再出発
ちょっと短めにしました
フェルスを出てから一日と半分。
ちょうどお昼時。
ヴーレンに戻ってきたアニスらは、
「ラケナリア! いるか!?」
ドンッと蹴破るようにドアを開け、強盗のように入ってきた一行を見て、
「な、なんだ真昼間から!」
と、グラスを片手にテーブルに着いていた彼女はビクッと体を震わせる。が、それがヌルデたちだと分かると、少し落ち着き、その血相を変えた様子を見て、
「どうしたんだい? ただ事ではなさそうだね」
と酒をひとまず片付けて、「とりあえず落ち着いて」アイスティーを出してくれる。
全員テーブルに着くと、乱れた息を落ち着かせ、ティーを一口含む。
「落ち着いたかい?」
それを見て彼女はにこりと安堵したように笑う。
ヌルデやレオンはそれで少し落ち着きを取り戻した。が、アニスは依然青い顔をしている。
「アニス?」
「大丈夫」
ヌルデが小声で声を掛けると彼女は笑顔で返す。がそれはぎこちなく、明らかに無理をしている。
「ラケナリア、フェルスの霧について教えてほしいんだけど」
「あああれね。でもどうしてだい? まさかさらわれたのかい!?」
「ああ。あの子供がね。森で育ってるし、場所的にも崖から落ちたとか、遭難したってのは考えられない」
彼女の即答でラケナリアは察し、ふむ、と考える。
そして、
「霧の先はどこかに繋がっている、という話がある」
「どこかっていうのは?」
「……そこまでは。もしかしたら山のどこかかもしれないし、向こうのケーラかもしれないし、もしかしたらまったく別の場所かもしれない」
「そんな……」
アニスはその絶望的な事実に、思わず呆然としてしまう。
ヌルデはラケナリアの方に向き直り、
「生還者みたいなのはいないの?」
その質問に彼女は記憶を辿り、
「……ケーラになら……いるかもしれない」
「何かあるのか?」
「いやさ。ホラ吹きの可能性があるからね。私も聞いただけだし、この歳じゃあ確かめに行くこともできないし」
「……そう。ありがとう」
「力になれなくて本当に申し訳ない」
ラケナリアの家を出た一行。
重たい空気。
誰も口を開く者はいない。
まるで夢と現の狭間にいるような、奇妙な浮遊感がわだかまるように心に蓄積する。
無気力。
一言で表すならまさにこれだ。
「さて、どうする?」
ヌルデはため息を吐くように二人に問う。それにレオンは「そうだな」と若干疲労感のようなものを帯びた声で反応する。
「またあの霧に飛び込むか?」
「それも案の一つだね」
「……充分よ」
その声にした方に全員が向く。
アニスは顔を上げる。その目には涙が溜まっていたが、瞳には力強い光が宿っていた。
彼女の瞳の光がギラリと揺れる。
「可能性があるなら、とことん進むだけよ!」
と、彼女はいきなりどこかに歩き出してしまう。
それに二人は慌てて付いていき、
「お、おい! いったいどこに行こうってんだよ!」
「決まってるでしょ!」
レオンの問いに、彼女は振り返る。
「ケーラよ! ホラだろうが何だろうがそこから何でもいいからヒントを掴み獲るのよ!」
そう言って彼女は馬車の方に歩き出す。
「あいつに助けられたな」
「この中で一番メンタルが硬そうだね」
二人は顔を見合わせ、少し安堵の笑みを零す。
こうして一行はヴーレンを後にした。