とおせんぼう
真っ暗な空間を壁伝いに歩く。
大量の足音が一歩ごとに規則正しく、その空間内に反響する。
「単純なやつだな」
その先頭を行く『レーエン』は報告を受けて思わず小さくほくそ笑んでしまう。
報告の内容はもちろん、ソルダート軍が動き出したということだ。
文書が各国に届いたのが少し前。
ヴォールは当然動かないだろうし、ケーラやナールングもドルンが落ちたということから慎重になっているに違いない。
しかし逆にソルダートは攻めてくるだろう。周りが縮こまっているこの状況なら尚更負けたようで我慢ができないはずだ。
自分が真っ先に行って道を切り開くのだ、と。
故にソルダート軍が真っ先に攻めてくると考えて、いつ攻めてくるか。
あの国なら今すぐにでも攻めてきそうだが、おそらく本当に動くのは本土からの応援が来てからだろう。
ドルンが落ちた今、いくら頭に血が上っていたとしても、少数で攻めようと思うほど『ストレングス・ソルダート』も馬鹿ではないだろう。
なら援軍が来るまで……ソルダートからここドルンまで馬で飛ばして……
「三日か四日、だろうな」
それがタイムリミットだ。
そう思いながらレーエンは小さく意気込むように息を吐く。
しばらくすると暗い通路に徐々に光が入ってきて、一団は明るい場所に出る。
そこは、――――――草原。
そしてレーエンは振り返り、皆を見て声をあげる。
「目標はソルダート城だ! この戦いに勝利すれば、俺たちの自由はもう目の前だ!」
そして自分の剣を抜き、天を突く様に上に翳す。
「行くぞ!! 武器を取れ! 盾を構えろ! 虐げられてきた友の、家族の、全ての魔族のために、今俺たちが英雄となろうっっ!!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっっっ!!!』
山を砕くかのような雄叫びが地を揺らし、草原を駆けた。
『出陣』だ。
「お待ちください」
その矢先だった。冷たい、無感情な声がつん、と響いたのは。
彼らは踏み出した足を唐突に止めた。
その眼前に現れた女性を見て、
「な、何でお前がここに……」
レーエンは思わず驚きの声を漏らす。
女性はスカートのすそを摘まんで腰を落として一礼し、
「魔王様の命でございます。どうかこの出陣、お控えください」
そう先のように冷たい無感情な声音で要件を言い、白いエプロンが栄えるメイド服を着こなした女性は、
「無理にでも、という条件は通りません。その場合は……」
一団の前に、たった一人で立ち塞がる。
「遠慮するなと、言われていますので」
ゆったりとしたメイド服の中で、何かがジャラ、ジャラと蠢いた。