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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第五章 『魔剣の鍛冶屋』
49/122

ヴーレンにて -2

 

 カチンカチンと音が鳴る。

 真っ赤に燃える鋼を叩き、鍛える。

 手に持つ特別なトンカチを振り下ろす。

 水につける。

 炎の中に入れる。

 叩く。

 このサイクルを繰り返し、最後に磨き上げる。そうして一つの鉄を、一本の刃にする。

 その過程で常に魔力を注ぎ続けると、魔剣が完成する。それには特別な道具と膨大な魔力が必要になる。

 彼女は生まれつき、底知れぬ魔力を持っている。

 だが、

「ん~、やっぱり付け焼刃じゃ何にもならないよね~」

 手に持つトンカチを見て呟く。それを置くと、彼女は仕事場の床に大の字に寝転がる。

 部屋には大量の刃

 剣、ナイフ、鎌、槍、斧、刀などなど。

 彼女は諦めたようにため息を吐く。

「どこいったんだろ……」



      ・・・



 カリオスたちはある家の前に居た。

 ここにはヌルデの紹介で来た。この国の伝説などに詳しい人らしい。

 ヌルデを先頭にし、ドアをノックする。

「失礼するよ」

「はいはい。どちら様かな?」

 中から出てきたのは背の小さな老婆だった。

 老婆を見て、ヌルデは笑い、

「私だよ。『ラケナリア』」

 そう言われ彼女は目を細める。そしてヌルデの姿を認識したようでにこりと笑い、

「やあやあやあやあどうしたんだい! えらく久しぶりじゃないかい! いい本でも手に入ったのかい?」

 そう言って彼女の胸を叩く。言って悪いが肩まで手が届かないのだろう。ヌルデはそれに笑って返すと、持っていた袋を彼女の目の前に出す。

「はい。血だよ。少し高めのを選んできたから」

 もちろんそれが血なわけがない。彼女が差し出したのは葡萄酒だ。

 主神オーディンも嗜んでいたと言われる葡萄酒は、神の血と言われている。

 ラケナリアはそれを、目を輝かせて受け取る。

「おお気が利いてるねぇ。丁度今肉もできたところだよ」

 そう魔女のような笑みを浮かべて彼女はきびすを返して奥に行く。それはそれは、とヌルデもそれについていく。カリオスらもそれに(なら)ってお邪魔する。

 中に入ると香ばしい匂いが鼻をつつく。

 これは焼けたパンの香りだ。

 流れからしてパンが神の肉だということはお察しいただけているだろう。

 一行は食堂に通され、中央にあるテーブルに着席する。

 しばらくしてそこに予想通り焼きたてのパンが運ばれてくる。

「どうぞ。好きなだけ食べてください」

 そこで女二人は思う。

((これはデジャヴの予感!))

 そう思い二人を見た瞬間、

「んぐんぐ!」

「おお! 婆さんこれうまいな!」

((遅かったか……))

 アニスは顔を覆い、ヌルデは後頭部で腕を組んで笑う。

 さて、とラケナリアは椅子に腰をおろし、

「あんたが客人を連れてくる何て珍しいね。あなた方は?」

「初めましてラケナリアさん。私はアイリス。あなたがこの地域の伝説や伝承に詳しいと彼女から聞きまして」

「ほうほうほうほうなるほどね」

 彼女は嬉しそうに頬を綻ばせる。

「それで、何について聞きたいの?」

「『魔剣の鍛冶屋』について、少し」

「ああはいはい。有名なやつだね」

 彼女はそう言って席を立つと部屋を出て行き、一冊の本を持ってくる。その本は古く、ページは黄ばんでいる。どうやら伝承を集めた本のようだ。

 彼女はそれを自分の前に広げると、ある個所を指さす。

「ほらここだね」

 そこには『魔剣の鍛冶屋』とタイトルが書かれ、説明が載っている。



 その者は魔剣の鍛冶屋、製造師と呼ばれていた。

 その者は最高の剣を求めて旅をし、やがてこの国にたどり着いた。

「ここは鉄が豊富だ。ゆっくりと自分が思い描く一本を作ることができる」

 そう言ってその者は山に小屋を作って籠った。



「……というお話だよ」

「その山というのは?」

「一般的にはここから南に行った『フェルス』という山だと言われてるよ」

「一般的には?」

「こういった話は靄の様でね。誰も本当の場所を特定できてないんだよ」

「だからこそ興味が湧く。だね」

 そこにヌルデが言うと、彼女も、

「その通り!」

 と笑い合う。とても高齢の方には見えない、好奇心に満ちた若々しい笑顔だ。

 アニスはそんな二人を見てクスッと少し嬉しそうに笑う。そして再び本に目を落とし、

「探求心の強い方だったんですね」

「伝説になるくらいにってね」

 アニスは感嘆の声を漏らし、ヌルデは小ばかにするように笑う。

「伝説なんて目指してなれるようなものじゃないさ。なるだけの『何か』を持ってなきゃいけない。この人の場合はそれが『探求心』だったということだよ」

 ラケナリアは本を閉じるとパンを一つ取ろうと手を伸ばす。と、その手が虚しく空を切る。

「おや?」

「ゲプッ」

「ごっつぉさん」

 カリオスとレオンはともに膨れたお腹を擦り、満足げにしている。それにラケナリアは思わず笑い、

「そんなにおいしかったかい?」

「はい! もって帰りたいくらいです!」

「それはそれは。嬉しいことを言ってくれるね。ならまだたくさんあるからたんと持って行きなさい」

 そう言って彼女は厨房に行く。

 その隙にアニスは二人に向かって文句を言う。

「どうしてあなたたちは遠慮ができないの! それに食べ物ネタは私の担当のはずよ!」

「仕方ないだろ!」

「そうそう!」

 そう二人は力強く頷く。

「は?」

 それに彼女は不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。

「だって……」

 それにカリオスは拳を震わせ、

「アニスがしゃべると、僕たちは食べる以外に空気状態を回避する方法がなくなるんだ!!」

 切実な思いだった。



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