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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第六章 『戦場での二人』
73/122

岐路にて

「退いて!!」

 アニスはロードを睨みつける。その視線には殺気すら感じる凄みが宿っている。

 対しロードも睨み返し、広げる手を下げて、彼女の方に歩いていく。そしてその胸ぐらを掴む。

「間違えるな! あなたの救いたいのはどっちだ!」

 叫ぶ。

 問う。

「ど、…っちかって……」

 首が閉まり、苦しそうに言うアニスに、ロードはさらに問う。

 彼女の心に、

 信念に。

「カリオスという魔族の少年一人か世界中の大勢の人間か、どっちを救いたんんだと聞いているんだ僕は!」

「そんなの両方よ!」

 その問いに、彼女は即答する。

 そんなことを話している間も惜しいと言うように。

 言うまでもないと。 しかしそれにロードはさらに苛立ちを募らせ、

「そんな幼稚な考えでこれから先もいけると?」

「やってやるわよ!」

 アニスは視線を逸らさず、ブラさず、まっすぐに彼女を見る。

 それにロードは舌打ちし、彼女を地面に投げ捨てると、

「お子様の時間はここで終わり。馬車から飛び降りたりと、自分勝手ばかり……君は自分がどれだけ重要な存在か分かっていない!」

 そうロードは彼女に言う。

 重要な存在。

 アニスが、この小さな少女がに、いったいどんな価値があるというのか。

 しいてあげるならヴォール王国の姫様ということぐらいだろうか。

 しかしそれはアニス・ヴォールという少女に与えられた単なる称号だ。そんなものはこの戦争でほとんど意味をなさない。

「……でもいいことよ」

 呟く。

 彼女は起き上がり、

「そんなのはどうでもいいことよ……」

 静かに言う。

「ここで仲間一人助けられないで……戦争一つ止められるわけないじゃない」

 そして、真っ直ぐにロードを見据える。

 迷いのない、信念のこもった眼で。

「……」

 それにロードは何も応えない。

 彼女はアニスを見て、何も言わない。

「……私はカリオスを追うわ」

 彼女はそう言い、歩き出す。

 ザッザッザッ、と地面が彼女の蹴りに鳴る。

「……」

 黙って歩くアニス。

「……」

 俯き、沈黙するロード。

「……」

「……」

「……」

「……」

 そして、

 アニスはロードの隣を通り過ぎた。

「ッ!」

 瞬間ッ――――――

 ロードは彼女の背中、死角に入った瞬間、懐からナイフを取り出し、思い切りその峰を彼女の延髄に打ち込もうとする。

「おい」

 が、その腕をレオンが掴んで止める。

「ったく、空気してたらこれかよ」

「もうちょっとしててくれたら助かったんだけど、ね!」

 なんて言って彼女はナイフを持っていないほうの手を切り、血の刃をレオンに向けて伸ばす。

「おおっ!?」

 手を離し、その刃をかろうじて避けて距離をとる。

 その瞬間、ロードはアニスの方に刃を向け、行く手を封じる。

 そしてナイフで腕に切り傷を増やしながら、ゆっくりと再び二人の前に立ちはだかる。

「僕たち『混血族シェアブラッド』だって、この戦争の被害者なんだよ……何人も死んだ……」

 そしてナイフを懐に終い、全身から血を吹き出して刃を出現させる。

「あの人は、君を連れてくれば全てが解決すると言った。だから僕は、君を連れて行かなくちゃならないんだ」

「あの人?」

 アニスの問いに、ロードは少し呆れたように笑い、

「最初に言ったはずだけどね。君たちが探している人さ」

「……!?」

 その言葉に、アニスは、

(まさか……)

 驚き、

(……どういうこと?)

 同時に疑問を感じる。

 なぜ彼女はそんなことを言うのだろうか。

 自分のような者に一体どんな価値があるというのだろうか。

 戦争を終わらせられる……

 この戦争を……









「……ま、カリオスを助けてからね」









 アニスは魔杖を構える。それを見てレオンは少し安心したようにクスリと笑い、

「そうこなくっちゃな!」

 短剣を構え、アニスの横に並ぶ。

 それにアニスは『凝視の魔法ゲイズ』を彼にかける。

「……」

 彼らを見て、ロードは呆れたようにため息を吐く。

「穏便には出来ないか……」

 それにレオンは鼻で笑う。

「ハッ! 火ぶたを切ったのはそっちだろうが」

「ま、確かにね」

 と、彼女はまた面倒くさそうにため息を吐き、頭を掻く。その光景を見て、なぜ刃が頭に当たらないのか二人は不思議になるが、今は置いておく。

 と、

「っと、靴を脱ぐのを忘れてたよ」

 そう言って彼女は靴紐を刃で切り、足を振って片足ずつ靴を捨てる。

 そして両足を脱ぎ終わった瞬間、

「よし。僕の勝ちだね」

 そう、ロードが言った瞬間、アニスとレオンの足元から血の刃が飛び出してくる。

「ッ!!」

 魔法のおかげでいち早く気づいたレオンは、アニスを引っ張って後ろに跳ぶ。

 が、

「そして、左足分で終了」

 その飛んだ先。

 地面に下から再び刃が飛び出す。

「マジか!」

「レオン!」

 アニスは魔杖を向け、防御の魔法をかけようとする。

 が、

 それよりも早く、彼の体を刃が貫く。

「がッ!」

 出血か、刃か、

 彼の腹部から真っ赤なものが飛び出し、飛び散る。

「レオンッ!」

 仲間の悲惨な姿を見て、彼女は悲鳴にも似た声を上げ、駆け寄る。

 が、

「右足分で二本分の刃が出てきた以上、左もそう考えるのが自然だよね」

 その駆け寄ったところに、もう一本の刃が彼女の前に現れ、

「あ……」

 そんな声とも音ともとれるものを漏らし、彼女の意識は――――――――――



      ・・・



「ったく、面倒くさいなぁ……」

 ロードは刃を戻し、ため息を吐く。

 その目に前には、腹部に穴が開いた人体が二つ転がっている。

 その血を噴いている姿は、『絶望』をテーマに作ったオブジェのようだ。

 こんな少女が『希望』とはとても思えない。

 ……が、今は『希望』なのだ。

 あの人、――――――『インテレッセ・ベルディーテ』がそう言うのだから。

「……さて」

 彼女は一息吐くと、懐から小瓶を取り出す。栓がされたその中には緑色の透明な液体が入っている。

 薬である。

 『魔法の始祖』、天才の魔女、インテレッセ・ベルディーテが調合した秘薬だ。

 その薬を塗った患部は、傷跡も、違和感も残らず、まるで何事もなかったかのように再生する。

 栓を開け、彼女はそれを二人の傷口に垂らす。

 すると、その液体が当たった瞬間から再生が始まり、あっという間に傷口が塞がってしまう。

「おお、何だか親近感が湧くなあ」

 なんて言いながら、傷が完治しているのを確認し、アニスを担ぎ、レオンを掴んで引きずる。

「お、おいお前!」

「ん?」

 そこに、声がかかる。

 見ると、さっきアニスたちが助けた兵士たちだ。

 彼らは警戒の色を出し、各々自分の剣を握り、こちらを見ていくる。

「お前はなんだ? その人たちをどうするつもりだ?」

「ん? ん~……これは言ってもいいのかな?」

 そう彼女は少し悩んでから、クスリと笑い、

「この男は別だけど、この子はこの戦争の救世主になるんだ」

「は?」

 それに兵士たちは首を傾げる。が、別にロードはソレに関心はない。とりあえずこの二人を自分たちの村に連れていかなければ。

「ま、待て! もし彼らに危害を与えるようあれば、我々も兵士として黙って見過ごすわけには」

「しつこいよ?」

 そう、一言。

 彼らを見て、彼女は言った。

 その瞳、声音、雰囲気、

「ッ……!」

 その静かな、冷たい凄みに、彼らは動けなかった。

 それにロードはため息を吐き、再び歩き出す。が、そこで少し足を止めて、

「……」

 振り返る。

 そしてもう一度村に足を向ける。

「……」

 その足は、一件の小屋に向っていた。

 天井に新しく、荒々しい穴が開いた小屋。

 彼女はその小屋の前まで来ると、レオンを置き、扉を開ける。

 そこは物入れだろうか。農具や狩猟具が置いてあるが、部屋は酷く荒れている。

 そして奥の壁には、真っ黒い大きな染みと、誰かの腕・・・・が。

「……」

 それを確認するように見て、ロードはきびすを返し、少し速足で、馬車に戻って行った。

 

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