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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第七章 『思惑と思い』
83/122

国家連合会議

各国の国王たちが光の板の上に映し出される。


ケーラ王『アイゼン・ケーラ』

ナールング王『バーリー・ナールング』

ソルダート王『ストレングス・ソルダート』

そしてヴォール王国国王『リューゲ・ヴォール』

 

「ドルンは堕ちたそうだな」

 司会であるリューゲを差し置き、そう真っ先に切り出したのはナールング王国国王『バーリー・ナールング』だ。彼は露出した脳天とは対照的な、顎に蓄えた白髭を撫でながらそう嫌味な笑みをする。

「どう責任を取るつもりだ?」

 バーリーの発言に付け加える様にソルダート王国国王『ストレングス・ソルダート』もリューゲを試すような目で見る。

 その二人の噛み付く様子を見てケーラ王国国王『アイゼン・ケーラ』は鼻で笑い、腕を組んで傍観する。

 開幕早々の言葉に、リューゲは深く息を吐くと、

「……ドルンは魔族に囲まれていた。あそこが落ちるのは時間の問題だった」

「だから見捨てた、というのかね?」

 ハッ、とストレングスは鼻で笑い、

「流石は魔法の国ヴォールだ。陰湿な国名だ」

 そうストレングスは嫌悪感を隠そうともせず、フンと鼻を鳴らす。それにバーリーは「やれやれだ」と嘲笑にも似た笑みを漏らしてから、

「さて、で? 今回のこの失態。どう責任を取るつもりか、ヴォール王国国王リューゲ・ヴォール殿?」

 なんて、彼も彼で火を消そうともせず、ともにリューゲを責め立てる。

 まるで子供の口喧嘩だな、とリューゲは内心思いつつも、それを表情に出すことはない。あくまで平静を装って彼は言葉を発する。

「今回の会議の内容は次の一手についてだ。我々は言い合いをするためにこの会議をしているわけでは」

「だが責任はとらなくてはならない」

 そうリューゲの言葉を遮ってストレングスは言う。それにすかさずリューゲは彼の方を向いて、

「別に責任逃れをしようなどと、そんな卑怯卑劣なことを考えている訳ではない。あの国は必ず我ら人の領地・・・・として奪還する。そのためにもまずは作戦を立てる必要があると言っているのだ」

「それは当然のことだ。それを目的として我々は動いているのだからな」

 リューゲの言葉に、またも半場被せるようにしてストレングスは腕を組んで言う。そしてそれにバーリーも「そうだとも」と首を縦に振り、

「それは我らに対する誠意に値しないだろう?」

 なんて言う。

「……」

 そうか。彼らはこう言ってほしいのか。

 そこでようやく……否。分かっていて言わなかったことだが。リューゲは今度こそ深くため息を吐きそうになり、しかしどうにかそれを堪えて、少し俯いて、

「……そうだな」

 そう口にした瞬間、他三人の画面から小さく息が漏れたような気がした。嬉々とした心を押し殺す、安堵に近い吐息が。

 リューゲ自身も国王だ。自分自身も亡者である自覚はある。何より戦争を引き起こしてでも平和なんて膨大なものを手に入れようとしているのだ。これが亡者でなくて何になる。

 しかしそう自覚していても、この三人を亡者と思わないことはできなかった。どちらが開くか、善かと言われれば、十中八九リューゲが悪なのだが。

「ならばドルンを取り返したときの分け前は三等分・・・……ということで良いかな?」

 そうバーリーは口の端を少し上げて、それにリューゲは「ああ」と肯定する。それで済むのならばそれで良い、と。

 彼にとって領地など、最終的にどうでも良い・・・・・・・・・・のだから。

 とにかく今は話し合いを進めなければならない。

「それでは改めて会議を続けたいと思う。魔族どもは現在ドルン城を占領し、そこに滞在している」

「そこにどう攻め込むか、か。魔族どもはどうやってドルン城を堕としたのだ?」

 そうさっきまで口を開かなかったケーラ王国国王『アイゼン・ケーラ』がリューゲに尋ねる。それにリューゲではなく、ストレングスが口を開き、

「魔族どもは前線に魔獣を集めてドルンの兵を集中させ、城が手薄になった隙に後ろの崖から攻め入ったらしい」

「耳が早いな。しかしどうやって攻め入ったのだ?」

「巨大な鳥に乗って、空から降下した」

 なるほど、とアイゼンと、その話を知らなかったバーリーも頷く。そして次いでストレングスは皆に向かって「でだ、」と一拍入れ、

「次に一手についてだが、我が軍に任せていただきたい」

 その自信ある一言に、リューゲは「何か策があるのか?」と訊く。ソルダートの国はドルンから一番遠い。ドルン戦はかなり前から起こり、状況は拮抗していたが、展開が急変してしまったためソルダート軍はどう急いでも戦には間に合わなかったのだ。

 リューゲの問いにストレングスは「ふん」と不愉快そうに鼻を鳴らし、

「策などない」

 と、はっきり言い切る。しかし次いで少々興奮気に笑って、

「今現在、あの地には我が軍が向かっている。もう一日もすれば領内に入るだろう。総勢二千の大軍勢だ。汚らわしき魔族如き、我らが力で押しつぶしてくれよう」

「ほう、それは頼もしい」

 そうアイゼンも、その案を聞いて賛同するように笑みを浮かべ、次いで、

「ソルダート軍と言えば歴戦負け知らずで有名だ。これほど心強いものはない。武器にお困りになった時は是非私の国に一声かけてほしいね。最高の品を提供しよう」

「食料なら私の国から少し援助を出しましょう。今年は豊作で麦が倉庫に収まりきらないくらいにとれたからな」

 そういうアイゼンとバーリーにストレングスも「助かる」と軽く礼を言う。

 しかし、リューゲはそれに「待て」とストップをかける。

「それは余りにも総計過ぎるないか? もう少し相手の出方を見る必要がある」

「何を悠長な。敵は長きにわたったドルン戦で疲弊している。今が絶好の機会であろうが」

 そうストレングスはまたも不快気な顔をして、リューゲを見る。

 確かに、とリューゲ自身も言っておいてそう思っていた。しかしそれは悪手だ。

「しかし相手は魔族。神出鬼没で何が待っているか分からない。それならば少し様子を見てから我が国の遠距離魔法で一網打尽にした方が安全だ!」

 そう、相手は地下に逃げ込み、そして軍団の背後から攻撃するなど造作もないのだ。それを知っているリューゲはなんとしてもこの作戦を止めたかった。

 しかし、そんな彼の意など全く通じるはずもなく、

「臆病ものめが!」

 そう、公の場で、彼は怒声を浴びた。

「それでも我らがおさか!」

 と、ストレングスは怒るというより、叱るように言ってくる。完全に下に見られていた。

 しかしそれでも引くわけにはいかない。彼はバンッと手すりを叩いて、声を張る。

「私は魔族のことを誰よりも知っている。だからこそ長に選ばれたのだ! そしておさだからこそこれ以上の犠牲を出したくないといっているのが分からんのか!」

「『魔の国』風情が、わが軍を愚弄するか!」

 魔の国。

 魔族。

 この『魔』という字が含まれていることで、ヴォールは一部の国からは『悪しき国』と非難されているのだ。魔法を使い、人の理から外れた国、と。ソルダートもその一つだ。

「愚弄しているつもりはない。ただ敵の戦力や戦術も分からないままに攻め入るのは少し待ってくれと言っているのだ。もう少し様子を見てからでも遅くないと」

「それを愚弄だといっている」

 そう言葉を遮ってストレングスは怒りを耐えきれないと怒りを露わにする。

「我が軍は無敵を誇る猛者の軍団! 百戦錬磨、神より勝利を約束された裁きの剣を携えし軍団だ! 我らに策だと? 機を待てだと? 人理を外れた亡者どもが吠えるな!」

「……ソルダート殿」

 そう、今度は彼が言い終わると同時にリューゲが口を開き、睨むように見る。そして重く、低い声で、

「……それ以上愚弄するならば我らも然るべき行為をとらざるを得なくなる」

「ほう……」

 そうストレングスはうっすらと笑い、リューゲの目を見返す。

 沈黙。

 重い、鉄の蓋を被せられているような重く硬く、張りつめた沈黙がその場を満たす。

「そこまでだ」

 それを払ったのはアイゼンだった。

 彼は少々呆れた顔で頭を掻き、ようやく視線を外した二人を見つつ、

「ここは二人の中間をとった妥協案で行くのが最良だと思うのだが、どうだろう? ソルダート殿は軍でもって敵陣を両断する。しかし万が一、億が一、兆が一でも失敗した時のためにヴォール殿がさっきおっしゃった遠隔魔法で後方支援をする。これでどこにも死角はないと思うのだが、いかがでか? お二人とも」

「ふん。こんな手品紛いを使わなくても、我らだけで十分だ。それにヴォールから距離もかなりある。狙いを外して我らに当てられてはたまったものではないからな」

「魔法の制度は完璧だ。狙おうと思えばここからドルンにある針の穴もねらえる」

 アイゼンの提案に不快そうに鼻を鳴らすストレングス。そんな彼を見てリューゲは少しだけ、鋭く目を細める。その瞳はうっすらとストレングスの発言に「お望みとあらば」と言っていた。

「ほう。それはそれは」

 その目に含まれた意図を見抜いたのか、それとも見抜いていないのか。とにかくストレングスはやはり挑発気味にそう感心したような返答をする。それにリューゲはもう一言、

「私はアイゼン殿の案に賛成だ。それならば確実だろう」

 加えて「それに、」と。

「百戦錬磨、歴戦の猛者たちが揃っているソルダートの軍団だ。我らの(・・・)手品程度ではビク(・・・・・・・・)ともしないでしょう(・・・・・・・・・)

「……ほおぉ」

 ピンッ、と。

 今度は張りつめた糸のような緊張が場を凍らせる。

 リューゲの挑発を含んだ鋭い視線に、ストレングスまたもそう零し、今度は薄らと口の端に笑みを浮かべる。それは余裕と怒り、そして愉悦を含んだ、一言で言えば沸き立つ何かを我慢するような笑みであり、

「それは楽しみだ」

「「……」」

それ以上互いに罵り合いも噛み付きもせず、

「……決まりだ」

 リューゲはそう区切りを付けた。

 その一言があるのと同時に、その場の緊張した空気が解ける様に霧散する。

 そして会議はこの後、具体的な時刻や支援魔法の準備に必要な時間。また今後の武器、食料、兵の治療や残存兵力の確認や同盟内容の再確認等々と、様々なことについて話し合い、半日を費やした。

 今回はかなり長引いたが、しかし集まっているのは各国の国王。しかも今は戦争の真っただ中だ。とれる時間も限られている。故に話せるときに話しておかなければならない。

 切よくまとまったところで、リューゲが最後に閉める。

「では、これを持って今回の国家連合会議を終了とする。結果報告はまた次回の会議で。良い報告を期待している。解散!」

 この合図とともに『皆話の魔法ディスカスター』を停止する。それとともに光の板も消えて、周りで発動していた魔法使いたちも疲労を見せる。彼らも半日付き合ってくれたのだ。

「ご苦労だった。各自部屋に戻って今日はゆっくり休んでくれ。後で何か遣いにもっていかせよう」

 そう言って彼は部屋から出て、執務室に戻る。そして椅子に腰かけ、思考を巡らせる。

 リューゲが提案した遠隔魔法の完成は早くてあと三日。元あった魔法の術式に改良を加えるだけなのだが、何分距離が距離だ。大陸の端からに攻撃をするようなものだ。それなりに時間はかかる。

さっきの会議でもこの魔法は戦争が終われば禁止となる。それはそうだろう。戦争をすることなく他国を攻撃できるのだから。

リューゲ自身もそれに賛成している。もっとも、ドルンの領地同様、どっちに転んでも結果は同じだからこそなのだが。

「さて、」

 いろいろなことが同時進行している。

 魔族への攻撃。

 魔法の完成。

 それに嚙合わせる様にリューゲ自身の思惑も仕込まなければいけない。

 とりあえず今は、魔族の様子を見るのがベストか……

 問題はどこかで魔族が人間と、または人間が魔族と手を組むような出来事を起こさなければいけないのだが……

「……さて」

 どうしたものか、とリューゲは重いため息を吐き、机に肘を突き眉間を抑える。

 と、そこにノックがあり、一人の兵が入ってくる。その様子は少々慌てており、彼は胸に拳を当てて敬礼すると、持っていた一枚の手紙をリューゲに差し出す。

「それは?」

 リューゲは尋ねつつ受け取る。そしてその封筒を見て、彼は目を丸くする。

 尋ねられた兵士は言う。

「はっ! ドルンからの正式な……いえ、魔族からの文書であります」

 その封を開け、内容に目を通し、

「……至急、ソルダート王国へ伝達を!」

 その内容は、魔族を中心とした物言いの、明らかに挑発の意をもって書かれた、強引な協定文だった。


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