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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第六章 『戦場での二人』
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ドルン城にて

 ドルン王国。

 5強に数えられるこの国は他の国に比べて特に秀でたものがない。

 言葉を選ばないのなら、強国の中で最弱だ。

 故に狙われたと考えられる。

 その事実に、現国王『タオフェ・ドルン』は憤慨する。

「くそっ!」

 王座のひじ掛けに拳を叩きつけ、吐き捨てる。

 しかしそれは事実だ。

 だからこそ今回の戦い、力を示すために自国のみで勝たなければならなかった。

 だが、――――――――――

「……ヴォールからの派遣が来るのはあと……三日か」

 気持ちを落ち着け、タオフェは冷静にこの後のことを考える。

 南にあるヴォールから北の端の方にあるドルンまでは馬で飛ばしても七日はかかる。

 一番近いナールング王国からならニ日で兵は来るが、国家連合会議で『あそこは国家連合軍の食料庫、故にいつ襲われても対処できるように守りを固めよ』という話でまとまってしまった。

 そして代わりにヴォールが出てきた。

 しかし三日とは……。

(魔法……か……)

 派遣される兵士は魔法兵50人。

 そしてあの先行魔法騎士団から……2人。

「……」

 魔法には詠唱が必要。

 故に奇襲以外戦場では必ずと言っていいほど後手に回る。

 しかし、後手に回っても戦況を有利に進めることができるほどの威力を持っている。

 それを、先手を打ち、なおかつ戦場内で自由に使うことができる。

 タオフェのイメージでは、それは戦場に大砲を担いで切り込んでいくに等しい。

 ギリッと、歯が音を立てる。

 自分たちの活躍の場が奪われる。

 タオフェは伝令を呼びつけると、指示を出す。

「状況の判断は任せる。が、勝機と思えばすぐに首を取りに行け!」

 はっ! と伝令は返事をし、部屋を出ていく。

 できることなら、ヴォールやつらが来る前にケリを付けたいが……




      ・・・ 




「フッフフ~ン♪」

「えらくご機嫌ですね『クラハ』さん。ま、大体は予想が付きますけど……」

「え~? そりゃあご機嫌にもなるわよぉ『ケージ』」

 『クラハ』という女性は、呆れる『ケージ』という青年ににやりと陰湿な笑みを向ける。

「だって、これから殺し放題なのよ? 心躍らないほうが不思議だわ」

「ま、あなたはそうだよ思ってましたよ」

 ケージはため息を吐く。

 二人とも動きやすくデザインされたローブに胸当てを付けた、独特な鎧を付けている。

 そしてケージは腰に剣を。

 クラハは腰に二丁の魔銃マギードロップを。

 形状は水平二連型ダブルバレル短縮化散弾銃ソードオフショットガン

 彼女は両腰に携えた二丁を抜くと、くるくると弄び、それをうっとりとした表情で眺める。

「あぁ……早く撃ちたいねぇ……」

 待ち遠しそうに折って戻してを繰り替えすクラハ。

 それを見てケージは、

「そんな乱暴にしてたら壊れちゃいますよ?」

「乱暴? 我が子をいたわるように優しくしてるじゃないか?」

 我が子なんてくせに、と口走るとこめかみに銃口を当てられかねないので黙っておく。

「しかし、もっと早く着かないのぉ?」

 銃をしまい、欠伸をするクラハ。

「しかたないですよ。これでも急いでるんですから」

 と、彼は後ろを向いて言う。

 そこには50人の魔法使いたちがいる。

 しかし二人とは違い、かなり疲労の色が見える。

 それは日々に鍛錬を怠っていたからではない。

「まったく。僕たちの体調管理役に25人。行くまでの代わりの戦闘役に25人って、ちょっと多すぎません?」

 皆さんファイトですよ~、と彼は覇気のない声を後方に投げる。その声に何人がイラッとしたか、怒りに燃えた串刺すような視線が返ってくる。

 それに彼は「アハハ……」と笑い、そっと目をそらす。

「ま、万全で狩りに臨めるなら私はいいけどねぇ」

「あなたは揺るぎませんね……」

 この戦闘狂は……、とため息を吐いたところで、ケージは「さて、」と気持ちを切り替える。

 そして再び後ろを振り返り、

「皆さん! そろそろやりますので、準備はいいですか?」

 その言葉に、今まで少しだらけ気味だった兵士たちに緊張が走る。が、その顔はピリッとしたいいものではなく、嫌なことを覚悟するようなものだ。

 そして集団の中から四人の兵士が出てくる。そのわきには巨大な絨毯を抱えている。

 それを確認し、ケージは詠唱を始め、魔法名を放つ。

「『足枷の開放ラオベングラビティ』」

 その瞬間、全員の体が軽くなる。

 そして、

「うっ――――――――――」

 嘔吐する者も現れる。

 それを見てクラハは引きながらケージに言う。

「あなたの魔法のえげつなさも揺るがないわね……」

「こ、これは不可抗力ですよ! 個人差もありますし、仕方ないことです!」

 彼の魔法は『重力を操る』というもの。

 一見便利そうに見えるだろうが、これにもリスクはある。

 深海魚がいきなり釣り上げられると内臓が飛び出すのと一緒だ。それを人間でも起こすことができる。

 誰かその人を治療してあげて、と適当に指示しケージはクラハを見る。

「次はあなたの番ですよ」

「分かってるわよぉ。はーい絨毯引いてみんなもっとこっちに寄ってねぇ~!」 

 と彼女は持ってきた絨毯を引かせ、その上に乗り、全員を自分の周りに集める。そして魔銃を二丁取り出し、弾丸を込めて詠唱を始める。

 そして、

「『強者の指弾フォースエグジル』」

 発動した瞬間、地面に魔方陣が現れ、衝撃とともに絨毯が宙に浮かぶ。

 そして絨毯が最高点に至ったところで、

「みんな~。しっかり捕まってないと振り落とされるわよぉ~」

 そう言い、絨毯の後ろに行き、魔銃を構え、

「もう一回」

 ズドンと音がし、今度は魔銃で『強者の指弾フォースエグジル』を発動する。その瞬間、ゴッ! と絨毯が動き、全員が慣性でよろめく。

「魔法の絨毯の完成ー……かな? かなり強引だけど」

「まあねぇ。よ~しみんな~! 振り落とされないように頑張ってねぇ~」

 そう言うと彼女は絨毯に勢いがあるうちに詠唱を済ませ、また発動する。その度にゴッ! と激しい揺れがくる。兵士たちが疲労していたのはこの二人の魔法のせいである。

 慣れていない兵士たちはすでに顔色が悪く、泡を吹きそうになっている者もいる。

 が、休憩をなるべく挟まないのはそれだけこの二人に価値があることを皆が理解しているからだ。

 戦術は抜きにして、単純な戦力だけなら、この50人よりあの二人の方がはるかに上だ。

 よって、この二人を完全な状態で戦場にお届けする。

 それがこの50人に課せられた命令なのだ。

「今は我慢だ! 耐えろ!」

 誰かの声に、残りが「おおッ!!」と声を上げる。それを見て騎士団の二人は顔を見合わせ、

「なんか僕たち、敵になってない?」

「私は殺せればそれでいいけどね」

『ひぃっ!』

「大の男どもがそろってそんな声を上げるなよ……」

 青ざめる一般兵を見て、ケージはため息を吐いた。


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