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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第七章 『思惑と思い』
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嫌悪と優しさ

 連れ去られてしまったケトニス。

 それを追ってカリオスとプリュイは森を走る。

 森に慣れている二人は、木々や飛び出した根などを避け、

「クソが! 殺せ!」

「死ね! 魔族どもが!」

 そう襲い掛かってくる敵の攻撃をもかわし、倒し、速度を落とすことなく疾走する。

 カリオスはナイフを使って敵の剣撃を受け流し、動けないように足を狙って攻撃する。

「ぐあっ、いてぇッ! があッ―――」

「ごめん」

 一人一人にそう謝りながら、彼は先を急ぐ。

 対してプリュイはカリオスよりも少しだけ後ろを行く。そして、

「俺の足が! クソ、魔族どもが!」

「そんなに痛いなら死ねよ」

 敵の剣を奪い取り、痛みにもがいている人間を残らず切り殺していく。

 剣が届かないところに居たモノも、弓矢を使って確実に頭蓋を射抜く。

「ッ!?」

 それを見たカリオスは思わず足を止めて、振り返る。

 彼の顔を見て、プリュイは目の前に居た最後の一人を殺してから彼の方を向く。

「……どうして、て顔してるね」

「……」

「…………ねえ」

 刹那、プリュイはカリオスに向かって、剣を構えて突進する。

 突然のことにカリオスは身動き一つできず、プリュイの剣はカリオスの首に向かって振られる。



 ――――――そして、薄皮一枚切ったところで止まる。



 かすり傷。首はとぶことなく、血は微かにカリオスの喉から滴っただけ。

 しかし、プリュイの瞳には、本物の殺意が宿っていた。

「ねえ、カリオス。君はケトニスを助けないつもり?」

「なっ!」

 いきなりそんなことを言われて、カリオスは激しく反論しようとする。

「そんなわけ!」

「ならどうして敵を殺さないッ!」

 しかし彼の反論は、プリュイの激昂に遮られてしまう。

 更に彼の怒りの炎を強まり、プリュイは剣を戻し、次いでカリオスの胸倉を掴んで怒鳴り散らす。

「ならどうして敵を殺さない! なぜ人間を恨まない! ここまでされてるんだぞ! 故郷を追われて、地下に閉じ込められて、戦争にまでなって! なのにお前から何一つ気持ちが感じられないんだよッ!!」

「――――――」

「戦場で見た時から、僕はずっとお前にムカついてたよ。敵は殺さない、全部生かして残りしてる! 仲間が目の前で血を流して倒れてってるのにお前は敵を何で殺さないんだ!」

「そ、それは……」

 それをするには、その気持ちを抱くには、カリオスは多くの人間に触れ過ぎた。

 人間の、良い部分に触れ過ぎたのだ。

 魔族と同じ、人間にだって感情があり、愛があり、正義があり、友人や家族がある。

 だから、誰かが死ねば誰かが悲しむ。

(僕が死んだら、アニスが悲しむかもしれない……)

 そう思って戦場に立つと、同じように相手にもそんな悲しむ相手がいるはずだと思ってしまい、命を絶つまでに至れなかった。

 故に、仲間から嫌悪の視線を向けられることになってしまった。

 そして、今も怒りを向けられている。

「仲間も殺された。友達を奪われた。なのにお前は殺意も、敵意の欠片すらもないのか? なあ?」

 その、純粋な、迷いのない怒りに、カリオスは……

「………………ごめん」

 謝るしかなかった。

「……」

 それを聞いたプリュイは、怒りで感情が爆発した成果、さっきまで薄らと涙を浮かべていたが、それすらも引っ込んでしまい、

「……もういい」

 胸倉から手を離す。

 そして、



「ケトニスが死んだら、僕はお前を殺す」



 それはもう甘さじゃない。裏切だ、と。

 それだけ言って、彼は先に行った。

「……」

 残されたカリオスは、数秒動けなかった。

 やはり、ショックだった。

 自分は、誰かのためになればと思って戦ってたのに。こんな結果になるなんて。

 ただ、誰も傷つけないように、誰も死なないように、平和になればいいと思って戦ってきたのに――――――

「……僕、は……」

 何のために戦っているんだろう。

 少しだけ考えた後、

「ッ――――――」

 思い切り自分の額を自分で殴る。

 今はそんなことを考えている場合じゃない。

 立って、走って、一刻も早くケトニスを追わなければいけない。

 幸い、彼女の匂いはまだ森に残っている。ずいぶんと血なまぐさくなってしまったが、まだ十分に追える。

 そうして彼は再びナイフを握り直し、森を駆ける。



      ・・・



 魔族軍がドルン城を落とすより、少し前。

「『アイゼン・ケーラ』様! 準備が整いました」

 ケーラ国、ケーラ城の王の間。

 そこひざまずく、十数名兵士。

 その全てが腰や背中に魔剣を携えている。面持ちや鎧等の格好から見ても、かなりの手練れであることが分かる。

 彼らのの言葉にアイゼンは頷き、

「うむ。ならば出発せよ」

 出発を命じる。

 そしてそれに兵士全員は「はっ!」と返事をして頭を垂れ、王の前を退出する。

 彼らはこれから前人未到の地に向かう。


 そして、彼らが後に、この戦争の局面を大きく変えることになる。


 出立を見送るアイゼンの口元は、自然と三日月を描いていた。

 そして近衛兵の一人に気まぐれに問うてみる。

「なあ、真の強さとは何だ?」

「はい。敵を正面から切り倒す力強さ、そして洗練された剣技であります」

「なるほど。それも大切だ」

 が、とアイゼンは間を置き、

「それは個としての強さだ。この戦争に勝つために必要な『真の強さ』とはな、やはり先を読む力だ」

 得意げに玉座に頬杖を突く。

「先を読み、敵がどうするか、味方がどう動くかを把握、予測し、より自分が有利になるように行動する力。これこそが真の強さというもの」

 あらゆる手段をもってな、と彼はより一層笑みを深めた。

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