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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第六章 『戦場での二人』
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ドルン城にて -2

「そうか。到着したか……」

 通せ、とタオフェは報告に来た兵に言う。

 内心舌打ちをしたい気持ちを抑えながら、彼も用意して自室から王座に向かう。

 ヴォールからのお節介が届いたようだ。

 兵の数は50人。と、二人。

 王座に座すと、下には身軽そうな鎧に身を包んだ二人の騎士がいた。

 先行魔法騎士団の『クラハ』と『ケージ』だ。

 ケージは王が座すと一礼し、 

「先行魔法騎士団『ケージ』と『クラハ』。ただいま到着いたしました」

「三日と聞いていたが本当に三日で来るとは……まあ距離が距離だ。長旅ご苦労であった。しばし休養をとるがいい」

 それにケージは頭を上げ、

「ありがとうございます。ではその御慈悲、50名の兵たちに使わさせていただきます。私たち二人は必要ありませんので」

 彼はにこりとタオフェに笑顔を返す。

 その言葉にタオフェは「ほぅ……」と目を細め、

「それは頼りになる言葉だ。が、疲れ切った兵は戦場では役に立たん。無駄死にしたとあってはヴォールの面子も立たぬであろう。ここは」

「国王様? しつこいですよ?」

 ドルン王国国王『タオフェ・ドルン』

 その言葉を遮り、しかも無礼な口利き。

 その場に居た、その声の主と隣にいた青年以外、部屋に居た全員が耳を疑い、目を見開いた。

 タオフェの視線がクラハに向く。

 彼女は「ハッ」と鼻で笑うと、

「私たちは戦いに来たんですよぉ? なのに休めとか、どう考えても見当はずれでしょう」

 早く戦場に出してほしいんだけど? と彼女は挑発的な笑みでタオフェを見る。

 その言葉に、二人の横に居た兵たちが反応する。

「貴様ら! タオフェ・ドルン様に向ってなんという口を利いている!」

「今のタオフェ様に対する侮辱、この国に対する侮辱だ! その体をもってしても払いきれると思うなよ!」

 そして部屋に居た全員が一斉に二人に槍と剣の先を向けてくる。 

 それにケージは慌てて跪き、

「大変申し訳ございません!」

 そして同時に彼女の頭も地面に叩きつける勢いで押さえつけ、跪かせる。

「うわっ! ちょ、なによ!」

 彼女は抗議の声をあげるが、無視する。

「彼女は気丈に振舞っておりますが、長旅とても疲れているのです。この通りですのでどうかお許しを! ……『罰の足枷クロワ・グラビティ』」

 そして彼は素早く『重力を加える魔法』を唱える。途端に彼女の体が頭を下げた状態から動かなくなる。

「ケ、ケージ……くん? なぁにこれ?」

「しかし腕だけは保証いたします……」

 その瞬間、周りを囲んでいた兵士全員が床に武器を落とし、床に膝を突く。

「くっ! か、体が……!」

 それを見てタオフェは目を見開く。

 兵の数は10。少ないとはいえ、それぞれが王を守るためにより抜かれた兵士たち。

 それをものともしない。それどころか呼吸するが如くこの場を制圧してしまった。

(これが、先行魔法騎士団か……)

「国王様」

 そのケージの言葉でタオフェは我に帰り、彼の方を見る。

 ケージは押さえつけた兵士たちの間を通り抜けると、王座の前に出てきて、跪く。

「無礼をお許しください。あなたが私たちの力を信用していないと受け取り、このような手段をとりました。私たちはあなたたちに牙を向く気はございません」

 しかしどうかお忘れなく、と付け足し、

「やろうと思えば、今すぐあなたの首をとれるのだということを。この光景を目に焼き付けておいてください」

 それだけ言うと、彼は立ち上がって一礼し、きびすを返す。そして全員の拘束を解き、立ち上がったクラハに一礼させると、

「この戦力。どのように使うかはお任せします。それでは失礼します」

 部屋を出た。

 一瞬の沈黙。

 そののち、

「も、申し訳ありませんでした!」

 兵士たちが皆、口々に謝罪をしてくる。

 涙を流し、自分の身を罰してくれと言う。

 が、それにタオフェは掌を翳し、「よい」と一言言うと、王座を立ち、部屋を出る。

 バタンと重い扉が閉まり、彼は廊下を歩く。

 そして少し離れたところで、壁に拳を叩きつける。

(何だあれは……)

 王座での光景を思い出して、

(何なのだ……)

 廊下を歩く足が速くなる。

 彼は自室に戻ると、ベッドの羽毛の枕をとり、

「私が……恐怖しただと? ククク……」

 クハハハハッ! と笑い、枕をベッドにたたきつける。

 やられる、彼が周りを兵を押さえつけた時、そう思った。

 こわい、彼が自分の前に歩んできたとき、そう感じた。

 そして彼が去っていくと同時に……安堵した。

 兵力と王の威厳、その両方をたった一人に全て破壊された。

 国王が、民の上に座す国王が、一瞬で一人の人間に落とされたのだ。

「これが笑わずにいられるか! ハハハハハッ! クハハハハハハハッッ!!」

 タオフェ・ドルン。

 ドルン王国の国王で、ドルンの血と地を統べる者。

 素から地位と名誉を与えられていた彼は、そのプライド故に、大きく傷ついた。傷つけられた。

(それが異国の兵士一人に、たった一人のゴロツキにぃぃぃぃぃぃぃ!)

「うああああああああああああああッッッ!!」

 髪を乱し、声をからして叫び狂う。

 枕はびりびりに破れ、中からは大量の羽毛が部屋に舞う。

 彼は幼い時から、嫌なことがあるとこうして物に当たる。枕はよくその犠牲にされる。

 一通り暴れ尽くした彼は、乱れた呼吸を整えると、その煮えたぎった瞳で虚空を睨み、

「ヴォールには一切手出しはさせん! 絶対に我の力のみでこの戦、勝ってやる!」

 そう呟き、にやりと歪んだ笑みを浮かべた。



「まあまあまあまあ落ち着いてくださいクラハさん!」

「なぁに? 私はすごぉく落ち着いてるんだけどぉ?」

 兵士に自分たちの部屋に案内されたクラハとケージ。

 そして兵士が出て言った途端に、クラハがケージを押し倒し、その顔面に銃口を突き付けた。

 たじろき、笑いを張り付けるケージに、彼女は爽やかな笑みを返す。

「あんなこと言ったら絶対に戦場に出してもらえないじゃないぁ? 違うの?」

「えっとぉ……まあ戦力は示せたわけですし、今すぐじゃなくてもいつか出してくれるでしょう」

 ゆっくりしましょうよ、と彼はクラハをなだめようとするが、彼女は納得がいかないようで、カチリと撃鉄を起こす。

「私は今すぐ戦いたいんだけどねぇ? 何のためにこんなに体調万全で来たと思ってるのぉ?」

 ねぇ? と引き金に指をかける。

 え、冗談ですよね? と言った顔で彼女の方を見る。

 それにクラハはにこりと笑い、ズドンッとためらいなく引き金を引いた。

「……」

 ケージは声を出すこともできなかった。

 彼の顔の真横に、顔の大きさと同じくらいのクレーターができる。

 クラハはため息を吐くと、起き上がり、

「まったく」

 と彼の腹に一発蹴りを入れ、

「ごふっ!」

「で、何なの? さっきの意味は?」

「ちょ、待って……割と本気で蹴りましたよね!?」

「『打たれる』より『撃たれる』方が良かったぁ?」

 と、もう一方の引き金に指をかけるクラハを見て、ケージは慌てて待ったをかける。

 そして呼吸を整えると、

「……まったく、あなたという人は我慢というものを知らないのですか……今戦場に行っても、たぶん魔族はほとんどいませんよ」

「どういうこと?」

「戦場に居るのはおそらくほとんどが魔獣です。魔界に生息している生き物ですよ。この世界で言う犬や虎、馬みたいなものですよ」 魔獣。

 それはカリオスが村に居たころに狩っていた猪牛いのししうしなどのことを示す。

 人間は動物を使った戦術がある。

 それが魔族の場合は魔獣なのだ。

「私たちがきた本当の理由は魔族です。魔獣くらいなら一般兵でも支障はないですよ。まあ、魔族の本体が出てきたらさすがに向こうも頼らざるをえないでしょう」

 機会はすぐにきますよ、という彼にクラハは「ふぅ~ん……」と退屈そうに銃を回し、

「……じゃあそれまで暇だし……」

 不意に銃を握ると、

「え……?」

 ズドン、と音がなった直後、ケージの前に銃口が現れ、

「暇つぶしに付き合ってねぇ!」

「な、ちょ、おまっ!!」

 ズドン――――――――――

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