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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第四章 『十字に仇なす怪物たち』後編
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道にて

「飽きてきた~」


 アニスは森の中で手足を投げ出して横になる。その手には一つの缶詰が握られている。


 たき火を囲む一行は、ツュンデンを旅立ってから今日で三日が経過していた。


「これに飽きてきたわ」

「なら他の味にする?」


 カリオスがそう聞くと、彼女は首を振って、手に持っていた缶を見る。


「缶詰に飽きたのよ~。温かいご飯が恋しいわ」

「違う味があるだけマシだと思え」


 レオンはそういうと、自分の持っていた魚の缶詰を見せる。


「なら干し肉にする?」

「それも飽きてきたわ」


 この三日間、三食缶詰と干し肉。


「ガキかよ」

「食屍鬼よ! 何か問題?」

「いやそれは大問題だろ!」

「え? どういう意味?」


 今のアニスとレオンの会話を聞いていたカリオスが、レオンに訊く。

 それにレオンは「え?」と、予期してなかった質問に少し驚く。


「いや、だからあれだろ? ガキを妖怪の『餓鬼』って捉えて、『そうじゃなくて食屍鬼よ!』ってボケをして……って、俺はなんの説明をさせられてんだ!?」

「レオン、ごめん。僕には何を言っているかわからない……」

「おい待て! なんで俺が事故スベったみたいになってんだ!?」


 それにアニスも気だるげに「レオン面白くなーい」便乗し、彼は「お前らいい加減にしろよ」と青筋を浮かべた。


 何て会話をして食事を終え、彼らはこれからの話をする。


「アニス。ネーベルまでもう少しなの?」


 カリオスが聞くとアニスは一欠伸して答える。


「ええ。明日には着くはずよ」

「緊張感ゼロだね」

「何かすることでもあるの?」

「一応町のこともあるし」

「カリオスの言うとおりだ」


 レオンはそう言うと真剣な面持ちで話し始める。


「まずネーベルに入ったら研究施設の話を宿の部屋以外では一切すんなよ」

「大丈夫よ。それくらいなら分かってるわ」

「秘密にしてることを知ってたらすぐに口封じが来るからだね」

「そうだ。『魔女』についての情報ならいくらでも集めていいと思う。んで、一応敵にも警戒しておけ」

「どっちの? 魔族かネーベルか? というかネーベルの方に僕らを襲う動機があるの?」

「どっちもだ」

「何で?」


 そうアニスとカリオスは頭にクエスチョンマークを浮かべる。レオンはため息を吐くと、たき火の薪用の木の棒を持ち、地面に図を書きながら説明する。


「いいか。俺たちはまず魔族たちの顔を見ている。その時点で隠密行動をしている魔族側から狙われる可能性がある」


 と、レオンは『マ』と書いた方から『ア』と書いた方に矢印を伸ばす。

 それにアニスが疑問を持つ。


「でもそれならあの場で私たちを殺してない?」

「ああ。だがあの時の理由を覚えてるか?」

「え~っと……敵のブリッツってやつが暴走するから?」

「そうだ。あの場であの状況だから殺されなかったって可能性もなくはない。だから一応警戒はしておこうってレベルだ」


 次にネーベル、と言ってレオンは『ネ』と書く。それに今度はカリオスが突っ込む。


「ネーベルに動機はあるの?」

「こいつらは向こうで情報に触れない限り動かないだろう。だが一応俺たちはローダンに接触して、あの場にも居た。まあ向こう的には様子見ってところだろうな」


 とレオンは矢印を伸ばす。

 そこで


「ならこの間には何かないのかしら?」


 と、アニスが『マ』と『ネ』の間を指さす。


「それって研究が関係してるんじゃない?」


 それにはカリオスが反応する。その顔は少し辛そうだ。

 それで全員、『魔族が使われている』ということを思い出す。

 その場の空気が少し重たくなる。


「……その可能性は高い。だがカリオスが見た少年というのは人間だったんだろ?」

「うん」

「ならローダンを殺したがってたのはその少年ということになるわね。じゃあその少年は魔族側にいるってこと?」

「そういうことになるな。まあ自発的か利用されてるかは別だが」


 ん~、と全員は図を囲んで唸る。思考を巡らせ、考えるが、


「んんー‼ ……限界……」


 と言う一言の後に、アニスは頭から煙を出して倒れてしまう。それを見てカリオスが慌てて抱き起し、


「衛生兵‼ 衛生兵‼」

「やめろうるさい。とりあえず横にしとけ」


 はぁ、とレオンは大きなため息を吐き、ゴロンとその場に横になる。


「もう寝よう。後のことは行ってからの成り行き次第だ」

「スピー」

「アニスはもう寝たみたいだよ」

「……」



      ・・・



「火蓋は我らが切り落とした。向こうも馬鹿ではない。そのくらいは気付いているだろう」

「ここからは時間との勝負、だな」

「今回は好きに暴れてもいいんだよな?」

「ああ。いくらでも許してやるよブリッツ」

「でもちゃんと作戦通りには動いてよね」

「うるせえな。分かってるよ」

「ホントかしら」

「ハハハ。二人は仲良しですね」

「おいおい『リュゼ』。あんまり茶化すと痛い目見るぞ」

「すいません『トレラント』さん。でも面白くって」

「リュゼはいたずら好きじゃからのう。ほどほどにせえよ。まあ、面白いのには同意じゃが」

「おい聞こえてるぞ『クレマシオン』のおっさん!」

「そうよ黙ってれば言いたい放題言っちゃって!」

「なんじゃ! わしだけ集中砲火か!」

「おいおいその辺にしとけよ」

「レーエンの言うとおりだ。緊張感を持て緊張感を!」

「チッ、ガチムチの真面目『トレラント』が」

「聞こえているぞブリッツ。お仕置きだ」

「がああああああいででででででで‼ 決まってる! ガチムチヘッドロック決まってる! 熱苦しいいいいい!」

「まだ言うか!」

「アハハ、こっちも仲が良さそうですね」

「見てるこっちがむさくなってくるのう」

「そのくらいにしとけトレラント。そろそろ休憩終わりだ」

「あいよ。何か言ったらサルトだ」

「頭の形が変わるかと思ったぜ。おいクラン。俺の頭凹んでねえか?」

「頭の悪そうな形してる」

「てめえも覚えとけよ」

「ハハハ。それだけ元気があれば大丈夫だ。それじゃあ諸君。もうすぐ目的地のネーベルだ。派手に暴れようじゃないか」


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