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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第三章 『十字に仇なす怪物たち』前編
31/122

ローダン邸にて -2

「---というのが彼の出会いらしい。これは初めて書いた童話のまえがきに載ってました」


 時折クッキーと紅茶を挟み、彼は楽しそうに話した。


「私が知っているのはこのくらいですよ」

「なるほど。その村には魔女の伝説がもとからあったんですね」

「伝説といっても噂程度には信憑性があったようねすね」


 と、彼は外を見て、「ふむ」と呟くと、


「日が暮れてきましたね。どうです? 差し支えなければ夕食をご馳走したいのですが?」


 それにアニスらも窓の外に目を移し、


「そうですね。実はもう一人仲間がいて、宿に戻っていると思うのですが」

「かまいませんよ。人数は多い方がいい。私はあなたが気に入った。是非夕食にご招待したいのですが」

「ありがとうございます。では一度宿に戻りますので」


 アニスとカリオスは席を立つと、それに合わせてローダンも立ち上がり、エントランスまで見送ってくれた。


 門を出てしばらくすると、アニスはガクッと肩を垂らし、


「あー……なんか、疲れたわ」

「お疲れ様。でどうするの?」

「おいしいご飯がもらえるなら行きたいんだけど」

「レオンは何て言うかな」



 と話しながら宿に戻り、部屋に入ると、



「「あ……」」

「ZZZ……」


 レオンはベッドの上で眠っていた。

 部屋がなんとなく酒臭い。おそらく酔って寝てしまったのだろう。


「どうする?」


 カリオスとアニスは小声で会話する。


「別にいいんじゃないかしら。昨日枕投げたし」

「でもパンくれたよ?」

「でも枕投げてきたわよ?」

「ね、根に持つんだね……でも缶詰も買ってきてくれたし。僕は可哀想だと思うけど」

「ううう……でも起こすのも悪いと思わない? レオンも疲れてるだろうし」

「それは一理あるね。……書置きは?」

「ナイスアイデアね! それで行きましょ」


 というわけで二人は書置きをして、部屋を出た。


 もう一度ローダンの館に戻るころには日は暮れていた。


 エントランスに入ると、


『お待ちしておりました。ご客人様!』


 使用人たちが出迎えてくれた。そしてその中から一人(女)が歩み出ると、食堂へ案内してくれる。

 食堂があるのは一階の右端。窓一つ分の廊下を過ぎたところである。

 使用人は扉をノックすると、


「お客様がお見えになりました」

「通してくれ」


 失礼します、と扉を開けながら()け、中に通す。

 アニスらが入ると、長テーブルの一番奥にローダンが座っていた。


「ようこそ。待っていましたよ」

「お待たせして申し訳ありません。もう一人は先に休んでしまったようで、起こすのも忍びなかったので書置きを残してきました」

「分かりました。それでは門番に伝えておきましょう」

「あ、使用人たちの出迎えは不要です。来るかも分からないので」

「それはありがたい。その方が彼らの負担も減って助かります」


 と、彼は扉のそばで待機していた使用人(女)に目配せする。彼女はそれで察したようで、静かに部屋を出ていく。

 それと入れ替わるように、料理が運ばれてくる。

 机の上に並べられる料理はどれもきれいに盛り付けがしてあり、馴染みのないカリオスは置かれる度に目で追ってしまう。


 それを見ていたローダンは頬を綻ばせ、


「そういう反応してくれるとは、作った本人たちも喜ぶよ」

「あ、ごめんなさい……」

「いやいや、嫌味を言ったわけではないよ。新鮮な反応だったから嬉しくてね」

「コラ! 卑しいよ!」

「ごめんなさい」


 アニスはそう言ってカリオスの頭を軽く叩く。演技はバッチリだ。

 ローダンはそれを見て、少し困ったように笑う。

 と、料理が全て運ばれたところで、食事をとることにする。


 となると例の如くお酒も入るわけで、


「あ……目の前がぐりゅんぐりゅんしてぇ~」

「だから止めたのに……」


 真っ赤な顔をしてヘラヘラ笑うアニスを見て、カリオスはため息を吐く。

 そんな彼女の姿にローダンもやや苦笑気味になる。


「お酒に弱かったんですね」

「弱いのに飲みたがるんです」

「ハハハ、やはり面白い方ですね」


 そこにトントンとノックの音が響く。


「失礼します。アイリス様、カリオス様にご客人が見えております。レオン様でよろしいでしょうか?」





 時間は少しさかのぼって、カリオスたちが丁度ローダンと食事を始めたころ。


「ったく、何考えてんだ!」


 そう吐き捨て、レオンは夜道を急ぎ足で歩いていた。

 その手にはくしゃくしゃにした書置きがあった。


 表情からはかなりの焦りがうかがえる。


「まあ寝てた俺も悪いけどなあ!」


 思わず頭を抱えてため息を吐く。

 自分でも反省している。


 しばらくすると門が見えてくる。

 レオンは苛立ちを鎮め、怪しまれないようにする。

 前まで来ると、門番が立ち塞がる。


「申し訳ないが、どちら様でしょうか?」


 二人いる屈強な男のうち右側にいた方が声を掛けてくる。

 レオンはそれに笑顔を作って答える。


「アイリスとカリオスに呼ばれてきたのですが」

「失礼ですが、お名前は?」

「レオンです」

「少々お待ちください」


 そういうと彼は屋敷の中に歩いていく。

 そして入り口のところで使用人に伝えると、戻って来る。


「確認を取るそうなので、もうしばらくお待ちください」

(手間のかかる)


 時間が惜しいレオンは少しカチンとくるが、


「分かりました。たいへんですね」


 笑顔は絶やさない。


「仕事ですので」


 彼も無表情を絶やさない。これも仕事なのだろう。

 と、そう経たないうちに、玄関の扉が開いて人影が現れる。


「よぉ~お、おっと! やぁあっと来たなレオン君」

「なんで酔ってんだよ!」

「酔っちゃった☆」

「はっ倒すぞお前……」


 アニスはふらふらと玄関から歩いてくる。

 その後ろを使用人(女)が心配そうについてくる。


「あいあいあい、怒んない怒んな~い。置いて行かれて寂しかったんだしょ? 言い訳すんなって~」


 完全にハイってしまっている。これは面倒臭くなる。

 レオンはもうその場でため息を吐いてしまう。


「で、入れてくれないか?」

「え~、どうしよっかなぁ~」

「はあッ!?」


 エヘヘヘヘぇ、と彼女は笑っている。ふざけている。

 仕方なく門番に了承を取って入れてもらうことにする。


「すいません。入れてもらってもいいですか?」

「いえ。ダメです」

「はあッ!? 何でだよ!」

「なんか……ノリ的に」

「無表情無変化トーンでその爆弾を揉み消せると思うなよ! つうか笑うな!」


 さっきの報告にいった門番は口を押えている手を離すと、


「お前良い奴だな!」

「もういやだああああああああッ‼」


 レオンは状況の収拾のつかなさに頭を抱える。それを見て門番は大きな笑い声を上げる。


「ガッハッハッハ! 悪い悪い! 通っていいぞ」

「な、何て門番だ」

「いやいや。お前の素顔を見てみたくてな。あんな気持ち悪い笑顔をしなくてもお前なら十分表に出れるぞ!」

「チッ、全部お見通しかよ。嫌な奴だ」

「褒め言葉と受け取っておくよ」


 そう言って門番たちは道を開ける。

 その先では酔っぱらったアニスが胸を張って、まるでボスのように立っていた。


「ようやく通ってきたか! ずいぶんと遅いとうチャッ! いったぁ~い!」


 レオンはその頭にゲンコツを振り下ろす。


「うるさい。もう黙ってろ」

舌噛んだじゃないひははんはふぁはい! これじゃあ料理のほれひゃあひょうひほ味が分からないわはひはははははいは!」


 と、レオンは彼女を屋敷の方に向かせて、歩き出すと、


「町長は危ねえらしい。早くカリオス連れて離れるぞ」

「ご飯は~?」

「カリオスとどっちが大事だ?」

「ぶ~」


 アニスは頬を膨らませ、渋々従う。

 そして次の瞬間ドンを思いっきりレオンに体当たりすると、地面に押し倒す。


「はあ?」


 訳が分からずそんな間の抜けた声を出してしまう。思わずアニスの方を見ると、



「耳を塞いで!」



 その顔には驚きと恐怖が浮かんでいた。彼女の小声でそう言うと自分も耳を塞ぐ。



 突如、何か強い耳鳴りのような、金属音のようなものが聞こえたかと思うと、門番と使用人が一斉に倒れる。



 そして門から何かが入り、玄関の方にかけていった。


 次の瞬間、屋敷の明かりが一斉に消える。



 敵襲だ。


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