襲撃! -2
時間は少し遡り、アニスとレオンの場面。
戦闘の幕は切られた。
「『疾風の雷光』! 速攻だあ!」
ブリッツの全身が光ったかと思うと、彼はレオンの目の前まで距離を詰めていた。
その血走った目がレオンを捉える。
「ッ!」
レオンはとっさに短剣を抜こうとするが、間に合わない。
ブリッツは腕を弓のように引き、突き出そうする。
「ブリッツ! 殺しはなしって覚えてる?」
「あ、忘れてって! ぶぼゴバらベブラッ‼」
突然クランに声を掛けられ、そのままレオンの横を通り過ぎて地面を派手に転がるブリッツ。
レオンの後ろに構えていたアニスはそれを女の子飛びでかわす。
「きゃッ!」
ごふッ、とその少し後ろで止まるブリッツ。そして埋まっていた顔を出すと、
「てめえ先に確認しろ! 危うく死にかけたじゃねえか! 角大丈夫だよな?」
「大丈夫。あなたの頭はもう折れまくってるから」
「『疾風の雷光』!」
彼は恐ろしい初速で透かした顔をしたクランに近づくと、
「くらえ!」
脛を蹴った。
彼女は「う……」と漏らすと、その場に蹲ってしまう。
「いっっっっっっったあああああああああい‼」
「お前の脛は今終わったな(笑)」
「終わったな(笑)じゃないわよ! 折れてたらどうするのよ‼」
まったく、と彼女は『小癒の魔法』を唱えて脛を直す。その横でブリッツは不満そうな顔をして、
「ったく。何で殺したらダメなんだよ。生殺しだぜ」
「殺人快楽者が。血の付いた状態で町の中徘徊して見なさいよ。『変化の魔法』でも匂いは消せないのよ? それにあなたは過剰に殺して、返り血が滴ったりするじゃない。それに夢中になって時間忘れたりするじゃない。だからレーエンは『ブリッツが行くなら殺しはなし』って言ったのよ」
「ぐう……一人くらいいいじゃんか!」
「ダメって言われてるからダメ!」
「この生真面目が! だからお前とは嫌だって言ったんだ!」
「後から変えてくれって言ったのはあなたでしょ? 今更文句とか本当にありえないわ!」
などと言っているうちに治癒が完了する。
彼女は足を少し動かして状態を確認する。どうやら動かす分には問題ないようだ。
「まったく。余計な魔力と時間を使っちゃったじゃない」
「ああ? その分成果を上げればいいだけだろ? とっとと殺っちまおうぜ」
「誰のせいで……それと殺さないって言ってるでしょ?」
「ヘイヘイヘイ。わっかりましたよー」
と二人が敵を認識しようと前を見ると、
「おっと。マズいかも」
「あなたのせいよ……」
アニスは魔杖を構えて詠唱を行っている。
その呪文の断片を聞いた二人は危機感を感じる。が、取り乱すことはない。
詠唱に集中している無防備な彼女に、ブリッツは再び『疾風の雷光』を発動し、妨害を試みる。が、そこに横槍が入る。
レオンは突き出そうとしている右手に向かって短剣を突き出す。
「お、マジか」
ブリッツは自分の速度に対応したことに少し驚く。見ると彼の瞳が薄らと光を帯びているのが分かる。
『凝視の魔法』。視力を飛躍的にあげる魔法だ。
「くらえ!」
彼の放った一撃は見事、その腕に突き刺さる。
しかし、ブリッツはそのままにやついた表情を崩さず、否、更に笑みを深め、
「いいねえ!」
短剣が刺さったままその手を引いてその手首を掴み、
「んな!」
「でも狙うなら急所でしょ!」
左手でレオンの顔面を殴りつける。彼は短剣から手を離し、地面に仰向けに倒れ、気絶する。
「あ、魔法使うの忘れてた。まあ結果オーライか」
「ブリッツ。そのまま『彼』の様子を見てきて」
「は? これは?」
「私で何とかするから。てか詠唱に集中したいから早く行って!」
と言うと彼女は詠唱に集中し始める。
ブリッツはため息を吐いて短剣を引き抜くと、それで自分の服を破って止血すると、「じゃあな」とアニスに別れを言って、悠々と家の食堂のところに向かう。
詠唱を終えたアニスは魔杖をクランに向ける。
ーーーこれは賭けだ。
今から唱える魔法は上位の魔法。一応呪文は知っているが、どうなるか分からない。
しかし、そんな付け焼刃でも、今はやらなければならない。そう感じていた。
そして、
危機感と、不安と、勇気をもって、
彼女は魔法を叫ぶ。
「『轟華業炎』!」
次の瞬間、彼女の杖の先に大きな炎の塊が生まれる。
そしてそれは膨れ上がると、
「『爆ぜ散れ』!」
ドォン! と腹の奥に響くような音を出して火球弾けて、
弾けて……
杖の先端から色とりどりの火花が放出される。
白、赤、緑と色が変わる。
「わーキレイ♫ ……じゃなくて! あ、あれ! 失敗した! も、もう一回よ! もう一回!」
彼女は花火を振り回して悔しがる。
「花火を上に向けるのは説明書にもやめましょうって書いてあるでしょ?」
「え、アチッ!」
「それにもう一回やったらクラッカーが出てきそうね」
「なんですって! って……あ……」
それ言った直後、アニスの耳を金属音のような甲高い音がつんざき、気を失ってしまう。
クランはやれやれと魔杖をしまう。
と、そこに『彼』を担いだブリッツが歩いてきて、彼女はそれを見て額を押える。
「何その持ち方。折れたらどうするの?」
「あ? ああこれか。ならこれでいいだろ」
と彼はナイフを片すと少年の胴を担ぐ形にする。
「まあ、それなら問題ないと思うけど」
「細けえんだよ。暴れねえんならとっとと帰ろうぜ」
「はいはいはい」
そう言って二人は正門から堂々と闇夜に消えていった。