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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第四章 『十字に仇なす怪物たち』後編
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 迷いなく走っていく少年の後、をレーエンとトレラントが付いていく。


 そしてしばらくするとまた大きな扉が見えてくる。

 少年はそこに迷いなく走っていく。


「なんだ! 誰だ貴様ら!」

「邪魔」


 立ち塞がった兵士の首を切り捨て、その部屋に急ぐ。そして、少年はその中に飛び込む。そして辺りを見回すと、一人に男と子供がいる。『バンク・ネーベル』と『リベルテ・ネーベル』だ。


 その姿を捉えた瞬間、少年の目に溜まっていた怒りが爆発する。


「なんだお前たちは!」


 バンクがそう言い終わる前に、少年はリベルテに襲い掛かろうとする。が、


「おいおい焦るなよ」


 振り上げたその手をレーエンに取られ、少年は暴れる。

 その少年の顔を見たリベルテはふと呟く。


…………?」


 だが彼の意識はすぐに後ろの方に向く。それに気付いたレーエンとトレラントは振り返る。


「『氷結の矢(アイスツァプフェン)』!」


 いくつもの針のような氷が魔杖の先から飛び出し、二人を襲う。

 トレラントは前に立つと、それらを一薙ぎで払ってしまう。

 しかし振り終えた瞬間、目の前に一人の少年が居て、ナイフを肩に振り下ろされる。


「ぐあッ!!」


 刃先は深く抉りこみ、剥ぎ取るように切り裂かれ、左肩が使い物にならなくなる。

 少年は入り口で魔法を使った少女のところに行くと、


「アニス! 王様たち当たったらどうするつもりだったの!」

「だ、大丈夫よ! 当たらなかったんだし」

「思いっきり結果論じゃないか!」


 と言ったところで少年は諦めたようにため息を吐き、ナイフを構える。そして少女も魔杖を構え、


「その人たちを殺させはしないわ!」



      ・・・



 クレマシオンとリュゼは、使用人に案内されて王妃の部屋にやってきた。


「ここですね」

「じゃな。おい。お前はもうどっかに行っていいぞ」


 それを聞くと彼女は走って逃げて行く。

 さて、とクレマシオンは刀に手を、リュゼはクロスボウに矢を装填する。


「行くぞ」

「はい」


 クレマシオンは取っ手を掴み、一気に開ける。



「お待ちしておりました」



 その部屋に王妃の姿はなく、中央には一人の女性の使用人が立っていた。

 見た目は眼鏡をかけた普通の使用人だ。

 服は彼らと同じ女性用のものを着ている。

 髪も短く整髪されていて、清潔感を感じる。

 ただ一つ違和感を感じるものは、腰に付けている二本のククリ刀・・・・だ。


「……何者じゃ?」


 クレマシオンは相手の行動に注意を払いながら尋ねる。


 使用人は丁寧に頭を下げると、


「シャオム・ネーベル様の世話係を担当しております。『キャッツェ』と申します。ここでご客人をもてなすようにと言われております」


 そう言って彼女は顔を上げる。そしてその顔を見た二人は違和感を覚える。


 彼女の目の色が変わっている。否、瞳の形が変わっているのだ。

 猫の瞳に・・・・


『にゃ~お』


 人間の喉から出たとは思えない、明らかに猫そのもの鳴き声を発すると、腰からは尻尾が、鼻の横から長い髭が、そして頭にはふさふさとした耳が現れる。


 彼女はククリ刀を抜き、四つん這いになる。それが彼女の構えらしい。

 それにクレマシオンとリュゼも構える。


「なんじゃこいつは!」

「人としては異様ですが、格好としてはベストだと思います」

「にゃっ!!」


 キャッツェは跳躍し、クレマシオンの上まで来ると、右手のククリ刀を振り下ろす。その攻撃をかわし、居合で反撃するが、それを左手のククリ刀で受け流されてしまう。


「くっ! すばしっこいのう!」

「どいてください!」


 その声がありクレマシオンはすぐにその場を離れる。そしてそこにリュゼは引き金を引く。


「『必中の雨粒(エアモルデン)』!」


 十の矢が放たれ、彼女に飛んでいく。しかしキャッツェはそれを全て打ち落とし、今度はリュゼに狙いを定める。

 そこにクレマシオンがタイミングを合わせ、切りかかる。今度も防がれてしまうが、空中の不安定な体制受けたため、衝撃を殺せず入り口から廊下に吹っ飛ぶ。


「んにゃん! いったいにゃ~……」


 尻餅をついた彼女は腰を擦る。


 そこに間髪入れず、リュゼは『必中の雨粒(エアモルデン)』を放つ。

 とっさに横に転がって避け、彼女の背後の壁に矢が刺さる。そしてそこにクレマシオンが切りかかる。


「ほいっと!」

 彼女は振り下ろされた一撃を避け、そのままククリ刀を振って反撃する。彼はそれを避けて廊下の反対側の壁まで後退する。そこに彼女は追い撃ちをかけようとするが、そこにリュゼの矢が飛んでくる。彼女は反撃を中断し、矢を打ち落とすと廊下の奥に距離を取る。


「にゃ~。少し厄介だにゃあ」

「かなり口調が変わってますね」

「猫だからにゃ」

「キャラ作りじゃあないのかのう?」

「この状態になったら自然と出てくるっている設定にゃ!」

「あ、言っちゃうんですか」


 と、彼女は何かに気付いたようで急に立ち上がって臭いを嗅ぐ。そして、


「……来たにゃ」

 不敵に笑い、こちらを見て指をさし、


「お前たちの負けにゃ!」


 次の瞬間、隣の王妃のベッドが吹き飛ぶ。



      ・・・



 シャオムは暗く、湿っぽい階段を降り、長い通路を歩いていた。


 松明を途中で手に入れたが、それで特になにが変わるというわけではない。


「……長い」


 これが最大の問題だ。

 普段馬車で移動しているせいで少し歩いただけで息を切らしてしまう。

 それに加えてこの豪奢なドレスだ。動き難さと言ったら。


「……疲れた。着いたら飲み物のいっぱいでも用意してもらわないと気が済まないわ」


 そんなことはないと分かりながらも、そう文句を吐きながら歩く。

 やがて、薄暗く、やはり湿っぽい部屋にたどり着く。しかしそれだけではない。その部屋には何かの臭いが充満していた。


 血と、獣の臭い。


 彼女はそんな部屋を何の抵抗もなく進む。まるで普段から来ているような。


「フフ、あなたたち。元気にしてた?」


 一番奥にやってきた彼女は、そこにある一番大きな檻に向かって話しかける。と、その奥から何かの唸り声が聞こえてくる。


『グルルルルルルルルルル……』


 それは一つではない。複数。否、無数に聞こえてくる。

 それを聞き、彼女はうっとりとした笑みを浮かべる。


「ふふふ。元気そうで安心したわ」


 そして手にしていた鍵を使って、その檻を開ける。


「さあ『私の化け物』たち! 存分に暴れ、食い散らしてきなさい!」



      ・・・



「なんじゃ!」

「何かがベッドの下にあったみたいです……うっ!」

「な、なんじゃこの臭いは!」

「くっさ!」


 そしてその下から何とも言えない悪臭が噴出する。


 獣の臭い。血の臭い。それに腐った肉の臭いを混ぜたような、そんな頭の痛くなるような異臭が溢れてくる。


 が、それだけではなかった。


『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 そんな唸りとも雄叫びとも取れる声を上げて、『何か』が大量に出てきた。


 ゾロゾロと、ぞろぞろと、それは湧き水のように、留まる事を知らないように。


 見た目はそれぞれバラバラ。


 カエルのような肌を持った虎や、ハリネズミのようなアルマジロ。コウモリの翼をもった猪など、異形の怪物たちが次から次へと出てくる。


 そして彼らはクレマシオンとリュゼを見ると、


『グガアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 口を開けて襲い掛かって来る。どうやら食べようとしているようだ。


「ぬお! マジかの!」


 クレマシオンは刀を振り、異形の怪物たちを切っていく。リュゼも矢を放つ。が、数が多すぎる。

 そして気が付くとキャッツェの姿がどこにもない。


「これはやばいかの!」

「一端退きましょう!」


 クレマシオンが退路を開き、リュゼが支援する形でその場を離脱する二人。



      ・・・



「……うそ……」


 クランは呟いた。

 ブリッツの前には全長三メートルほど狼男『クロウ』が立っていた。


『さて。続きと行きましょうか』

「その見た目で敬語とか違和感しかないな」

『そうなんですよ! だから私も嫌だったんですけど、どこかの『猫女』みたいに口調が変わるということがないので。それにあなたが思ったより強いので』

「それは褒め言葉と受け取っていいな?」


 ブリッツは稲妻を纏うと接近して、さっきの左腕に向かって刃を振るう。

 彼は避けようとはしなかった。

 刃は彼の腕に当たる。が、それは骨で止まってしまう。


「チッ、硬てえな」

『でも痛いんですよ。割と』


 彼はその刃の刺さった手で刺している彼の腕を掴むと、床に叩きつけ、放り投げる。

 まるで赤ん坊に遊ばれるおもちゃのように床を転がるブリッツ。


「ぐはッ!!」


 完全に遊ばれている。悔しいが力の差は歴然だ。

 ブリッツは自分の非力にいら立ちを覚える。が、頭から出血し、全身の骨も何本か逝ってしまった。

 かなり苦しい状況だ。


(仕方ない)


 彼は自分にそう言い聞かせると、


「クラン!」


 彼女の名を呼んだ。

 いきなり名前を呼ばれ、驚く彼女だが、


「大きめの風の魔法を適当に使ってくれ!」

「え……分かった!」


 と、回復を一端切り上げ、詠唱を始める。


『させると思ってますか?』


 とクロウは標的をクランに変え、襲い掛かる。長く鋭い爪の付いた手を振り下ろす。それをブリッツは横から蹴り上げて弾くと、彼女の前に立ち、相手をキッと睨む。


「させると思うかよ!」

『でしょうね』


 と彼は階段まで距離を取る。


『なら私も少し、『獣』を暴走させましょう』


 そう言った直後、彼の体がさらに一回り大きくなり、体制を四つん這いにする。そして大口を開け、思い切り空気を吸い込み、腹部を風船のように膨らます。

 それはさながら、発射準備をする大砲の様。


 対してクランは魔杖を思い切り振り被り、


「『巨人の溜息(ヴォルフ・アーテム)』!」

『ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!』 


 魔杖の先からの突風と、クロウが吐き出した突風がぶつかり、その部分だけ血や肉片が除かれ、宙を旋回するように舞う。

 それが時折クロウの上に落ちたり、クランの横の壁にぶつかったりするが、当然ながら気にする者はここに居ない。


「ぐっ! 押される!」


 彼女は顔をしかめる。威力では彼女の方が押し負けている。


『ははははふひはひひへふ(なかなか腕はいいです)! へふはははひほほふはふへはっはほうへふへ(ですが私の方が上だったようですね)!』

「何言ってるか分からないから! ブレスかしゃべるかどっちかにしなさい!!」


 なんて事を言っている間に、クランはどんどん押し負ける。


「もう……だめ……」

「いや、よくやったクラン!」


 そんなブリッツの声が聞こえたかと思うと、彼が上からクロウの背中に降って来る。


 そして刃を構え、天井を蹴った勢い・・・・・・・・に、落ちる速度と風の勢い・・・・・・・・・・を加えて、思い切り背中に突き立てた。

 具体的には脊髄に。


 ズブリと深々と突き刺さった刃。

 それを見たブリッツは満足気だ。


「やっと届いたぜ!」

『っぁ――――』


 そんな変な呼吸音を残し、狼男『クロウ』は痙攣して動かなくなる。

 背中から刃を抜くと、彼の体はまたビクンと痙攣する。


「おわ! まだ生きてんのか?」

「脊髄反射よ。それよりもいつからあそこに居たの? ていうかこれ作戦だったの?」


 彼女は治癒魔法をかけながら彼のところに行く。ブリッツはナックルダスターをしまう。



「あれは舞い上がる死体を見て思いついたんだ。あの力も利用したら確実に仕留められるなって」

「あっそ。じゃあ私に魔法を使わせたのは?」

「なんとなく。状況を変える何かが欲しかったからな。それにお前は風の魔法が得意だったし、こっちで指定した方が俺的には動きやすいからな」

「何その行き当たりばったり!」

「ああ? 勝てたしいいだろうが!」

「結果論じゃない! もし私が押し負けて吹っ飛んでたらどうするつもりだったのよ! それに風だって、乗って柱とかにぶつかってたらどうするつもりだったのよ! こんなの賭けにもならないわよ!」

「るっせえな! 終わったことグチグチ言ってんじゃねえよ! 殺した! 勝った! それで終わりだ! 文句言うな!」

「言うわよ! それであんたが死んでたらどうするのよ!」



 その言葉にブリッツは顔を「はあ?」と、まるで訳が分からないといった顔をする。


「生きてんだからいいじゃねえかよ!」


 その返答を聞いた彼女は顔を怒りで真っ赤にして、


「もう知らない!」


 フンッとそっぽを向く。


 それにブリッツも「ああそう!」とそっぽを向く。

 と、


「「ッ!!」」


 エントランスに異臭が漂ってくる。

 吐き気を催しそうな強烈で不愉快な臭い。


「何……これ?」


 クランがそう言った瞬間、何かが二階にから襲い掛かって来る。


 それは象の皮膚を持った犬だった。


 ダブダブの皮を持った犬は階段の上からブリッツに襲い掛かる。

 しかし彼はその首を持つと、思いっきり床に投げつける。しかし皮のおかげでダメージはあまり通っていないようだ。すぐに起き上がると、入り口の方に距離を取る。


「何だあいつは?」

「ブリッツ……」


 そう言って彼女はブリッツと背中を合わせ、魔杖を構える。彼女の視線を追ってみると、階段の上に異形の動物たちがずらりと並んでいた。


 階段の上だけではない。上の一面にぎっしり、溢れんばかりの大小様々な動物たちが並んでいる。中には昆虫の形をしたものもいる。


「何だこいつら……」

「気持ち悪」


 ブリッツはナックルダスターを構える。


「まあいい……全員ぶっ殺してやるッ!」


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