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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第四章 『十字に仇なす怪物たち』後編
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開幕!

開幕!

 暗闇。

 夜ノ帳が舞い降りた頃。



「そろそろ来る頃だろう」



 誰かがそう呟いた。



「いつ起こるか分からない。気を引き締めて行こう」



 誰かがそう意気込んだ。


 そして壁の内のどこかで、誰かが、



「さあ。始めようか」



 そう、呟いた。



 開戦









      ・・・



 城の入り口を守っている兵士は二人。

 右が大きな欠伸をする。


「夜の見守りは体にこたえる……」

「まあ今日で交代だ。明日からゆっくりできるさ」

「そうだな。明日は嫁と家族でゆっくり過ごすか」

「チッ、いいよなお前は」

「あれ? 前のあの可愛い子と何かあったのか?」

「……別れた」

「マジか!」

「明日からまた婚活か……。嫌になる……ん?」


 何て事を話していると、城下の方から何かが来るのが見えた。

 目を凝らすと、どうもそれは人影のようなものが見える。


「なあ? あれ、なんだ?」

「ん〜……人、か? よく見えないな」

「しかもあんなにたくさん、こんな時間になんだ?」


 そう、人影は一つではなかった。


 そしてそれは異様な形をしていように見えた。

 か細い部分もあり、太い部分もある。


 そしてそれは歩き方が少しおかしい。ゆらゆらと左右に揺れているように見える。まるで朦朧とする意識で、やっと立っているかのような。


 そしてそれは、暗闇からどんどんと姿を現す。


 それが暗闇の中でも認識できるほどに近づいてきたところで、ようやく兵士たちはそれの正体を知ることができた。



 それは、無数の『死体』だった。




「「ッーーーーーー!!」」


 見た瞬間、二人の顔面は蒼白そうはくとなり、声を失った。


 死体が迫って来ると同時に、酷い悪臭が濃くなる。


 人肉が腐った臭い。

 死臭。


 彼らは暗闇から続々と姿を現す。

 その数は十、二十、三十と増え、全部で百ほどとなる。


 この状況に、左の兵士は恐怖に飲まれ、硬直してしまう。

 一方、右に居た兵士は恐怖に震える手で、自分の持っていた剣を構える。

 同時に混乱する頭で、必死にこの状況を説明する言葉を探していた。

 今、自分たちが置かれているこの状況は何なのか。

 脳内で吹き荒れる恐怖と混乱の嵐を鎮めるには、何か自身が納得できる言葉が必要だった。


「て、……」


 数瞬の後、兵士は叫んだ。


「敵襲だああああああああああああああああああああああッ‼」


 そしてその死体の群れ中から一人の魔族の少年・・・・・が飛び出てくる。


 彼の手からは30センチほどの刃が伸びている。否、正しくは、刃は彼が装備しているナックルダスターから出ており、形状としては『ジャマダハル』に近いものである。


 ブリッツはそれを構え、にやりと狂気の笑みを浮かべる。


「死体だけじゃあ心もとないからな。派手に暴れるぜ!」

 



      ・・・



「仕掛けてきたか」


 シャオムは目の前の兵から状況を聞いた。

 戦闘は入り口のところで継続しているようだ。


 しかし彼女は自室の化粧台に腰掛け、不敵に笑う。


「おそらくそれは本体ではなく陽動だ。入り口は兵士の数を維持、質は城内に維持をしなさい」


 敵に城内に侵入されたにも関わらず、彼女は落ち着いていた。


「それと、私は『アレ』を使う。この後の判断はあなたに任せる」


 否、彼女はどこか興奮しているように見える。


 兵士が返事をして部屋を去ると、彼女は立ち上がり、ドアを開けていつもの使用人を呼ぶ。使用人の彼女はシャオムに支持されたようにベッドを退かす・・・・・・・と、その下に蓋が現れる。それを取り除くと下に石の階段が現れる。


 その階段をシャオムは一人で下りていく。最後に、彼女を見送る使用人に一言声をかける。


「後は、あなたも自由にしてくれていいわ。それでは」


 使用人は「かしこまりました」と返事をして頭を下げると、蓋を閉じ、ベッドをもとに戻すと、部屋を出る。



      ・・・



「な、何だあれ!」

「死体が……動いてる……」

「魔法によるものだと思うわ。それよりひどい臭い。鼻が曲がるとか、そういうレベルじゃないわ」


 レオン、カリオス、アニスの三人は城に近い通りに陰に居て、様子をうかがっていた。


 カリオスとレオンがその状況に驚愕する中、アニスは鼻をつまんで唸っている。どうやら魔法だとわかっているので、さほど恐怖はないらしい。

 そんな彼女の様子を見て、カリオスは「アニスと一緒にお化け屋敷は入れなさそうだ」と思う。


 大半の兵士が入り口に集められ、戦闘をしている。普段は城壁などに居る外の見張りも、今はそこに借り出されている。


 一行は、素早く城に近づき、ロープを城壁に投げるとそれを上り、城内に潜入する。


「とりあえず侵入は成功だな」

「入り口のはどう考えても陽動だよね?」

「ええ。でもそれに気付いても、あの様子じゃ兵士を集めざるを得ないわね」


 入口の方からは、兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。相当苦戦しているようだ。しかし、それに構っている時間はない。

 彼らに少し同情するが、三人はそれに背を向け、


「一刻も早く王様を探しましょ!」


 城の中へと入っていく。 


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