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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第一章 わんぱく王女の大脱走!?
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旅立ち -2

導入ラストです!

 支柱の中。

 暗い階段を駆け上がる。


 カリオスが瓦礫のところに着いたときには、すでに夜ノ帳(よるのとばり)が下り始めていた。もう辺りは真っ暗のはずだ。アニスのところに着くころにはかなり夜が()けているだろう。


 始めてきたときは途中に休憩を挟んでいたが、今回は息切れを整える程度で一気に駆ける。


 そして扉の前に到着する。

 大きく呼吸し、鼓動を落ち着かせ、扉を見る。


「……よし」


 意気込み、扉を押す。

 と、ザーっと灰が落ちてきて、


「しまッ――ごほっごっほ、うえぇ! あっちッ!!」


 また頭から被ってしまう。そして灰の向こうから、


「あ、ごめん! 大丈夫?」


 アニスの声が降って来る。灰を払って顔を出すと、


「ごめんね。寒くて少し暖を取ったの」


 日が昇っているときに着ていたきれいなドレスではなく、動きやすい服に着替えていたのが分かった。彼女は準備万端のようだ。


「さ、行きましょ!」


 アニスの声は実に楽しげだ。


「昼間に来た時はあんなに泣いてたのに」

「冒険は楽しまなくては損よ。やるときはやる。楽しむときは楽しむ。こういうのはメリハリが大事なのよ」


 そう言いながら彼女はベッドの下からロープを取り出し、それをベッドの脚に結び付けて、窓から下を確認して、垂らす。


「今日は新月よ。絶好の家出日和だわ」


 そしてロープが大丈夫かを確かめると、


「私が下り終ったら下りてきて」

 アニスは迷わず下りていく。

 その行動力にカリオスは少し唖然としてしまう。本当に王女様なのだろうか。


 そして二人は城の外に出た。足元は石のタイルが敷かれている。


 ヴォール城は湖の中心にあり、脱出するには陸から続く一本橋を渡るか、湖を泳ぐしかない。

 ふと見ると、アニスは何やら地面を探っている。そして、


「あった。ここを持ち上げて」


 彼女が指さしているところを見ると、一つの石のタイルがあった。左右には斧で抉ったような跡がある。


 そこに指を入れると、丁度良い(くぼ)みがあり、思ったよりも簡単に持ち上げることができた。中を見ると何やら滑り台のようになっている。


「ありがとう。はいこれ」


 彼女はどこからともなく持ってきた長い板をカリオスに渡す。先端は反り返り、そこから紐がついている。どうやら簡単なソリのようだ。


「どこから持ってきたの?」

「あなたが来る前に用意しておいたの。ここはこれがないとお尻がすり減っちゃうからね」

「え?」

「私が前にのるわ。あなたは私に掴まってて」


 と言ってソリを滑り台に向けておき、乗ってスタンバイをする二人。


「準備はいい? 声を出したらだめよ」

「い、いいよ」

「じゃあ……行くわよ!」


 水平な地面を恐る恐る進んでいく。そして穴にのり出したところでソリが斜めに角度を変え、急速落下を始める。




「「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!」」




 押し殺した絶叫を上げ、二人はぐるぐると大きく螺旋状に設計された滑り台を滑降していく。

 途中速度を落とすためのまっすぐな場所もあったが、カリオスの肝は絶対零度並にまで冷え切っていた。



 そして最後は、ザッバーンッ、と水の中に突っ込んだ。



「……――――ップハ‼ 死ぬかと思った!」

「ップハ! さいっこう!」

「嘘付け! 涙目じゃないか!」

「こ、これは水よ! 涙じゃないわ!」

「目が真っ赤だよ」

「これは……あれよ! 目の中の血管が破裂して!」

「それは重傷だよ!」


 と、言い争っていると、


「お~来なすった来なすった」


 二人の視線の先には洞窟があり、中から一人の老人が出てくる。


「アニス様。お待ちしておりました」

「オキナ!」


 アニスは急いで水から上がり、オキナと呼ばれる老人の元へ行く。

 見ると、ここは船の発着場らしい。船が浮かんでいるのが見える。場所からするとヴォール城の真下だ。

 カリオスも水から上がり、道具の状態を確認する。


「準備は?」

「万端でございます」

「流石ね。ありがとう」

「勿体ないお言葉でございます」


 アニスは振り返り、カリオスの状態を確認する。ちょうど彼も確認し終え、装備してアニスのところに向かっていた。


「ん? その子が例の?」

「ええそうよ」

「それはそれは……お幸せに」

「何で涙を拭っているの!」

「このオキナ。御そばに居らずともアニス様の幸せを願っておりますぞ」

「早とちりしないで! まったく。その悪い癖未だに治らないのね。前は兵を連れてきただけで泣いてたわね」


 はあ、とアニスは早くも疲れを含んだため息を吐く。


「で、船はどれなの?」

「あちらに……」


 オキナの向いた方を見ると、一隻だけ他とは違う船があった。

 他の船には全てオールが付いているが、その船には後ろに取っ手が付いている。


「取っ手を回すと、水中にある水車が回転して進みます。水中なので音はありません」

「流石。趣味が日用大工なだけあるわ」

「ありがとうございます」


 さて、とアニスは船に乗り込み、カリオスの方に手招きする。彼も船に乗ろうと足を進める。


「……ほう」

「……なんですか?」


 オキナの前に来た時に、声を掛けたれる。


「いやいやいや。好機な目を向けてすまない」


 謝罪しつつも、彼は頭から足先までじっくりと眺めてくる。そして、「ほほう」と、


「アニス様の運命を変える者、か。一人でも運命を打ち砕きそうなあの子の運命を変えるとは、一体どんな奴なのかと思ったら……まさか魔族だとは……」


 オキナは腕を組み、感嘆の声を漏らす。そしてカリオスの方に手を伸ばし、


「満足を通り越してお腹いっぱいだよ」


 頭を撫でる。ごつごつして硬い掌だったが、嫌だとは思わなかった。

 オキナはカリオスの頭をくしゃくしゃにしながら笑い、


「アニス様を頼んだよ」

「頑張ります」

「ハハハ! その息その息!」

「ね~え~、もういいかしら~?」


 見ると、アニスが膨れ面で小舟に座っていた。それを見てオキナは笑う。


「ハハハハ! ほら、花嫁様が風船みたいになってるぞ!」

「聞こえてるわよ! 誰が風船ですって!」

「あちゃぁ聞こえてたか」

「素が出てるわよ」

「ハハハ。良かったな少年。婚約は許してくれるらしいぞ」

「き~こ~え~て~る~わ~よ~」


 ハハハ、とオキナは笑う。思っていたよりも気さくな人だ。


「ハハ。さて少年。まだ名前を聞いていなかったな。俺の名はオキナだ」

「僕はカリオスです」

「オーケーカリオス、」


 そういうと彼はカリオスの前に手を出す。


「アニス様を頼んだ」


 カリオスはその手をしっかりと握り頷く。


「はい!」


こうして二人は城を出た。

船は本当に音もなく進んでいく。

しかしその分取っ手はオールで漕ぐときよりも重い。


「お、重い……」

「頑張って。私はできないから」


 初めアニスが「私がやる!」と言い出したのだが、即座に「つるううぅぅぅぅ!」という力んだ声に変わり今に至る。


 闇夜の船の上でアニスはじっと城を眺めていた。


「……」

「思い残したことでもあるの?」

「……あなたは」

「……あんまりないね」

「そう……」


 そこで会話が一時途切れ、静寂が舞い降りる。虫の声のみが旅立ちを祝福してくれている。


「……不思議ね。部屋に居たときはあんなに出たかったのに、いざ出てみたら……なんだか……」


 そういう彼女の瞳は、ほんの少しだけ潤んでいるように見えた。

 カリオスは彼女の視線を追って城を見る。


「……なら帰ってこよう」


 そして城を見てから、アニスの方に向き、


「お土産に平和と幸せをいっぱい持ってこよう!」


 ニッと笑った。

 それに彼女は一瞬硬直したが、


「そうね!」


 ニッと笑い返した。

 彼女はそっと指で涙を拭くと、立ち上がって指をさす。


「私たちの冒険はこれからよ!」

「それを聞くともう終わりそうに聞こえるよ」


 カリオスは苦笑して取っ手を回し続ける。

 


 こうして、魔族の少年と一国の王女の旅は幕を開けた――――――



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