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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第四章 『十字に仇なす怪物たち』後編
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後始末

 シャオムはゆっくりと森の中を歩いていた。

 ここはネーベル領だ。しかしネーベルの城からはかなり離れている。


 月の光が木々の隙間から零れる。


 地下の獣臭くて湿った空気を吸っていると生きた心地がしなかったが、地上に出たときの解放感とでチャラにしてやろう、と自分の中で勝手に呟き、足を進める。


 しばらくすると森の中に一軒の家が見えてくる。ここは彼女が秘かに建築させた隠れ家である。ここに待機させている自分の付き人と一緒にしばらく身を隠すという手はずになっている。


 国に帰った時の言い訳は『彼らが私を守ってくれたのですが、夫と息子の方は……』と言って涙を流すのだ。これで自分は完全に『悲劇のヒロイン』『可哀想な王妃様』となるのだ。


 と、考えて歩いて隠れ家の近くまで来る。


 が、そこで異変に気付く。

 明かりが点いていない。


 クロウとキャッツェも含め、先に何人かを待機しているように指示したはずなのだが。

 彼女は恐る恐る玄関の扉を開ける。その瞬間、



「少し遅かったですね」



 彼女の呼吸が一瞬止まり、乱れる。


 中に広がっていたのは真っ赤に染まったエントランス。そしてあちこちに転がる斬殺死体。それは全て、彼女が待機しておくように言ってあった者たちだ。


 その中心には一人の男が立っていた。彼女はその肩の紋章を見て思わず息を飲む。


「ヴォ、ヴォール!?」

「いかにも」


 彼は向き直ると、一礼し、


「ヴォール王国兵士、『先行魔法騎士団』所属の『ソード』というものです」

「先行魔法騎士団!!」


 その単語を聞いた瞬間、彼女の瞳は恐怖を通り越して絶望に変わる。


 先行魔法騎士団。

 魔法と武術に長け、戦闘でその両方を扱えるほどの力量を持ったヴォールの前衛魔法部隊。

 数は少ないが、量より質。一人一人が恐ろしい戦闘力を持っている、まさに化け物の集団。


 彼の手に剣がある。彼女はジリッと後ろに下がる。


 それを気にする様子はなく、ソードは剣を血振りし、


「ヴォール王国国王、リューゲ・ヴォール様から伝言を預かっております」


 と、彼はゆっくりと歩いてくる彼女はそれを見て逃げ出そうとするが、それを見た彼は一丁のフリントロック式にピストル型の魔銃を出し、彼女の脚に向けて撃つ。


「『不解の縛縄(グレイプニル)』」


 そこから射出された弾は彼女の脚に当たると光の縄になり足を縛り上げる。

 シャオムはバランスを崩し、地面に倒れる。


「ふむ。やはりこういったものは好かないな」

「ひッ――――――!!」

「魔法はきちんと詠唱をして唱えるに限る」


 そして振り向くと目の間にソードが立っていた。


「リューゲ・ヴォール様からの伝言をお伝えします」


 彼は淡々とそう言って剣を高々と振り上げると、


「戦争のためならと実験は許したが、人間の使用を許可した覚えはない。出し抜けると思ったか? 己惚れるな、って、最後のは俺が付け足したんだがな」

「ぶ、無礼者! 私を誰だと思っている! 私は!」

「ネーベル王国王妃、シャオム・ネーベル。だろ?」


 遮ってそう言うと、ソードは剣を振った。

 乱暴に切られたシャオムの首は地面に転がる。鮮血が撒き散らされる。


 そしてソードはその首を蹴る。


 その転がった先には、一人の青年が居た・・・・・・・・

 彼はそれを拾い上げると、手の中で弄ぶ。


「これはいったい、どういうことかな?」


 青年レーエン・・・・はソードを見て笑う。

 しかしその笑いには余裕は感じられない。明らかに強がっている。


 一行は彼を見て武器を構える。それを見てソードはため息を吐き、


「俺の今日の仕事は済んだ。お前らとやる気はない」

「ああ? 逃げんのかよ?」


 きびすを返す彼にブリッツは突っ掛る。それをクランが止めるが、彼は止めない。


「逃げんのかよ腰抜け!」

「ちょっとブリッツ。やめなさいって!」


 しかしソードはそれを無視して去っていく。

 それにキレたブリッツはついに稲妻を纏って飛び出し、


「無視すんなよ!!」


 跳躍して回し蹴りを放つ。が、


「しつこいぞ」


 彼はその足を持つと、近くにあった木に叩きつけようとする。ブリッツはクロウ(人型)の時と同様のかわし方をしようとする。が、彼はその脚も掴み、レーエンの前に放り投げる。


「ぐえ! いってえ!」

「死なせたくないなら押えておけ」


 それだけ言うと彼は森の中に去っていく。


「あ、待て!」

「追うな馬鹿!」

「誰が馬鹿だ!」

「いいから黙れ!」


 とレーエンはブリッツを説得し、その間にソードは去って行った。

 ブリッツは不満そうに舌打ちするがレーエンはそれをなだめると、


「さあ。これからが大変になる。気を引き締めていこう!」


 彼らもネーベルを後にした。



      ・・・



 ネーベル城エントランス。


「それでは、私たちはこれで……あまり気を落とさないでください」


 そうアニスが頭を下げる。

 今朝、町の外の森の中にある別荘で、シャオム・ネーベルだと思われる首切り死体と、その他諸々の化け物の斬殺死体が発見された。

 彼女の死体に関して、なぜそんな濁したように言うかというと。


 彼女の首から上がなかったのだ。


 その場に居た兵士がどれだけ探しても頭は見つからなかった。おそらく魔族が持って行ったのだろう。


 頭を下げる彼女に、バンクは「いやいや」と謙遜し、


「こちらこそありがとう。それに私は一国の王だ。そんな何日も落ち込んでいられないよ。しかし『アニス・ヴォール』ちゃん。まさか君だったとは」


 本当に強い人だ。カリオスは心の底からそう思った。

 結局彼女らはバンクにヴォールのことを話した。


「あの、このことは」


 アニスが慌てて口に手を当てる。彼は笑って詫び、


「ああ分かっている。秘密なんだろ。あの話も」

「はい。よろしくお願いします。また何かお世話になることもあるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」


 と言って彼女らはネーベルを後にした。

 壁の外に出てしばらくすると、


「ううう……ひっく……」


 彼女は泣き出してしまった。

 町を出るまでと我慢していたのだろう。線がプツリと切れてしまったかのように大泣きし、一行は木陰で休憩を取る。


「大丈夫?」


 カリオスはその背中にそっと手を当て、隣に腰を下ろす。


「ありがとう」

「鼻水だらだらだよ?」


 うん、と言って彼女はずるずると鼻をすする。

 そして少し落ち着きを取り戻したころに、


「また……死んじゃった」

「……」

「今度はたくさん」

「……アニスは悪くないよ。それなら僕だって……」

「……私たち、弱いね」

「……」


 そんなことない、とは言えなかった。自分もそれを実感していた。

 初めて、力が欲しいと思った。皆を助けられるだけの力が。


「そこで力が欲しいとかいうなよな」


 会話を聞いていたレオンがそう言った。アニスとカリオスはその言葉で彼に注目する。

 彼は真剣な顔で言う。


「きれいごとだと思うかもしれないけどよ。力なんて欲したっていいことないぜ? いいか? 純粋に力が欲しくて力を手に入れようとするのと、何かが欲しくて力を手に入れようとするのは全然違うことなんだ。ちょっと難しいがな。意識の違いだ。そこをはき違えればただ力に飢える化け物になっちまう」

「……どうしたのレオン?」

「……変な物でも」

「そのネタを俺に振るな」


 カリオスが言い終わる前に制止を促し、彼はおもむろに空を見上げる。それは昔を思い出しているように見える。


「小さい頃に『シャムシー』って知り合いが居たんだ。そいつは俺よりも悪ガキでいい言い方をしたら感情豊かな奴だった。そいつはいつかヴォールの兵士になるって言って毎日努力してた。そしてあいつは兵士になったんだ。でもそれから度々戦場に出るようになって、変わっちまった。戦うためには力がいるっていってな。ガチガチのカラクリみたいなやつになっちまったよ……今は『ソード』って名乗ってるらしい。先行魔法騎士団にいるってきいたよ」

「先行魔法騎士団!!」

「何それ? アニス?」

「魔法と武術を(以下略)」

「そ、そんなのあるんだ。合わないようにしないと」

「大丈夫よ。彼らは滅多に表に出てこないから」

「そうなんだ。良かった……」


 それを聞いてカリオスはホッと胸を撫で下ろす。


「でも……レオン」

「友達が居たんだね」

「そこじゃないだろ!」


 クスクスと笑う二人に、少し顔を赤くするレオン。

 プイッとそっぽを向くと、


「さ、もう行こうぜ。そんだけ元気なら大丈夫だろ」

「そうね」


 と彼女は腰を上げる。大分元気になったようだ。

 カリオスも一緒に立ち上がる。


「次はあの村でいいんだよね?」

「そうそう。そこにいろいろヒントがあるっぽいから」


 と、彼女はん~と伸びをして気持ちを切り替えると、


「さあ、行きましょ! 時は金に勝るわ」

「これが出たなら元気だな」

「そうだね。随分気に入ってるみたいだし」


 と、一行は目的の村に向かって足を進めるのであった。


第四章完です!


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