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少年カリオスの冒険の書  作者: 梅雨ゼンセン
第三章 『十字に仇なす怪物たち』前編
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ローダン邸にて

「部屋がたくさんある……」

「立派なお屋敷……」


 アニスとカリオスはローダンの家の前で口を開けていた。

 二階建ての屋敷で一階の左右に窓が三つずつ。計十二の部屋がある。


「ほとんどは使用人のものですよ。私一人では広過ぎますし、何より寂しいですからな」


 ローダンはそういうと門のところへ行き、門番に開けるように伝えると、


「さあさあ、こちらです」


 中に案内される。

 玄関の扉を開くと、赤い絨毯が敷かれたエントランスに入る。

 その瞬間、階段の上や左右の廊下から一斉に足音が聞こえてきて、


『お帰りなさいませ! ローダン様!』


 使用人が整列し、首を垂れる。

 その景色はまさに『圧巻』の一言だった。


「……使用人を雇ったら誰もが一度はしてみたいことですよね」

「おおカリオス君! 分かってくれるかい!」

「はい! 僕も男の子ですから!」


 その場でグッと熱く握手を交わす二人。

 アニスはそれを傍目(はため)に首を傾げる。


(カリオス、図書館では空気みたいだったのにめっちゃイキイキしてる。昨日といい、男の子って分からないわ)


 茶番が終わったところで、二人は彼に案内されて廊下を進み、部屋に通される。


「ここが私の書斎です」


 そこには天井まである本棚が敷き詰められるように並んでいた。そのどれもが満杯で、かなりの読書家だということが分かる。


「私は紙の香りというのが好きでね。リラックスしたいときはこの部屋に来るんですよ」


 そういう彼の声音はうっとりとした様子だ。

 どうも自分の世界に入ってしまっているらしい。


「あの~……」


 アニスは申し訳なさそうに声を掛ける。すると彼も我に戻ったようで、「あああすみません」と慌て気味にドアを閉める。


「いや~どうも。麻薬ですね、この香りは」

「よほどお好きなんですね」


 一行は再び足を進める。


「私はとくに物語に目がなくてですね。読んでいると自分もその中に入っているような気になるのがたまらなく好きで」


 そう語るローダンの顔は少年のように若々しく、活気に溢れている。


「めくる手を止められないんですよ。そうして気が付いたら日が暮れていてねぇ。空腹で倒れてしまった時もあるんですよ。その時は使用人たちも大慌てでね。流石に反省しましたよ」

「そんなことがあったんですか」


 など話していると、今度は別のドアの前に着く。

 中に入るとそこは客間になっていて机の上には淹れたての紅茶とお菓子のクッキーが置いてあった。


 そして部屋で準備を終えた使用人は「ごゆっくり」と一礼し、静かに外に出ていく。


 おかけください、とローダンに言われ、彼と向かい合うように席に着く。


「安物の紅茶で申し訳ない。お菓子は本当にいいものなので」

「いいえ。お構いなく」


 そう言って彼女は紅茶に一口飲む。


「あ、おいしい」

「ありがとうございます」

「料理のおいしさは腕と心と聞いたことがあります。この紅茶は実においしい」

「ハハハッ、使用人たちも喜んでくれるでしょう」


 と、少し場が温まってきたところで、アニスは紅茶を置くと、「では、」と本題に入る。


「急かすようで申し訳ないのですが、図書館でもお話の続きを聞いてもよろしいでしょうか?」

「おっと、そうでした」


 ローダンは紅茶を置くと、


「どこまで話しましたっけ?」

「ツユクサさんという童話作家とインテレッセ・ベルディーテとの関係についてです」

「ああそうでした」


 と、彼は膝に両肘を置き、両手を組むと、話し始める。



      ・・・



 僕はある村にいた。


 何てことはないただの村だ。


 僕は何てことない放浪者だったが、彼らは快く僕を受け入れてくれた。

 作家を生業としているから新しい刺激が欲しかった。とでも思っておこう。


 この村にはある噂があった。


 何でも不老不死の魔女が近くの森に住んでいるらしい。

 僕もその噂を聞いて立ち寄ったのだが、住み心地の良さについ居座ってしまった。

 

 さて、時間は夜。


 月が出てないこんな日は、外で風に当たりながら酒を飲むのが風情だろう。これを村の友人に言ったら、「お前だけだ」と返されたが。

 この夜の雰囲気に身を浸す心地よさ。この妙な昂ぶりには酒があう。



「珍しいね。こんな夜更けに外で酒とは」



 その声が聞こえたのは森の中。

 雲間から月の光が零れると、その姿が露わになる。


 大きな(つば)のとんがり帽子に長いローブが印象的だった。


 僕は「夜風をさかなに飲むのがうまいんだ」と言うと彼女はクスリと笑い、顔を上げる。


 その顔は若く、妖艶な笑みを浮かべていた。

 しかしどこか冷めたような、悟ったような、そんな印象を僕は薄らと感じた。


「面白い人ね」


 その声は甘く、僕の脳裏に響く。酒の飲み過ぎだろうか。


「私ももらっていいかしら」


 そういうと彼女は隣に腰をおろし、置いてあったビンを取ると、そのまま飲み始める。なんと男らしい。


 それが彼女との出会いだった。


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