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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第一章 わんぱく王女の大脱走!?
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出会い -2

 戦争の発端。『リューゲ・ヴォール』

 

 

 十年程前のことだ。


 魔郷に家来を従えた一人の男が現れた。

 彼の名は『リューゲ・ヴォール』。ヴォール王国の国王だと自ら名乗った。


 魔郷とヴォール王国。この二つの関係は深い。


 それは1000年前の大戦まで遡る。


 大戦が終結する少し前、追いつめられた魔王軍に手を差し伸べたものがいた。


 初代ヴォール国王『シェプファ・ヴォール』だ。

 彼はひどく慈悲深い人だった。


 ヴォール王国は魔法が発展した国。

 初代国王は自分が信頼できる家来とともに、魔法で地下に巨大な世界を作った。

 そして魔王軍が地下に逃げるための手助けをしてくれ、その後の隠蔽(いんぺい)も全て行ってくれた。

 彼がいなければ今の魔族は存在しない。彼は魔族の中では英雄と(たた)えられている。

 

 そして1000年が経ち、その血筋である彼が現れた。

 

 英雄の血を引く彼を、魔族は拒まなかった。

 そして『英雄』という言葉に惑わされ、我々は見事にのせられてしまった。




「魔郷では批判の声の方が大きいでしょうね……」

「……うん」


 平和は誰もが望んでいる。

 しかし誰も戦争なんて望んでいない……彼以外は。

 



 ――――悪の共通認識

 



 これがリューゲ・ヴォールの提示した案だった。


 魔王を再び『悪』と認識させることによって、世界を統一する。

 リューゲ曰く、どちらの被害も最小限に抑えていると言っているが、被害が全くないなんてことはなく、死者も出ている。初めは少しの手助けだと言っていたが、戦況が段々と変わり、気づいた時には後に引けなくなっていた。


 それで地上は一つになったかもしれない。しかし魔族を道具同然に扱うその振る舞いには反感の声が後を絶たない。


「ごめんなさい……」


 アニスは震える声で謝罪する。


「何で君が謝るのさ! 君はなんっっっにも悪くないって!」


 カリオスは慌ててフォローする。


「でも……見て見ぬふりは悪いことだわ」


 彼女は表情をさら曇らせ俯いてしまう。彼女が一番責任を感じているようだ。


「……今日……あなたに会って決心がついたの」

「え……」


 ゆっくりと、アニスは自分の心の内を話し始める。


「最初は私も魔族は悪いものなんだって思ってたの。でも、お城で時々話してるお父様の話を盗み聞きして、お父様が何をしているのか知ったの」


 (から)まったものを解きほぐすように、


「私、すっごく迷ったわ。分からなかったの。何が悪くて何が良いのか。お姉様に相談したけど忘れなさいって言われたわ」


 改めて決意を固めるように、


「でもやっぱり、魔族の騙すようなことをして得た平和なんて嫌!」


 首を激しく横に振り、俯きながらもどこか、絨毯でも空気の層でもないどこか先をまっすぐに見る。


「私は……みんながみんな手を取り合っている、そんな幸せな世界がいいの! だからお願いッ!」


 アニスは身を乗りだしてカリオスの手を握り、まっすぐにその目を見る。そして「お願い……」と目に涙を浮かべ、


「お父様もその輪に入れてあげて……」


 器の容量を超え、(しずく)が頬を伝う。それだけ言うと、ついに彼女はその場に泣き崩れてしまった。


 カリオスはそれを黙って見ていた。

 そして少し戸惑っていたが、冷静に彼は考えていた。彼女の言葉は本当に、本心からのものだと思った。助けてあげたいと心から思えた。


 その反面――――、


「ねえ」


 カリオスはアニスを落ち着かせるように声を掛ける。それにアニスは嗚咽を上げながらも、少し落ち着いたようだ。


「っく……なに?」


 そこからさらに少し、落ち着くのを待って、カリオスは疑問に思っていたことを聞く。


「何で僕なの?」


 自分よりも腕の立つ者はたくさんいる。それ以前にカリオスはまだ年端もいかない子供だ。そんな彼に心境をさらし、これほど頼み込んでくるには何か理由があるのだろう。偶然会った魔族に話すには信頼し過ぎている。

 アニスは鼻をすすって、袖で涙を拭くと、


「お告げがあったの」

「お告げ?」


 コクンと頷く。


「御婆の占い。三日前にお父様の占いについて行ったの。それでその時に一緒に占ってもらったの」


 御婆。話を聞くに国王にも信頼され、かなり腕の立つ占い師のようだ。


「御婆は『近いうちにあなたの運命が変わる』と言ったわ。お父様は婚約の話が入って来るととても喜んでいたけれど、私は違うと思った」


 そして一拍置き、


「それで御婆はこうも言ったわ。『それを棒に振れば、二度と願いが叶うことはない』」

「なるほど」

「ちなみに御婆の占いは外れたことがないわ。この国がたくさんの戦争で勝ってこられたのも、王族に仕える占い師のおかげだと聞いているわ」

「百発百中?」

「一撃必中よ」


 納得する。しかしやはりいきなり過ぎる。

 こんなことになるとは思わず、何の準備もしていない。


「お願いします!」


 カリオスが迷っているのが伝わったのだろう。彼女は頭を下げて頼んでくる。

 しばらく、カリオスは唸ってはやめてを繰り返し、――――――



「……夜まで待ってもらってもいい?」



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