道にて
「飽きてきた~」
アニスは森の中で手足を投げ出して横になる。その手には一つの缶詰が握られている。
たき火を囲む一行は、ツュンデンを旅立ってから今日で三日が経過していた。
「これに飽きてきたわ」
「なら他の味にする?」
カリオスがそう聞くと、彼女は首を振って、手に持っていた缶を見る。
「缶詰に飽きたのよ~。温かいご飯が恋しいわ」
「違う味があるだけマシだと思え」
レオンはそういうと、自分の持っていた魚の缶詰を見せる。
「なら干し肉にする?」
「それも飽きてきたわ」
この三日間、三食缶詰と干し肉。
「ガキかよ」
「食屍鬼よ! 何か問題?」
「いやそれは大問題だろ!」
「え? どういう意味?」
今のアニスとレオンの会話を聞いていたカリオスが、レオンに訊く。
それにレオンは「え?」と、予期してなかった質問に少し驚く。
「いや、だからあれだろ? ガキを妖怪の『餓鬼』って捉えて、『そうじゃなくて食屍鬼よ!』ってボケをして……って、俺はなんの説明をさせられてんだ!?」
「レオン、ごめん。僕には何を言っているかわからない……」
「おい待て! なんで俺が事故ったみたいになってんだ!?」
それにアニスも気だるげに「レオン面白くなーい」便乗し、彼は「お前らいい加減にしろよ」と青筋を浮かべた。
何て会話をして食事を終え、彼らはこれからの話をする。
「アニス。ネーベルまでもう少しなの?」
カリオスが聞くとアニスは一欠伸して答える。
「ええ。明日には着くはずよ」
「緊張感ゼロだね」
「何かすることでもあるの?」
「一応町のこともあるし」
「カリオスの言うとおりだ」
レオンはそう言うと真剣な面持ちで話し始める。
「まずネーベルに入ったら研究施設の話を宿の部屋以外では一切すんなよ」
「大丈夫よ。それくらいなら分かってるわ」
「秘密にしてることを知ってたらすぐに口封じが来るからだね」
「そうだ。『魔女』についての情報ならいくらでも集めていいと思う。んで、一応敵にも警戒しておけ」
「どっちの? 魔族かネーベルか? というかネーベルの方に僕らを襲う動機があるの?」
「どっちもだ」
「何で?」
そうアニスとカリオスは頭にクエスチョンマークを浮かべる。レオンはため息を吐くと、たき火の薪用の木の棒を持ち、地面に図を書きながら説明する。
「いいか。俺たちはまず魔族たちの顔を見ている。その時点で隠密行動をしている魔族側から狙われる可能性がある」
と、レオンは『マ』と書いた方から『ア』と書いた方に矢印を伸ばす。
それにアニスが疑問を持つ。
「でもそれならあの場で私たちを殺してない?」
「ああ。だがあの時の理由を覚えてるか?」
「え~っと……敵のブリッツってやつが暴走するから?」
「そうだ。あの場であの状況だから殺されなかったって可能性もなくはない。だから一応警戒はしておこうってレベルだ」
次にネーベル、と言ってレオンは『ネ』と書く。それに今度はカリオスが突っ込む。
「ネーベルに動機はあるの?」
「こいつらは向こうで情報に触れない限り動かないだろう。だが一応俺たちはローダンに接触して、あの場にも居た。まあ向こう的には様子見ってところだろうな」
とレオンは矢印を伸ばす。
そこで
「ならこの間には何かないのかしら?」
と、アニスが『マ』と『ネ』の間を指さす。
「それって研究が関係してるんじゃない?」
それにはカリオスが反応する。その顔は少し辛そうだ。
それで全員、『魔族が使われている』ということを思い出す。
その場の空気が少し重たくなる。
「……その可能性は高い。だがカリオスが見た少年というのは人間だったんだろ?」
「うん」
「ならローダンを殺したがってたのはその少年ということになるわね。じゃあその少年は魔族側にいるってこと?」
「そういうことになるな。まあ自発的か利用されてるかは別だが」
ん~、と全員は図を囲んで唸る。思考を巡らせ、考えるが、
「んんー‼ ……限界……」
と言う一言の後に、アニスは頭から煙を出して倒れてしまう。それを見てカリオスが慌てて抱き起し、
「衛生兵‼ 衛生兵‼」
「やめろうるさい。とりあえず横にしとけ」
はぁ、とレオンは大きなため息を吐き、ゴロンとその場に横になる。
「もう寝よう。後のことは行ってからの成り行き次第だ」
「スピー」
「アニスはもう寝たみたいだよ」
「……」
・・・
「火蓋は我らが切り落とした。向こうも馬鹿ではない。そのくらいは気付いているだろう」
「ここからは時間との勝負、だな」
「今回は好きに暴れてもいいんだよな?」
「ああ。いくらでも許してやるよブリッツ」
「でもちゃんと作戦通りには動いてよね」
「うるせえな。分かってるよ」
「ホントかしら」
「ハハハ。二人は仲良しですね」
「おいおい『リュゼ』。あんまり茶化すと痛い目見るぞ」
「すいません『トレラント』さん。でも面白くって」
「リュゼはいたずら好きじゃからのう。ほどほどにせえよ。まあ、面白いのには同意じゃが」
「おい聞こえてるぞ『クレマシオン』のおっさん!」
「そうよ黙ってれば言いたい放題言っちゃって!」
「なんじゃ! わしだけ集中砲火か!」
「おいおいその辺にしとけよ」
「レーエンの言うとおりだ。緊張感を持て緊張感を!」
「チッ、ガチムチの真面目『トレラント』が」
「聞こえているぞブリッツ。お仕置きだ」
「がああああああいででででででで‼ 決まってる! ガチムチヘッドロック決まってる! 熱苦しいいいいい!」
「まだ言うか!」
「アハハ、こっちも仲が良さそうですね」
「見てるこっちがむさくなってくるのう」
「そのくらいにしとけトレラント。そろそろ休憩終わりだ」
「あいよ。何か言ったらサルトだ」
「頭の形が変わるかと思ったぜ。おいクラン。俺の頭凹んでねえか?」
「頭の悪そうな形してる」
「てめえも覚えとけよ」
「ハハハ。それだけ元気があれば大丈夫だ。それじゃあ諸君。もうすぐ目的地のネーベルだ。派手に暴れようじゃないか」




