開幕!
開幕!
暗闇。
夜ノ帳が舞い降りた頃。
「そろそろ来る頃だろう」
誰かがそう呟いた。
「いつ起こるか分からない。気を引き締めて行こう」
誰かがそう意気込んだ。
そして壁の内のどこかで、誰かが、
「さあ。始めようか」
そう、呟いた。
開戦
・・・
城の入り口を守っている兵士は二人。
右が大きな欠伸をする。
「夜の見守りは体にこたえる……」
「まあ今日で交代だ。明日からゆっくりできるさ」
「そうだな。明日は嫁と家族でゆっくり過ごすか」
「チッ、いいよなお前は」
「あれ? 前のあの可愛い子と何かあったのか?」
「……別れた」
「マジか!」
「明日からまた婚活か……。嫌になる……ん?」
何て事を話していると、城下の方から何かが来るのが見えた。
目を凝らすと、どうもそれは人影のようなものが見える。
「なあ? あれ、なんだ?」
「ん〜……人、か? よく見えないな」
「しかもあんなにたくさん、こんな時間になんだ?」
そう、人影は一つではなかった。
そしてそれは異様な形をしていように見えた。
か細い部分もあり、太い部分もある。
そしてそれは歩き方が少しおかしい。ゆらゆらと左右に揺れているように見える。まるで朦朧とする意識で、やっと立っているかのような。
そしてそれは、暗闇からどんどんと姿を現す。
それが暗闇の中でも認識できるほどに近づいてきたところで、ようやく兵士たちはそれの正体を知ることができた。
それは、無数の『死体』だった。
「「ッーーーーーー!!」」
見た瞬間、二人の顔面は蒼白となり、声を失った。
死体が迫って来ると同時に、酷い悪臭が濃くなる。
人肉が腐った臭い。
死臭。
彼らは暗闇から続々と姿を現す。
その数は十、二十、三十と増え、全部で百ほどとなる。
この状況に、左の兵士は恐怖に飲まれ、硬直してしまう。
一方、右に居た兵士は恐怖に震える手で、自分の持っていた剣を構える。
同時に混乱する頭で、必死にこの状況を説明する言葉を探していた。
今、自分たちが置かれているこの状況は何なのか。
脳内で吹き荒れる恐怖と混乱の嵐を鎮めるには、何か自身が納得できる言葉が必要だった。
「て、……」
数瞬の後、兵士は叫んだ。
「敵襲だああああああああああああああああああああああッ‼」
そしてその死体の群れ中から一人の魔族の少年が飛び出てくる。
彼の手からは30センチほどの刃が伸びている。否、正しくは、刃は彼が装備しているナックルダスターから出ており、形状としては『ジャマダハル』に近いものである。
ブリッツはそれを構え、にやりと狂気の笑みを浮かべる。
「死体だけじゃあ心もとないからな。派手に暴れるぜ!」
・・・
「仕掛けてきたか」
シャオムは目の前の兵から状況を聞いた。
戦闘は入り口のところで継続しているようだ。
しかし彼女は自室の化粧台に腰掛け、不敵に笑う。
「おそらくそれは本体ではなく陽動だ。入り口は兵士の数を維持、質は城内に維持をしなさい」
敵に城内に侵入されたにも関わらず、彼女は落ち着いていた。
「それと、私は『アレ』を使う。この後の判断はあなたに任せる」
否、彼女はどこか興奮しているように見える。
兵士が返事をして部屋を去ると、彼女は立ち上がり、ドアを開けていつもの使用人を呼ぶ。使用人の彼女はシャオムに支持されたようにベッドを退かすと、その下に蓋が現れる。それを取り除くと下に石の階段が現れる。
その階段をシャオムは一人で下りていく。最後に、彼女を見送る使用人に一言声をかける。
「後は、あなたも自由にしてくれていいわ。それでは」
使用人は「かしこまりました」と返事をして頭を下げると、蓋を閉じ、ベッドをもとに戻すと、部屋を出る。
・・・
「な、何だあれ!」
「死体が……動いてる……」
「魔法によるものだと思うわ。それよりひどい臭い。鼻が曲がるとか、そういうレベルじゃないわ」
レオン、カリオス、アニスの三人は城に近い通りに陰に居て、様子をうかがっていた。
カリオスとレオンがその状況に驚愕する中、アニスは鼻をつまんで唸っている。どうやら魔法だとわかっているので、さほど恐怖はないらしい。
そんな彼女の様子を見て、カリオスは「アニスと一緒にお化け屋敷は入れなさそうだ」と思う。
大半の兵士が入り口に集められ、戦闘をしている。普段は城壁などに居る外の見張りも、今はそこに借り出されている。
一行は、素早く城に近づき、ロープを城壁に投げるとそれを上り、城内に潜入する。
「とりあえず侵入は成功だな」
「入り口のはどう考えても陽動だよね?」
「ええ。でもそれに気付いても、あの様子じゃ兵士を集めざるを得ないわね」
入口の方からは、兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。相当苦戦しているようだ。しかし、それに構っている時間はない。
彼らに少し同情するが、三人はそれに背を向け、
「一刻も早く王様を探しましょ!」
城の中へと入っていく。