔を洗ってきたら」

「……うん」


 こっくん、と頷き、よろよろと小川に向かう。

 帰ってくると昨日作っておいた干し肉で朝食をとる。これは昨日の晩飯に獲った鹿の肉を、アニスの魔法で調理したものだ。魔法の国の王女なだけあって、多少の魔法は扱えるようだ。


 カリオスはそれを何の抵抗もなく口に運ぶ。が、


「……」


 アニスは干し肉を見て顔色を悪くする。


「大丈夫?」

「う、うん……ちょっと思い出し、て……」


 アニスは口に運ぶのを躊躇い、干し肉を眺める。すると脳裏に昨日の加工の様子が再生される。


 肉にナイフを入れ、

 皮を剥ぎ、

 切り落とす。


「うっ……食べないと……失礼よね」


 ごくりと上がって来るものを飲み込み、覚悟を決める。


「死なば諸共!」

「どうしたの!?」


 というわけで食事を終え「さて、」と二人は腰を上げる。


「目的の町まであとどれくらいなの?」

「城を出て五日。で、森で遠回りしてるからッ……うぷっ……あ、あと七日くらいかな」

「と、遠いね」

「国境にあるから、……な、何かあったら普段は、……伝書鳩を飛ばしているわ」

「本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫よ。早くいきましょ。この辺りには盗賊がいるっていう噂もあるし」


 何て事を言いながら森を歩く。




 そして半日が過ぎた―――――




「きゅ、休憩しましょ~」

「盗賊がいるんじゃないの?」

「休憩~」

「はいはい」


 森をサクサク進むカリオスから見て後方。

 アニスはどこからか拾ってきた木の棒を杖代わりにして、ヨタヨタと歩いていた。その顔は疲れを垂れ流しにしている。


「もう……無理」


 ヘナヘナとその場にへたり込んでしまうアニス。カリオスは辺りを一度警戒してからアニスの方に戻る。


「大丈夫?」

「……足が少し痛いわ」


 アニスは靴を脱ぐ。


「靴擦れができてるじゃないか!」


 見ると、踵に靴擦れが出来ていた。

 カリオスはすぐに傷薬を出して、それを靴擦れに塗る。具合から見て、かなり我慢していたようだ。


「沁みる〰〰〰〰!」


 アニスは涙目になりながらも、痛みをこらえる。


「沁みるから我慢してね」

「塗る前に言って欲しかったわ!」


 というわけで薬も塗り終わり、二人は少しの休憩を取ることにする。


「今度傷か出来たらすぐに言ってね。できることは少ないかも知れないけど、バイ菌が入ったりすると大変だから」

「分かったわ。ありがとう。そうよね。怪我や病気は旅で一番怖い。忘れていたわ」


 道具の揃っていない旅路において、怪我や病気は容易く重症に発展する。気が付いた時には手の施しようがない。何ていうのはシャレにならない。


「カリオス……」

「何?」

「ちょっと……寝る。スピー……」

「え、って早‼ え、ちょっと!」


 カリオスは慌てて駆け寄る。アニスは一度眠ったら中々起きてくれない。この三日間でそれを十二分に理解したカリオスはすぐに起こすことにする。


「起きて! 寝たらダメだって! アニス一回寝たら起きないじゃないか!」

「……」

「アーニースー!」


 声を掛けてみるが、反応がない。ただの眠っているアニスのようだ。

 今度は揺すってみる。しかし、「ん~」と声を漏らすだけで起きる様子はない。

 それをもう一度繰り返したが反応は乏しい。

 仕方なく顔を軽く叩くことにする。カリオス的には気を遣ってしまってやり辛いのだが、いた仕方ない。


「おーいアニス。起きてー!」


 ぺちっ、と頬を叩いた瞬間、


「ッ!」


 カリオスは驚き、すぐに手を引いた。

 アニスの体が熱い。

 カリオスは自分と彼女の額に手をやり、熱を測る。

 かなりの高熱だ。


「そんな……!」


 カリオスは森の中に入っていく。しばらくして、彼はある草を持っていた。それは熱さましの効果のある薬草だ。

 石でそれをすり潰し、アニスに飲ませる。


「飲んで」

「ん、く……苦い」

「我慢して」


 とりあえずこれで熱は少し下がるはず。しかしどこか安静にできる場所が必要だ。

 カリオスはアニスを背負うと、森を移動する。


「アニス。近くに村か何かないの?」

「ごめん、なさい。私、町への行き方しか、知らなくて……」


 ぐっと唇を噛む。


「ありがとう。揺れるだろうけど、少し休んでて」

「ありがとう……」


 とにかく落ち着ける場所。それを求めてカリオスは歩いた。しかし、歩けど歩けど、目ぼしい場所は見つからない。


(洞窟でも何でもいい……)


 休める場所。この際動物の巣でも何でも構わない。

 と、歩いていると、


「ッ!」


 カリオスは足を止める。そして耳を澄ます。



 話し声だ。



 風に交じって話し声が聞こえてくる。

 カリオスはアニスを木に凭れるようにおろすと、


「話し声が聞こえる。ちょっと見てくる」

「……うん。気を付けて」


 カリオスは姿勢を低くし、ナイフに手をかけ進む。

 足音を消し、気配を消し、ゆっくりと近づく。

 やがてその声は、はっきりと聞こえるようになる。



「ったく。あるなら最初から出せって話ですよね」

「ホントだぜ」

「お国のために身を削れってね」



 ゲラゲラとガサツな笑い声。見ると獣道のようなところを、鎧を着た男が三人歩いていた。三人とも肩に袋を担いでいる。匂いから食べ物が入っているようだ。

 そしてカリオスは目を見開いた。


(ヴォールの……紋章!!)


 その三人ともが着ている鎧。その肩当てに描かれた模様。

 中央に十字架が描かれたそれは、まさしくヴォール王国を示す紋章だった。


 カリオス背筋に冷たいものが走り、全身から嫌な汗が噴き出す。

 音を立てないように草むらに隠れ、息を殺し、やり過ごす。

 しばらくして足音が遠ざかるのを確認すると、急いでアニスの元に戻る。


「アニスッ! アニスッ!」


 血相を変えて戻ってきたカリオスに、アニスは驚く。


「ど、どうしたのそんなに慌てて……」

「ヴォールだ! ヴォールの兵士がいた!」

「え!」


 それを聞くなり、「早く移動しないと」とアニスは立ち上がろうとする。しかし立ち上がるなりよろめいてしまい、それをカリオスが支える。


「アニス!」

「ありがとう……」

「向こうに獣道がある。彼らが行った方向と反対の方向に行こう。……多分だけどそこに村がある」

「村? 何で分かるの?」


 カリオスはアニスを背負い、歩き出す。


「食料の提供だよ。僕の村にも来ていたからそうじゃないかなと思って」

「……」

「アニス?」


 どうやら眠ってしまったようだ。

 カリオスはなるべく揺らさないように、急いで獣道に向かう。

 獣道まで来ると、辺りを見回してから彼らの行った方向と逆の方に進む。

 道の足場は悪かったが、森の中よりは走りやすかった。



 ――――――と、しばらくすると湿った森の匂いに別のものが混じる。

 

 その瞬間にカリオスは足を止め、慎重にその匂いの方へ進んでいく。そしてそれが何かしらの料理の匂いだと気が付く。

 

 やがて見えてきたのは、村だった。

 柵で囲まれた小さな村。


(た、助かった……)


 木の陰から様子をうかがい、安堵の息を吐く。そしてその村に入ろうする。

 しかし一歩踏み出したところで動きが止まる。


 そう、カリオスは魔族なのだ。

 そしてここは人間の村。


(見つかれば……)


 カリオスの頭に結末が過る。


(どうする……)


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